東海大菅生の忍者が大学1年で侍Jに。怪しい動きで好敵手の術を学ぶ

6月25日(火)7時17分 Sportiva

“忍者”は常に「ターゲット」のうしろにいた。練習前の円陣でも、ウォーミングアップのダッシュでも、練習後の居残り守備練習でも。まるで大将の寝首をかくために放たれた草の者のごとく、ある選手のうしろにピッタリとついて回っていた。

 練習が終わったあと、思わずこう声をかけてしまった。「ずっと児玉くんのうしろについていたね?」と。すると”忍者”はいたずらっ子のように笑って、こう答えた。

「はい、児玉さんを超さなきゃいけないので!」


侍ジャパン大学代表合宿で軽快な守備を見せる田中幹也(写真左)と児玉亮涼

 侍ジャパン大学代表候補50名が発表された際、候補リストのなかに亜細亜大の1年生内野手・田中幹也(東海大菅生)の名前を見つけて、生田勉監督の意図を推察せずにはいられなかった。

 生田監督は代表監督であり、亜細亜大の監督でもある。もちろん田中の高い能力を見込んだ面もあるだろうが、おそらく昨年の代表選手であり、田中と同タイプの児玉亮涼(りょうすけ/九州産業大3年/文徳)から学んでほしいという親心があったはずだ。

 田中は東海大菅生時代、2年夏の甲子園で数々の美技を披露し、”忍者”の異名をとった遊撃手である。神出鬼没の大胆なポジショニングに、フィールドをところ狭しと駆け回る軽やかな身のこなし。本人が目標とする菊池涼介(広島)を彷彿とさせるプレースタイルで大観衆を酔わせた。

 亜細亜大に進学した今春はリーグ戦開幕からベンチ入りを果たし、シーズン途中から二塁手の定位置を確保した。田中は最終節の東洋大戦の前に、生田監督からこんな言葉をかけられたという。

「東洋戦で活躍したら、代表合宿に連れていくぞ」

 その大事な最終戦で田中は4打数3安打2打点と暴れ回り、みごと代表候補入りを果たしたのだった。

 そして、6月22日から神奈川・平塚で開かれる大学代表選考合宿に臨むにあたって、田中は生田監督から「児玉に負けたら(代表に)入れないぞ」と発破をかけられている。ただの「研修」にするつもりはなく、田中は「勝負」するために平塚に来ていた。

 児玉は昨年の選考合宿で、当時2年生ながら他の内野手を圧倒するようなフィールディングを見せた遊撃手だ。身長165センチは、田中の166センチよりも低い。しかし軽やかで確実性の高い守備を評価されて代表入りを果たし、文字通り大学球界を代表する遊撃手になった。田中にとっては、間違いなく指針になる存在なのだ。

 選考合宿初日、田中が児玉のすぐそばで練習していると、キャッチボールの時間になって児玉から「一緒にやろう」と声をかけられた。児玉は田中に声をかけた理由をこう語った。

「タイプも同じですし、彼は内野手で唯一選ばれた1年生ですから。僕も去年は先輩によくしてもらってやりやすかったですし、ライバルという以前に去年経験したことを次の世代に伝えることが、代表にとって大事だと思うので」

 昨年は、練習後に2学年上の岩城駿也(現・西濃運輸)と大学野球ファンの記念写真を撮影する役割を担っていた児玉だが、1年を経てぐっと風格を増していた。シートノックに入ると、田中は二塁手のポジションから児玉のフィールディングに目を凝らした。

「ボールへの入り方、スローイングの正確性。何もかもうまくて、自分にはまだ足りないところだらけだと感じました」

 初日の練習後には居残り練習でショートのポジションに入り、児玉のすぐ次の順番で吸収できるものを探し続けた。田中は言う。

「ショートから二遊間寄りの打球を追うとき、僕はこれまで後ろに下がりながらボールを捕る直前になって前に行っていたんです。でも児玉さんは『前に行きながら追って、バウンドが合わなければ後ろに下がって合わせる』という考えでした。そんな考えもあるんだと刺激を受けながら、いろいろと試してみました」

 一方の児玉も、田中の守備を見て「俊敏性があって上手ですよね」と大きな刺激を受けたようだ。

 田中は練習中に測定したニ盗でトップタイの3秒27をマークするなど、快足でもアピールした。打撃面も大学入学当初は木製バットへの移行と投手のレベルの高さに戸惑ったものの「自分に合うバットを見つけて振れるようになりました」と手応えを深めている。

 田中は、選考合宿中の紅白戦で5打数1安打1死球1盗塁と、まずまずの結果を残した。一方の児玉は3打数1安打2四球。わずかな実戦機会で「どちらが上」とは言いがたい内容だったが、やはり今年の選考合宿でも児玉の安定感のあるフィールディングはシートノックから際立っていた。

 3日間の選考合宿を終えた23日、発表された大学日本代表24名のなかに児玉と田中の両名とも名前があった。昨年も選ばれた児玉は順当として、田中の選出はサプライズにも感じられる。だが、生田監督が選考する上で重視すると語っていた「複数のポジションを守れる選手」「実戦で走れる選手」というポイントに合致したのだろう。

 7月16日に開幕する日米大学野球選手権に向けて、田中はさらに児玉の近くで貴重な経験を積むに違いない。そしてそれは、田中がこれから後進に語り継いでいく大学球界の財産になるだろう。

 とはいえ、そんな田中でも競争の厳しい亜細亜大ではレギュラーポジションの確約があるわけではない。田中本人は二遊間どちらも守れるようになりたい希望を持っているものの、亜細亜大のレギュラー遊撃手は矢野雅哉(3年/育英)という名手である。田中は「矢野さんほどの強肩の持ち主は選考合宿にもいませんでした」と語り、おどけるようにこう続けた。

「正直言って、矢野さんがいなければ自分がショートなのに……と思うこともありますよ。やっぱり大きな存在です」

 目の前にそびえる壁を越えようともがき、挑戦する日々。その先に、きっと大学球界を代表する内野手として君臨する”忍者”の近未来があるに違いない。

Sportiva

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