脆さが目立ちタイトル防衛に黄色信号。エース2人の母国ラリーが正念場【WRC前半戦総括:ヒュンダイ編】

2021年7月11日(日)11時45分 AUTOSPORT web

 今年も伝統のラリー・モンテカルロで開幕したWRC世界ラリー選手権は、6月下旬に開催された第6戦ケニアの閉幕とともに2021年シーズンの前半戦を終え、7月15〜18日に行われるエストニア・ラウンドからはシーズン後半戦を迎える。


 そんなWRCではトヨタ、ヒュンダイ、Mスポーツ・フォードという3つのマニュファクチャラーがFIA世界選手権タイトルの獲得を目指し、シリーズ最高峰クラスに参戦中だ。今季はここまでの戦いでトヨタが6戦5勝という他を圧倒する成績を残す一方、マニュファクチャラー選手権2連覇中のヒュンダイは1勝のみと苦しい展開。また、純メーカーワークスチームではないMスポーツはさらに厳しい状況に置かれている。


 このように、はっきりと明暗が分かれるかたちとなった今季前半戦における各陣営のラリーについて、豊富なWRC取材経験を持ちJ SPORTSでの解説やオートスポーツ本誌でもおなじみのモータースポーツジャーナリスト/フォトグラファー、古賀敬介氏に各社のチーム体制やマシンの出来、起用ドライバーなどに焦点を当てて総括してもらい、3陣営の戦いぶりを100点満点で採点してもらった。最終回となる今回は、マニュファクチャラー選手権3連覇を狙うも、手痛い取りこぼしが続くヒュンダイ編だ。


* * * * * * *


■ヒュンダイ・シェル・モビスWRT


マニュファクチャラーランキング:2位/214ポイント
ドライバーランキング
 ティエリー・ヌービル:3位/77ポイント
 オット・タナク:4位/69ポイント
 ダニ・ソルド:8位/30ポイント
 クレイグ・ブリーン:10位/24ポイント

















































DriverRd.1Rd.2Rd.3Rd.4Rd.5Rd.6
タナクR1位4位21位24位3位
ヌービル3位3位3位36位3位R
ソルド5位2位17位12位
ブリーン4位8位


 WRC前半戦が終了した時点で、ヒュンダイはかなり厳しい状況に追い込まれている。6戦を戦い、優勝は第2戦『アークティック・ラリー・フィンランド』でオット・タナクが獲得した1回のみ。
 
 総合2位についても、1回しか獲得できていない。その結果、ドライバー選手権でもマニュファクチャラー選手権でもトヨタに大差をつけられ、後半戦で巻き返すのは非常に難しいと言わざるを得ない。


 とはいえ、彼らのi20クーペWRCが遅いわけでも、ドライバーが遅いわけでもない。参考までに、第6戦サファリ終了時点でのSSベストタイム獲得率を見ると、1位はセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)で約30%、2位タナクが約24%、3位はエルフィン・エバンス(トヨタ・ヤリスWRC)の約18%、4位はティエリー・ヌービルで約17%となっている。マシン単位の獲得率で比べても、リザルトの差ほど大きな差はない。


 ではなぜ、ヒュンダイはかくも不調なのかといえば、マシントラブルとアクシデントが多いからに他ならない。

右リヤサスペンションの損傷により総合首位を走りながらリタイアとなったティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC) 2021年WRC第6戦ケニア
第2戦アークティック・ラリー・フィンランドでは、オット・タナクとティエリー・ヌービルがワン・スリー・フィニッシュを飾った
第2戦アークティック・ラリー・フィンランドで3台目のヒュンダイi20クーペWRCを駆り総合4位となったクレイグ・ブリーン


■度重なるサスペンショントラブルが、チームを勝利から遠ざける


 今季、ヒュンダイ勢が首位を走りながらも自滅で優勝の権利を失ったラリーは少なくない。そして、そのうちの多くはサスペンションの破損によるものであり、それがドライビングミスによるものなのか、マシンの弱さが原因なのかは、明らかにされていない。


 ヒュンダイは、チーム代表がミッシェル・ナンダンからアンドレア・アダモに変わってから、一気に秘密主義に転じた。元々エンジニアでもあるアダモは、マシンのメカニズムや問題について語ることを極端に嫌う。だから、真相はなかなか明らかにならないが、ドライバーのコメントを聞く限り「これくらいで壊れるようでは」という不満の気持ちが見え隠れする。


 サスペンションのトラブルは、直近のグラベル(未舗装路)ラリー3連戦で頻発した。やや荒れた路面のグラベルは本来、ヒュンダイi20クーペWRCが得意とするサーフェスであり、直近の3戦、すなわちポルトガル、サルディニア(イタリア)、サファリ(ケニア)もそのようなラリーだった。


 ヒュンダイは必勝を期し、ワークスの3台目には有利な後方の出走順でスタート可能な、スポット参戦ドライバーを投じもしていた。実際、その戦略自体は比較的うまく機能し、トヨタ勢、とくに先頭スタートを多く務めたオジエを苦しめた。


 しかし、前述のようにサスペンションの破損で少なくとも3戦を落とし、サファリではタナク車のフロントウインドウがヒーターの動作不良で曇ったため、大きなリードを失った。ステージ終了後、タナクは「素晴らしい品質だ」と吐き捨てたが、彼のフラストレーションはかなり限界に来ているようだ。


 とはいえ、今後挽回のチャンスはまだある。次戦エストニアはタナクの地元で、昨年優勝を飾った1戦だ。また、その後のWRC初開催イベント、イープル(ベルギー)はヌービルの地元で出場経験もある。


 この2戦はヒュンダイにとって大きなチャンスであるが、逆にいえば絶対に落とせない2戦である。もし、この2戦でも優勝を逃したとしたら、今季のタイトル争いは諦めざるを得ないだろう。


■採点……【65点】


計4回の表彰台を獲得し、ランキング3位につけているティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC)
第4戦ポルトガルで2位表彰台を獲得したダニ・ソルド/ボルハ・ロザダ組
サスペンショントラブルが相次いでいるヒュンダイi20クーペWRC
第6戦ケニアではドライバー側のウインドウヒーターのトラブルに見舞われ、優勝を逃したオット・タナク

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