スーパーフォーミュラ・ライツの新型エンジン搭載車両が走行開始。現行車より1.4秒タイムアップ
2023年6月29日(木)18時49分 AUTOSPORT web
6月29日、三重県の鈴鹿サーキットで全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権第3大会の専有走行がスタートしたが、9時からの1時間30分、13時からの1時間30分と2回の専有走行が行われるなか、週末のレースに参戦する12台とともに、近い将来のシリーズ導入を目指したスーパーフォーミュラ・ライツ用新エンジン搭載車両がテストを開始した。
スーパーフォーミュラ・ライツは、これまで全日本F3選手権時代から継続して使用してきた2リッター自然吸気直列4気筒エンジンのマルチメイクで争われてきたが、シリーズを運営するSFLアソシエーションでは、将来に向けサステナブルでローコストというコンセプトを目指したワンメイクエンジンの開発を行ってきた。
このコンセプトに向け開発されたのが、『TGE33』という形式名が与えられた新型エンジン。トヨタGRヤリスに搭載されている1.6リッター直列3気筒ターボのG16E-GTSをベースに、トムスが開発を担当しており、現行エンジンを大きく上回る280PS(予定)を発揮する。
すでに新型エンジン搭載車両はイタリアのモデナでシェイクダウンが行われ、国内へ輸送。この日、第3大会に向けた専有走行のなかで、現行車両に混ざって国内初走行が行われた。今回は参戦チームのうちB-MAX RACING TEAMが走行を担当し、エンジンを製作したトムスのスタッフとともに作業を実施。2017年の全日本F3チャンピオンである高星明誠がテストドライブを担当した。
写真もすでにSFLアソシエーションから公開されているが、現行のダラーラ320からはエンジンカウルが変更され、サイドポンツーンにルーバーが追加されているものの、外観上はそれ以外の変更はないが、これまでF3時代からおなじみだった砲弾型のインダクションポッドがなくなり、見た目はスリムな印象を受ける。
またエキゾーストノートはターボカーらしく低い、レーシーなものとなった。そして注目すべきはタイムで、専有走行1回目では1分54秒756を記録すると、2回目では1分52秒924までタイムアップ。現行車両最速だった平良響(モビリティ中京 TOM’S 320 TGR-DC)から1.457秒も速いタイムを記録した。
ステアリングを握った高星は、コロナ禍の2020年に一度ダラーラ320をドライブしレースを戦った経験もあり、シャシーは初めてではない。率直な新エンジン車のインプレッションを聞くと「ストレートは速いです。1.6リッター3気筒ターボなので、スタンダードな状態で今までより10km/hくらいは速くなっていますね。立ち上がりよりもエンドが速いです」という。
補機類が増えていることもあり、わずかに重量も増えているが、エンジン自体がもつ重心の変化でコーナリングも変化を感じていると高星は言う。「今回はB-MAX RACING TEAMで走らせていますが、チームのセットアップをしているわけではないので、今後各々のチームでセットしたときにそれがヘルプしてくれるかどうか」とセットの変更は必要になりそう。
ちなみに、サウンドが低くなっていることから、その点で乗っている“気持ち良さ”は今までのものの方に分があるよう。また、タイム差については「単純にパワー分だと思います。スタンダードに加え、パワーを出すモードも試しましたが、その方法を試すと、ストレートで20km/hくらい今までと違いましたね」と高星は語った。
テスト初日はトラブルもなく、順調に終えることになったが、エンジン開発を担当したトムスの前田光彦氏に開発にあたってのプロセスを聞くと「もともとエンジン自体が性能が出ているものですので、その点の心配はなかったです。ただ搭載にあたってドライサンプにするためにオイルパンとヘッドカバーの構造を変更しました。あとはドライサンプのためのオイルポンプを外付けしています」という。
「どちらかというと、苦労したのはECUのセッティングですね。とはいえ、今までのように“中”を変えているエンジンではなく、純正の素材を活かして仕立てています。車体ではターボになったのでインタークーラーがついたこと、熱量が増えたことでラジエターも大きくなりました。またオイルクーラーにも水冷のヒートエクスチェンジャーを装着しました」
市販車のエンジンを活用することで、コストもかなり下げることができそう。またパワーは現行より「2〜3割アップ」、それでいてメンテナンスも年間1万kmはオーバーホールせずに使うことを想定しているとのこと。これはエントリー増加に向けて非常に大きなメリットとなりそうだ。
パワー増加について、高星は「今までスーパーフォーミュラ・ライツはエンジンパワーに対してダウンフォースが大きすぎるところはありましたが、その割合を変えていく方向にあると思うので、その点ではうまくいっていると思います」とシリーズにとっても良い方向に進むのではないかと語っている。今後、新エンジンが順調に開発されることに大きな期待が寄せられそうだ。