今季欧州CL総括。次のサイクルに入って覇権を握るクラブはどこか?

6月28日(金)17時37分 Sportiva

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.70

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎——。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回のテーマも、今季欧州チャンピオンズリーグ(CL)の総括。有力クラブの戦いを振り返り、今後の補強ポイントを語り合った。


CLで優勝して胴上げされるリバプールのクロップ監督

——前回は、お三方にリバプールとトッテナムによるチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦を振り返っていただきました。そこで今回は、決勝戦に残った両チームを含めた有力チームの戦いぶりから、今季のCL全体を総括していただきたいと思います。

倉敷 まずファイナルを戦った両チームから。サポーターたちは優勝、あるいは準優勝という結果に黄金期の到来を夢見るでしょうが、サイクルで見ると現在の両チームはどのような状況にあるのでしょう。まずは優勝したリバプールから。ここからどう上積みすべきか、成熟度が増したことで来季も王者の道を歩んでいくのか。中山さんは率直にどんな印象をお持ちですか? 

中山 ユルゲン・クロップが監督に就任したのは2015年10月だったので、ここまで約4シーズンが経過したわけですが、チームの成熟度という点も含めて、現在持っている力をほぼ出し尽くした感のある今季がピークのように感じます。当然、今季はCLを制したので、来季からは念願のプレミアリーグのタイトルを目指すことになると思いますが、そのためには現状維持ではなく、チームに何らかの変化を加えながら進化させてく必要があるのではないでしょうか。

 たとえば、現有戦力を単純に比較した場合、今季のプレミア王者のマンチェスター・シティには質の部分も量の部分も及ばないという印象を受けてしまいます。フロントがどのように考えているのかわかりませんが、本当にリーグ戦のタイトルをほしいと考えるなら、夏の移籍マーケットでそれなりの補強をしないと難しいと思います。かつてサー・アレックス・ファーガソンが率いた時代のマンチェスター・ユナイテッドは、そこが上手でした。勝っているときも常にチームに変化を加えて刺激を与えることで、サイクルを終わらせないような工夫がなされていました。

 そういう意味では、とくに鉄板の3トップに代わる新しい組み合わせの発掘が、来季に向けた課題と言っていいかもしれません。もちろん、クロップをバイエルンに引き抜かれないという前提の話になりますが。

倉敷 リバプールのフロントもファンもリーグ制覇を強く望んでいますが、国内リーグの王者シティとの力の差はどの程度か、お二人はどう見ていますか?

中山 長いリーグ戦を戦うチームとして比較した場合、現時点ではシティのほうが少し上にいる。たしかに成熟度ではリバプールに軍配は上がりますが、選手の組み合わせ、欠場者が出た場合のやり繰り、停滞したときの変化のつけ方などはシティが上回っている印象があります。シーズンは長いうえ、複数の大会を並行して戦うことを考えた場合、そこがネックになってしまいます。

小澤 強度の高いリバプールのサッカーはシーズンの終盤に疲労、ケガ人が出てしまうという問題があります。常に緊張の糸を緩められないサッカーで、それを避けるためには、今季以上にボールを握ったり、中盤でじっくりゲームメイクする時間がほしいと感じます。個人的には、前線3人にプラスアルファできるレベルの戦力を加えたうえで、とくにインサイドハーフの補強が必要と思います。ボールコントロールしながらハードワークもできるタイプの選手がベストでしょう。

 いずれにしても、今季はプレミアで1敗しかしなかったにもかかわらず優勝できなかったことを考えても、シティを上回るためには夏の補強は絶対に必要だと思います。

倉敷 今季はモハメド・サラーが執拗にマークされながら、サディオ・マネが大きく成長し結果を残したシーズンでした。ただ、同様の進化が来季も生まれる保証はありませんし、マネも来季は厳しいマークを受けるでしょう。今季は故障が多かったロベルト・フィルミーノにも一抹の不安はあります。そう考えると攻撃陣に関しては今季がピークだったようにも思えますが。

小澤 決勝戦のパフォーマンスにも出てしまいましたが、長いシーズンをあれだけ同じ3トップで戦い続けてしまうと、シーズンの終盤に疲労が露呈してしまうのも仕方ないですよね。

倉敷 中山さんもおっしゃいましたが、クロップが引き抜かれる心配もあります。リバプールよりも大きなお金を持っているチームがドイツにあります。

中山 ドイツ人にとって一番名誉な仕事ですからね。それが今夏ではないとしても、いずれはバイエルンの監督になるでしょうね。

倉敷 見ていて楽しいリバプールなので、もう少しこのサイクルが続いて欲しいですね。では続いてスパーズのサイクルについて。小澤さんはどう見ていますか?

小澤 今季のスパーズは、もともと補強をせずにシーズンを戦っていたので、来季以降の伸びしろはかなり残されていると思います。もちろんマウリシオ・ポチェッティーノ監督が残るという前提ですが、夏の補強次第でまだまだ強くなるのではないでしょうか。お金を使わずに決勝まで勝ち進んだことで資金は豊富にあるでしょうから、選手層に厚みを持って臨める来季は大いに期待できると楽観的に見ています。

倉敷 近年はエネルギーを大量に使うサッカーの時代でスパーズもそのカテゴリーに入ると思いますが、選手の消耗という点での不安はどうですか。たとえばモウリーニョ時代のチェルシーは、選手が次々と疲弊するのでフレッシュな選手の獲得をフロントに要請し続けていました。来季のポチェッティーノは新しい選手を買ってもらえそうですが、インもアウトもどんな補強になるのか気になりますね。

中山 たしかに今シーズンもケガ人は多かったですよね。おっしゃるとおり、近年はスケジュールのみならずサッカーの中身もハードになってきているので、CL優勝を狙おうとするなら2チーム分の選手層が求められます。上位が資金力のあるクラブで占められるようになって久しいところですが、その背景には故障者が増加しつつあるという問題も見逃してはいけないのかもしれません。

 それと、スパーズのサイクルで言うと、スタジアムが新しくなったことで安定した収入を見込めるので、今後も常にCL出場圏内をキープし続けるチームになると思います。ただ、CLで安定して上位を狙えるレベルになれるかというと、まだそこまでの道のりは長いと感じます。次のフェーズに移るまでには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。

 クリスティアン・エリクセンに移籍の噂がありますが、それはハリー・ケインやソン・フンミンといった主力たちも同じで、まだスパーズは引き抜くクラブというよりも引き抜かれるクラブという域にあるので、もっと上を目指すなら、クラブのブランド力を上げていくという地道な作業も必要でしょうね。

倉敷 ではそれ以外のチームに話を移しましょう。今シーズンは決勝トーナメントに入ってから大きなアップセットがいくつもありました。バルセロナ、レアル・マドリー、ユベントス、パリ・サンジェルマン、バイエルン……。いずれも優勝候補に挙がっていた強豪です。敗退理由はさまざまですが、チームのサイクルという点ではどのような状況におかれているのか? 小澤さん、バルサについてはどう見ていますか?

小澤 今季のバルサは、安定感はあったと思いますが、メッシ頼みの傾向がより強くなった印象です。リバプールとの準決勝第2戦については説明が難しいところですけど、チームのサイクル的には、ここ数年のツケを払わざるを得ないような状況だったと思います。とくにネイマールが去って以降、アタッカーの補強が成功してない。ウスマン・デンベレ、コウチーニョは1億ユーロ超えの移籍金に見合ったパフォーマンスを見せていませんし、あれだけのお金を使っているわりには、その効果が出ていないというのが実情だと思います。

倉敷 フロントがすべきことは何ですか?

小澤 やはり適正な金額で適正な選手を連れてくるということだと思います。

倉敷 獲得すべきはスアレスのポジションなのか、それともメッシの近くでプレーする選手なのか。ネイマールのような選手がいれば、負けているゲームでもグイグイ行って、戦況を変え、アップセットを免れた可能性もあったと思いますが。

小澤 そうですね。以前、パリに対して大逆転勝利を収めたときは、ネイマールがチームを引っ張っていました。メッシがマークされるからこそ、「メッシに代わって俺がやる」というタイプの選手が必要とされていると思います。でも、クラブ史上最高額の移籍金を投じて獲得したコウチーニョはメッシに遠慮をしたプレーを続け、なかなか輝かないという現状があります。それを考えると、彼を超えられるような選手を補強しないといけません。それがアントワーヌ・グリーズマンなのか、ここに来てネイマール復帰の噂も出てきましたが、いずれにせよコウチーニョが放出され代わりにビッグネームを獲ってくるのは間違いないでしょう。

倉敷 中山さん、パリはいかがですか?

中山 パリのサイクルを考えた場合、ネイマールを獲得した時点でかなり本気度は上がっていると思います。でも、その肝心のネイマールが2シーズン続けて大事な終盤戦で負傷して戦列を離れてしまった。CL優勝を狙うチームの実力はシーズン後半戦に見えてくるものだと思うので、そういう点では、ネイマールが加わってからのパリのマックス値はまだ見えていないと思います。

 ただ、最近のネイマールは頻繁に負傷するようになっていて、コパ・アメリカも直前でケガをして離脱したうえ、ピッチ外のスキャンダルなど心配になってしまう要素が多すぎます。ネイマールが万全で戦えない状態が長く続くと、キリアン・エムバペの心もパリから離れてしまうのではないでしょうか。

倉敷 クロップというドルトムントでの先輩が先にチャンピオンズリーグで結果を出しました。パリを率いるトーマス・トゥヘルはクラブと契約を延長しましたが、現在どの段階まで優勝を狙えるチーム作りは進んでいるのでしょうか。トゥヘルも少しやり方を以前と変えていますが、手応えはどうでしょうね?

中山 今季はシーズン前半戦と後半戦がまったく別のチームになった印象があるので、はっきりとした手応えは得られていないのではないでしょうか。とくにユナイテッドに敗れたあとの戦いぶりを見ていると、トゥヘルの力のなさが見えてしまいました。それは、マネジメントというか、選手をコントロールする部分ですね。彼はパリに来てスター選手に迎合するところから自分の立場を作り上げた部分があるので、選手のモチベーションが低下した状況で鞭を入れることを恐れたがゆえに、グダグダなシーズンの終わり方になってしまったのだと思います。

 ただ、サイクルの変化という点に関しては、アンテロ・エンリケに替わってスポーツダイレクターのポジションにレオナルドが復帰したので、ダニエウ・アウヴェスの退団が発表されたように、いくつかの変化が生まれることは間違いないでしょうね。

倉敷 小澤さん、レアル・マドリーについてはいかがですか?

小澤 この夏にこれだけの補強をしているので、来季は少し立て直しが図れると思います。エデン・アザールは左サイドでプレーすると思いますが、問題なく活躍するでしょう。それによってヴィニシウスが右サイドに移って、今季とは違ったプレーを見せてくれるのではないかという期待感もあります。これに1トップのカリム・ベンゼマを加えた新3トップが、来季のカギを握るでしょうね。

 あとは、中盤にポール・ポグバかエリクセンが加われば、また新しいサイクルが始まる気がします。いずれにしても、来季はラ・リーガでもCLでも主役の座を取り戻すという意気込みが伝わってくるので、間違いなく面白くなるのではないでしょうか。

倉敷 中山さん、ユベントスのサイクルについてはどうでしょう?

中山 今季の前半戦を見たとき、多くの人がユベントスを優勝候補筆頭と見ていたわけですが、シーズンが進むにつれてトーンダウンした印象がありました。たしかに今季も国内リーグでは無敵だったのでサイクルは続いていると思いますが、マッシミリアーノ・アッレグリが退任して、マウリツィオ・サッリが新監督に就任したので、来季はこのサイクルが続くのか、それとも終わるのかというターニングポイントになると思います。

 ただ、昨季にロナウドを補強してCL制覇への本気度は確実にアップしているので、今夏の補強状況によっては、さらにグレードアップする可能性もあります。問題は、サッリがCLを狙うに相応しい監督かどうか、という点でしょうね。チェルシーで露呈したように、ビッグクラブの監督としては経験が不足しているし、タイプ的にもユベントスに合っているのかどうかは微妙なところではないでしょうか。

倉敷 たしかにかつてナポリを率いたサッリはユベンティーニから嫌がられる可能性があります。ティフォージから愛されるためには結果が必要ですね。CLのみならず国内リーグ連覇が続くのかにも注目です。

 次回は、多くの話題を集めたVARの影響など、いろいろな視点から今季のCLを振り返りつつ、来季に向けた傾向と対策について話してみたいと思います。

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