ユーロ2024決勝に臨んだイングランドの秘策と打ち破ったスペインの違い
2024年7月16日(火)18時0分 FOOTBALL TRIBE

日本時間7月15日にドイツ、ベルリンのオリンピアシュタディオンで、UEFA欧州選手権(ユーロ2024)決勝スペイン代表対イングランド代表の試合が行われた。結果はスペインが2-1で勝利し、史上初となる7戦全勝で、史上最多となる4度目の欧州王者に輝いた。
2大会連続で決勝戦で涙をのみ、またしても初優勝はならなかったイングランド。今大会はチームの調子がなかなか上がらずに、システムを【4-4-1-1】から準決勝オランダ戦(7月11日2-1)では【3-4-2-1】に変更し機能した。しかし、ガレス・サウスゲート監督は、なぜ一度は捨てたはずの【4-4-1-1】で決勝戦に臨んだのだろうか。その心の内を読み解いてみよう。

イングランドの布陣に込められた意図とは?
決勝戦でスペインは、準々決勝ドイツ戦(7月6日2-1)以来継続してきた【4-2-3-1】で臨んだ。対するイングランドの試合開始時のシステムは【4-4-1-1】だった。
イングランド選手の配列は、右からDFがカイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)、ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)、マルク・グエイ(クリスタル・パレス)、ルーク・ショー(マンチェスター・ユナイテッド)。
MFがブカヨ・サカ(アーセナル)、コビー・メイヌー(マンチェスター・ユナイテッド)、デクラン・ライス(アーセナル)、ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)。
トップ下にフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)、FWにハリー・ケイン(バイエルン・ミュンヘン)だ。
イングランドは今大会で【4-4-1-1】を多用してきたが、重要な変更点があった。以前は基本的にフォーデンが左MFで、ベリンガムがトップ下だったのに対して、スペイン戦では入れ替えてベリンガムが左MFでフォーデンがトップ下になった。
格下を相手にしたこれまでの戦いでは、ベリンガムの得点力を期待して前線に近い位置に配置したのだろう。一方で、スペイン戦では右ウィンガーのラミン・ヤマル(バルセロナ)対策として、身体能力の高いベリンガムを当ててきた形だ。
今大会でコンスタントに高いパフォーマンスを発揮してきたスペインに対して、イングランドは守備を主眼に置いた。試合が開始するとDF4枚とMF4枚で2列の守備ブロックを形成。フィジカルが真骨頂のイングランドが引いて守りを固めると、崩すのは至難の業だ。

スペインがボールを支配も、イングランドの計算通り進んだ前半
前半のボールポゼッションはスペインが66%だったのに対してイングランドは34%だった。圧倒的にスペインがボールを支配したが、後方でパスを回すことが多く、イングランド陣内の奥深くまで入り込むことはなかなかできなかった。
スペインのポゼッションを後方に追いやり、ペナルティエリア内でチャンスらしいチャンスを与えなかったイングランドは、逆に数少ない攻撃でスペインのゴールを脅かした。一見してスペインのペースのようだが、イングランドとしてはプラン通りの前半だった。
ハーフタイムにドレッシングルームに引き上げていくイングランドは「この調子だ」と好感触をつかんでいたに違いない。一方でスペインはボールを支配しながらも、首をかしげながら戻っていったことだろう。
前半の攻撃回数はスペインの34回に対してイングランドは12回。シュート本数は4本に対して3本だった。データ上はスペインが上回っているが、心理的にはイングランドのほうが優勢だった。
実力が拮抗したチーム同士の対戦ながら、スペインが誇る圧倒的な攻撃をまずは受け止めて、リアクションで勝機を見出すというのがイングランドのゲームプラン。前半は、ほぼ完璧といってよかった。チームが一丸となって守りを固めスペインを封じ込めることができた。
後半のスペインは、どのようにファイナルサード(ピッチの前方3分の1のエリア)に侵入するかを考えていたに違いない。

警戒していたヤマルに破られると、攻撃に転じる
イングランドの戦略は後半に入ると、ほころびはじめる。47分にスペインは、右サイドでボールを受けたヤマルがカットインし、ニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)の先制点をアシストした。やはり、警戒していたヤマルに破られてしまった。
イングランドは追い上げをはかるが、逆にスペインの術中にハマっていく感があった。そこでサウスゲート監督は61分にワントップのケインに代えてオリー・ワトキンス(アストン・ビラ)を投入。そして70分には、メイヌーに代えてコール・パーマー(チェルシー)を投入。すると3分後の73分にベリンガムのパスからパーマーが同点弾を決める。
見事なまでのベンチワークだが、そこにもサウスゲート監督の緻密な計算があった。システムは【4-4-1-1】で同じながらポジションの変更を行ったのだ。ベリンガムをセントラルMFにして、フォーデンを左MFにすると、パーマーをトップ下に入れた。投入したばかりのエネルギーのある選手を前線に近いところに置き、よりゴールに直結するプレーにからませることを意図したのだ。

微妙な駆け引きも最後は力負け
イングランドは同点弾の勢いのまま畳み掛けずに、やや自陣に引いて振り出しに戻したことでよしとする感があった。それだけ、スペインの攻撃は脅威的だったのと、延長戦まで視野に入れていたこともあるだろう。
試合終盤は、どちらかが1点を奪えば、それが決勝弾になりそうな状況。最後は両チームが得点を狙いに行ったが、打ち合ったらスペインが一枚も二枚も上手だった。86分に流れるようなスペインの攻撃から、こちらも途中出場のFWミケル・オヤルサバル(レアル・ソシエダ)が追加点を挙げる。
サウスゲート監督は89分にMFフォーデンに代えてFWイバン・トニー(ブレントフォード)を投入し攻撃の圧力を高めるも、挽回する時間はもうほとんど残されていなかった。
試合終了時には、ボールポゼッションがスペインの63%に対してイングランドが37%、攻撃回数は60回に対して31回、シュート数は14本に対して9本と差がついた。自分たちのプレーをすれば勝てると踏んだスペインに対して、リアクションサッカーに活路を見出そうとしたイングランド。両者の戦略が実力差を物語っていた。

欧州制覇は母国イングランドの至上命題
表彰式では、英国王室ウィリアム皇太子がイングランド・イレブンの労をねぎらった。サウスゲート監督は涙をぐっとこらえ、最後まで英国紳士を貫いた。勝利の女神は微笑まなかったが、敗れたイングランドは、チームが一丸となりこれ以上ないパフォーマンスを発揮した。
欧州選手権で2大会連続の準優勝は立派な成績だ。それで納得できないのは、イングランドがフットボールの母国であるがためだろう。また4年後に、悲願の初優勝を目指すことになる。