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立ち会えなかったキーパーソン 全米オープンに秘められたもうひとつのドラマ

スポーツニッポン6月20日(火)10時8分
画像:スティーブ・トラットナー受刑者
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スティーブ・トラットナー受刑者
 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】さほど長い事件原稿ではなかった。米AP通信の配信日は2006年9月7日。そこには当時36歳だった妻を殺害して懲役35年の刑を宣告された44歳のスティーブ・L・トラットナーという被告の名前が記されていた。

 離婚を申し出た妻の態度に激怒。肩をつかんで文句を言うと胸を押してきたので顔を殴った。さらに投げ飛ばしたあとに何度も殴り、ついに両手で首を絞めた…。そんな事件経過だった。しかも、ぐったりとなった妻の頭の横に睡眠薬の瓶を置き、まるで自殺だったかのような偽装工作まで行っている。情状酌量の余地はなかった。

 判決が下されると同被告は「自分自身の中では悲劇的な人生だと思っています。自分が生きたままで妻がいないのはフェアではない…。そうとしか考えられないんです」と泣きながら判事に向かって言葉を振り絞っている。あれから10年9カ月。もしゴルフの全米オープンがなかったら、彼の名前は永遠に忘れ去られていたことだろう。

 55歳になったトラットナー受刑者は元ソフトウエアのエンジニア。その一方でゴルフをこよなく愛していた。あるとき広大な牧場を目の当たりにしてある考えがひらめく。「ゴルフコースにしたら面白い」。そこで同じくゴルフ好きだった地元の投資家で大金持ちの知人に話をもちかけた。すぐに開発へと進んでいく。氷河に削り取られた地形はそのままコースの特徴として生かされ、ついに牧場はゴルフコースに生まれ変わった。

 それが今年の全米オープンの開催コースとなったウィスコンシン州エリンにあるエリンヒルズGC。深すぎるラフと、うねったフェアウエーとグリーンは各選手を悩ませたが、ビジュアル的にはなかなかの評判だった。

 同GCの開場は2006年8月。「プロジェクト・マネジャー」という肩書で月収2000ドル(当時のレートで約23万円)を得ていたトラットナー受刑者が事件を起こした7カ月後だった。だから彼は自分の夢が現実となったこのゴルフコースに一歩も足を踏み入れたことがない。全米オープンはゴルフコースから65キロ離れた刑務所内にあるテレビで観戦。そのとき、画面に映し出された光景をどう思ったのだろうか?4日間の大会を見ながら、私は姿なき“キーパーソン”のことをぼんやりと考えていた。

 今、彼は新たな弁護士を通じて再審を請求しようとしている。事件時には本人の動揺が激しく、詳細を当時の弁護士がきっちりと伝えていなかったというのがその理由。当時すでに夫婦関係は崩壊しており、何度も衝突を繰り返していたこと、さらに暴力行為に発展する前に妻がナイフを手していたことなども新たな事実として挙げられている。

 “人生のOB”となった痛恨の一打。リカバリーショットはエリンヒルズGC同様に一筋縄ではいかないだろう。刑期はあと24年。長い長い苦痛のラウンドを、彼はこれからどのようにこなしていくのだろうか? (専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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データ提供元:アニメキャラクター事典「キャラペディア