富士24時間スペシャル対談・星野一樹×中嶋一貴「もっとモータースポーツの楽しさを伝えたい」

2023年6月6日(火)14時20分 AUTOSPORT web

 5月27〜28日、静岡県の富士スピードウェイで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ第2戦『NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース』。さまざまな話題があったレースではあったが、そのうちの大きなトピックスのひとつが、ST-Zクラスのナニワ電装TEAM IMPULに加入した中嶋一貴だ。チーム代表でドライバーでもある星野一樹からのリクエストに応えたかたちだが、ふたりに今回の参戦のきっかけ、そしてふたりが目指すところを聞いた。


* * * *


■お祭りレースを盛り上げたい


──まず今回、ナニワ電装TEAM IMPULで“4人目のカズキ”が実現した経緯を振り返っていただけないでしょうか。
星野一樹(以下星野):
きっかけは、偶然でもありますが“カズキ”がナニワ電装TEAM IMPULのレギュラードライバーとして3人集まったことから始まり、僕としてはモータースポーツ界を盛り上げるために、冗談交じりで『3人カズキが揃いました。富士24時間だけドイツのカズキさん乗ってくれないかな』とSNSに書き込んだんですが、冗談のつもりだったのに一貴が反応してくれたんです。『ニュルブルクリンク24時間だったらいいですよ』と。ただ、そこでその話は終わっていたんです。そうしたら、スーパーフォーミュラ第1戦富士の時に、グリッドでトヨタの役員さんと一貴が近くにいたんです。そこで一貴から話しかけてくれて、『本当に24時間乗れませんか?』と言ってくれたんです。こちらとしては『えっ本当にいけるの?』と(笑)。トヨタさんとしては万々歳だと言うので、俺は『じゃあニッサンに話通しておく!』と返事したんです。『ウソでしょ?』と思いながらも、ニッサン/ニスモさんも『モータースポーツ盛り上げよう』とご理解をいただけて。トヨタさん、ニッサンさん、スポンサーの皆さんに理解いただいたことはもう感謝、感謝です。そんな経緯で、あのスーパースターの中嶋一貴選手がまさかのTEAM IMPULのクルマに乗ってくれることになりました。


中嶋一貴(以下中嶋):もともとSNSのやりとりがありましたが、その時は特に富士24時間に来る予定はなかったんです。さすがにそのために帰国するのもな……と思っていました。だから『ニュルに出るなら』と返事をしたんです。それがたまたま4月に帰国して、スーパーフォーミュラの開幕戦に行きましたが、その時に別のお仕事で富士24時間に出る用事ができて、たまたまTGRの立場のある皆さんと一緒にグリッドを歩いていたときに『そういえばこんな話をしていたんです』と伝えたんです。僕も最初は冗談半分なところもあったんですが、僕たち以上にTGRの方々がノリノリでして(笑)。『それ絶対やろう!』と言われ、『あ、いいんだ』と話が繋がりました。最近はモータースポーツ業界全体がそうだと思うんですけど、メーカーどうこうではなく、モータースポーツに携わる人がみんなで盛り上げていこうという雰囲気がすごくあると思いますし、こういうことに対して理解を得やすいというか、やっていける雰囲気になってきていることがすごく後押しになったと思います。あとは富士24時間だからこそ実現する部分もあると思いますし、すごくありがたい機会ですね。プロとしてやっている以上は楽しむだけではいけない部分もたくさんあるんですけど、僕らの立場で言うと、ちょっと楽しむ側にフォーカスしてもいいのかな? という部分もありますよね。やることはちゃんとやりますけど、やっぱり楽しさを伝えることも大事なことだとは思うので『面白いね』と言ってもらえることがいちばんだと思います。


──TGRとしてはノリノリだったということですが、ニスモさんの反応はいかがでしたか?
星野:
もちろん理解いただけていますし、『面白いね』と言っていただけました。でも、最初はやっぱり驚いてました。『一樹、とんでもない話もってくるね』って(笑)。でも僕としてもモータースポーツ自体を盛り上げたい気持ちもありましたし、一貴が言うように、シリーズ戦のひとつなので、真剣に戦う部分がありながら、プロ野球のオールスター戦じゃないですけど、『この人とこの人が一緒に戦ってすごいな』というのが年に一度でも観られると、ファンは盛り上がるじゃないですか。ファンの皆さんあってのモータースポーツだというのは間違いないですし、真剣にやっている中でもこうやって盛り上げながら、自分たちもモータースポーツを楽しんで、ファンの皆さんにも楽しんでもらえたら、それをこんなお祭りレースで実現できたらと僕も思いを伝えました。ニッサン/ニスモさんとしても『大いに盛り上げてくれ』と言っていただけたので良かったです。


──このレースウイークの前にインパルのファクトリーで打ち合わせをしたりとか、そういったことはなかったのですか?


中嶋:電話、メールがベースです。僕は日本に帰国したのが水曜日で、木曜日にいきなり走行という感じです。


星野:本当に実現したのが不思議な感じで、ずっとLINEのやりとりでここまで来て、木曜にパッと一貴が来て、いきなり『はい乗りま〜す』みたいな感じで来てます。俺ももうミーハーになっちゃって写真を撮ったりして(笑)。新鮮でした。

2023スーパー耐久第2戦富士 中嶋一貴と星野一樹


2023スーパー耐久第2戦富士 星野一樹と中嶋一貴

■ふたりの不思議な縁


──おふたりとも名ドライバーを父にもつ存在です。そして名前も同じ“カズキ”ですが、以前から意識していたようなことはあったのでしょうか。


星野:ずっとうらやましかったところはあります。俺はなかなか親の許しが出ずレースを始められなかったので、俺がカートを始めた時点で22歳だったんですけど、自分はKTという入門カテゴリーで。その時に一貴はもう全日本カート選手権で乗っていたのかな?


中嶋:そうですね。たしか全日本に出るか出ないかくらいの年ですね。


星野:だから『すごいな』と思って観ていたんです。俺たちは小さいときに遊んだこともあるんです。昔はモータースポーツ界の人たちが年末年始に家族みんなでハワイに行くことがあって、子どもの頃に会ったことも何回もあったし、大人になってからはあまり会わなくなったけど、子どもの頃から知っている存在がカートで全日本までいっているのが、すごいと感じるとともに、うらやましかったんですよ。同時期にキャリアを始めているわけでもないし、常に一歩先、二歩先を歩んで、世界に飛び立っていっている存在なので、正確にはうらやましいというより、ずっと尊敬のような目線で見ていました。


中嶋:キャリアで言うと、直接一緒に走ったことはあまりないんですよね。


星野:そうだね。


中嶋:僕はカートをやっている時に、もう先に一樹さんが四輪に乗ってステップアップされていました。ただ、立場や名前が一緒というのもあって、なんとなく勝手に意識というか、親近感というか、気になる存在でもありました。なんとなく、一樹さんがずっとレースを始められなかったという話も読んだりしていたので、そんな中でもステップを踏んで、プロとしてやられてきたところはすごく尊敬する気持ちがあります。そこからこうしてチーム運営もやられて、僕からすると常に先輩として先を行かれている、そういう存在ですね。とはいえ、やっぱり立場もあるし、名前もあるしで、一樹さんの引退のパレードの時もそうですが、いろいろとご縁をいただくこともありました。結局その時のことが今回のことに繋がっているような気もします。


──2021年のスーパーGT最終戦のときのことですね。そのパレードはどういった経緯で実現したのでしょうか?


星野:お互いに聞かされていなくて、GTアソシエイションさんが俺の引退セレモニーとして、一貴のレクサスに乗ってパレードランしようよと言ってくれたんです。なんというかその時から繋がっている気がしますね。


一貴:そうですね。実はあのときも偶然が多かったのですが、本当にいろんなご縁があってのことですよね。そもそも、今回のことだって僕の名前が『カズキ』だから起きていることで(笑)。


星野:そうだよね(笑)。


中嶋:今、たまたまそういう面白いことがやりやすい立場になっているところもあるとは思うので、それはやらなきゃ損な気もします。

2023スーパー耐久第2戦富士 星野一樹


2023スーパー耐久第2戦富士 中嶋一貴

■面白いことをどんどんやっていきたい!


──ある意味、父親同士はもうバチバチのライバル関係だったと思いますが、おふたりはちょっと違う関係性ですね。


星野:そうですね。お互いまったく違うルートでやってきてたから。俺からしたら、父親同士のライバル関係を出すのはおこがましいというか、申し訳ないという気持ちもありますけど、今までもぜんぜん話してこなかったのに、要所要所でそういう機会があるんです。さっきのパレードの時もそうですが、ふたりでクルマに乗る時間もあって、1周走るあいだに他愛もない会話もできたりした。その時に一貴からもWECから下りるような話も聞いて、そんなタイミングで一貴が運転するレクサスに乗って引退パレードをさせてもらったので、感動していたんです。


──おふたりは一線で戦うドライバーからは退き立場も変わってきましたが、お互いのいまの立場をどう見ていらっしゃいますか?


星野:一貴はそれこそ、TGR-Eの副会長としてドイツに住んで、組織を率いているのはすごいことですよね。やっている中身までは分かりませんが、俺は星野一義が築いてきたTEAM IMPULを運営して、自分のことでいっぱいいっぱいだけど、一貴はすごいところでやってるんだなと思います。大げさではなく、元F1ドライバーでル・マン24時間ウイナーという、雲の上のような存在ですね。


中嶋:僕からすると、一樹さんはドライバーからチームを率いる立場に移ってやられているのはすごいです。僕は組織の一員で、ある意味その組織も大きいので、僕がいなくても回ると言えば回るんですが、やっぱり日本のレーシングチームはそうではない。引っ張る人がいないと、絶対に回っていかない。それを僕自身も父親がやっているので、そういう場所を知っている。だから実際に自分にできるかなと思った時に『けっこうキツいよな』と思うところが正直あるんです(笑)。それを実際にやられていて、チームとしても昨年SUPER GTでチャンピオンを獲って、スーパーフォーミュラでもトップチームとしてやられているので、本当にすごいと思います。それにそういう姿を見せてくださっているので、僕らの世代のような、これから進路をどうしようか考えるようになったときに、僕だけではなく、後輩も含めて『やってやれないことはないのかな?』と思わせてくれる存在だと思うので、それはすごく大きいと思います。あまり重い話はしたくありませんが、日本のレーシングチームはこれからどうするの? というのは、業界としてはけっこう問題だと思うんです。誰かがやっていかなきゃいけない中で、一樹さんが引っ張っていってくれていることは大きいと思うので、すごく尊敬しています。この問題はちょっと笑えないというか、大事なことなので、それはすごく思いますね。


──今回、こうして富士SUPER TEC 24時間レースを盛り上げてくれていますが、おふたりはこれからモータースポーツ業界をどのように盛り上げていきたいとお考えでしょうか?


星野:やはり、今日のようなこういう機会を増やしていきたいです。いつも常識を壊していきたいわけではないですが、年に一度、こういうケースがあってファンも盛り上がって、でもお互いふだんのチームに戻ったらまたバチバチに戦って……というような機会を増やしていけたらと思っています。それにいつか一貴も日本に帰ってきて、日本でレーシングチームをやってもらって一緒に戦いたいですね。本当にそう願っています。


中嶋:僕も気持ちはまったく一緒で、まずシンプルにモータースポーツをもっと盛り上げたいと思いますし、TGRも面白いことをどんどんやろうよという雰囲気になっています。メーカーの垣根も関係なく、モータースポーツを盛り上げていこうという気持ちが根底にあるので、それを大前提としてやっていきたいですね。ただ、やっぱりモータースポーツが持続していくことを見据えての話なので、そのために僕もやれることやっていきたいと思います。僕は今の立場としては海外がベースですけど、海外でやらなきゃいけないこと、自分がやりたいことをやりつつ、自然に日本も巻き込んで一緒にモータースポーツを盛り上げていけるようにと思っています。乗れる時はやっぱり乗りたいですし、いちおうまだまだ乗れそうなので(笑)、それを活かして、少しでも楽しさを伝えていくのも大事なことだと思っています。

2023スーパー耐久第2戦富士 ナニワ電装TEAM IMPUL Zと星野一樹&中嶋一貴


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 星野一樹と中嶋一貴──。文中でも触れたが、偉大なドライバーを父にもつふたりは、それぞれのキャリアで多くの栄光を手にし、今や父に負けない存在となった。そして、奇しくもふたりのキャリアの中で駆ってきたレーシングカーには世界的なエンジンオイルブランド『Mobil 1』のロゴがついていた。この点について聞くと「ずっと一緒にタッグを組んでやってきたし、サポートしていただいているので、常に自分たちの一部でもあるし、逆にMobil 1の一部でありたいです。ずっと一緒に組み続けていきたい(一樹)」、「トヨタの育成プログラムの中でもお世話になってきています。WECについては、エンジンに関わるところで一緒に戦っていただいていますし、力強いパートナーです(一貴)」とそれぞれが全幅の信頼を寄せている存在だ。


 多くの話題を集めたレースでは、ペナルティやトラブル等もあり、期待どおりにはレース展開は運ばず8位に終わったが、一貴は「もっともっと走りたいくらいの気持ちがありました」と語った。富士SUPER TEC 24時間レースだからこそ実現したドリームチームは、レースの盛り上がりに大いに貢献することになった。

2023スーパー耐久第2戦富士 星野一樹と中嶋一貴


2023スーパー耐久第2戦富士 星野一樹&中嶋一貴の対談中には、小林可夢偉が乱入。「仕事のときはインタビュー中でもヘルメット被ってもらわないと」とその様子をトヨタ佐藤恒治社長にライブ中継していた。佐藤社長の狙いはヘルメット後部の千社札ステッカーを取材してもらいたい……ということだったようだが、この時は気づきませんでした。失礼しました。


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