岡田ジャパン世界9位、その先に見えたもの/犬飼元会長3

6月15日(金)6時0分 日刊スポーツ

2009-2010年シーズンの開幕戦バルセロナ本拠地カンプノウのVIPルームでのパーティーで、スーパースター故ヨハン・クライフ氏と(撮影・井上真)

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<言葉の中に見えたもの 〜W杯南アフリカ大会を戦って〜(3)>

 日本代表の完成度にかかわらず、初戦コロンビア戦のキックオフ(日本時間19日午後9時)はすぐに来る。8年前の岡田ジャパンも、国内の低評価の中で、ギリギリまで岡田武史監督はもがき、そして死中に活路を見いだす。犬飼基昭元日本サッカー協会会長(75)は、万事を尽くした岡田ジャパンを見守りながら、初戦カメルーン戦の笛を聞いた。「言葉の中に見えたもの 〜W杯南アフリカ大会を戦って〜」の最終回は、未来の日本サッカーへ、犬飼元会長の力強いメッセージが込められている。
  ◆  ◆  ◆   
 初戦カメルーン戦が迫った中で、岡田監督は最後の最後に練習マッチを組みたいと言ってきました。当初はモザンビークと交渉をしていましたが、うまくいかずに混乱しましたが、スタッフの執念でジンバブエ代表をジョージに呼ぶことができました。
 初戦カメルーン戦のわずか4日前です。そこで4−1−4−1のシステムを試したのですが、本田を1トップにして、阿部勇樹を守備的MFに配置しました。このシステムは岡田監督があらゆる場面を想定して用意していたもので、それを確認して岡田監督も腹が決まったと思いました。
 チームの不振、レギュラー入れ替え、主張のぶつかりあい、そしてシステム変更と、いろんなことがありましたが、それらを経てはじめてチームができあがり、大舞台で戦う準備が整いました。
 監督にしても、選手にしても、それこそ日本サッカー協会の職員にしろ、国際大会においては常にエンブレムの元に団結して戦うという気概が必要です。チーム内を知る者としては、意見の相違やあつれきなどは、珍しいことではありません。ただし、お互いの主張は異なったとしても、いざ試合となれば日本サッカーのエンブレムのもとに団結し、日本サッカーのために戦う。それは監督も会長も同じです。たとえ日本国籍以外の監督であろうと、日本代表監督に就任した以上は、日本サッカーのためにすべてをかけて職務を全うしなければなりません。
 南アフリカ大会では決勝トーナメントでパラグアイに敗れ、ベスト16という成績でW杯を終えました。ベスト16では日本戦を含む8試合が行われ、日本−パラグアイ戦をのぞく7試合は、いずれも90分で決着していました。日本はPK戦で敗れましたが、勝ち点1がつきます。これはFIFAの公式記録にも残っていることですが、PK戦はあくまでもトーナメントに勝ち進むチームを決めるためであり、記録としては引き分けとなり勝ち点1がつくということです。1次リーグの結果をもとに、決勝トーナメントの成績を踏まえ、私は当時のブラッター会長からこんな事を言われました。「負けた8カ国のうち、日本だけ勝ち点を取ったのだから、日本はこのW杯では9位ですよ」と、なぐさめてくれました。
 私は9位という結果に満足はしてません。やはり、もっと上を目指し、そして勝ち進んでいくに値するチームであったと今も思っています。しかし、世界の評価というのは、こういう少しの差を積み重ね、年月をかけながら先につなげていくものなんだと感じています。ブラッター会長も、アジアはサッカー界では苦戦が続く中、日本が決勝トーナメントに勝ち進んだことに対し、最大限のコメントをしてくれたのだと受けとめています。
 プレトリアでの戦いを終えた後、私は選手には「ご苦労さま」とねぎらいの言葉をかけました。それ以上は何も言いませんでした。厳しい状況で、バラバラになりそうなチームを立て直し、PK戦の最後まで全力で戦った選手たちには、それ以上の言葉はありませんでした。
 岡田監督を先頭に世界と堂々と戦った代表チームは、日本の誇りであると私は心から思います。ですから、監督、選手の張り詰めた気持ちを解き放つためにもそっとしておきました。
 チームをまとめようと腐心した岡田監督は、戦い終えたプレトリアの夜、1人で部屋にこもっていました。相当飲んでいたのでしょう。翌朝の彼は、たっぷり悔しい酒を浴びたことがうかがえました。
 今の日本代表も、取り巻く環境は決して望ましいとは言えません。しかし、逆境とも言えるこの状況の中でも、試合をするのは選手です。どんなに苦しい条件でも、成長することはできます。個々の選手が能力を発揮することができれば、南アフリカ大会と同じ軌跡をたどることができるかもしれません。さらに上を望める結果を得ることができるかもしれません。
 勝利を信じる気持ちはもちろんのこと、日本サッカーの1ページがロシアで刻まれる、その瞬間を見届けていただきたい。懸命にボールを追う選手を見ることで、その後に続く子供たちの熱い気持ちが沸き上がってきます。そうやって、日本サッカーは、ほんのわずかでも先に進んで行きます。厳しい環境、騒々しい最中でも戦うのがスポーツであり、世界中が注目する世界最大の祭典W杯です。
  ◆  ◆  ◆   
 年長者が、次世代を担う若者にしてあげられる大切なことがあります。それは、自分たちの背中に乗せ、そこからの景色を見せてあげることです。それが年長者の務めであると私は考えています。
 W杯においては世界基準をベースとした一定の結果が出ます。その世界基準の大会を経験した選手は、身をもって知った景色を、これから多くのファンや子どもたちに還元していくことができます。W杯で戦い、世界トップリーグでもまれた人材は、いつしか海外の指導者になり、やがては協会でリーダーシップを発揮する時代がやってきます。
 日本サッカーはワールドワイドの時代に入っています。選手たちはどんどん海外へ飛び立ち、世界の中で学んでいます。選手だけでなく、日本サッカーもドメスティックな価値観から、視野を広く持たなければなりません。インターナショナルのマナーを身に着け、国際的に活躍する場面において、はぐらかさず、相手としっかり向き合い、照れたり冗談でごまかさない振る舞いが求められます。
 最後に−
 私が知る岡田ジャパンの姿は真剣に、そして懸命に、チームづくりにすべてをささげた戦いでした。そのことを、いま一度、日本の皆さんに知っていただきたく、こうしてお話ししてきました。その上でロシアでの日本代表の戦いを見届けていただければ幸いです。
 すぐにキックオフの笛は鳴ります。長谷部を中心にチームが思いをひとつにして、コロンビアに立ち向かう姿を、私もしっかりと目に焼き付けたいと思います。
【元日本サッカー協会会長・犬飼基昭】
    (おわり)

日刊スポーツ

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