宮司愛海アナも驚いた内村航平選手の決断。代表内定後の「言葉」に感じた凄み

7月17日(土)11時0分 Sportiva


宮司愛海連載:『Manami Memo』第25回

フジテレビの人気スポーツ・ニュース番組『S-PARK』とweb Sportivaのコラボ企画として始まった『Manami Memo』。第25回は、前回から引き続き宮司アナが取材を重ねてきた体操界の「レジェンド」について。

取材を重ねてきた内村航平選手について記した宮司愛海アナ

◆東京五輪で目に焼き付けたい! 絶対注目の美女アスリートたち

 北京から3大会連続でオリンピックに出場し、個人総合連覇(ロンドン、リオ)や団体のメダル獲得(北京・ロンドン銀、リオ金)を成し遂げてきた体操界の「キング」こと内村航平選手。

 度重なる怪我や、個人総合から鉄棒一種目へ専念した決断の背景、4度目のオリンピックとなる東京への切符を掴むまでのまさに「波乱」の道のりを、これまで12回行なったインタビューの中で伺った「内村航平選手のことば」から振り返っていきます。

 後編となる今回は、激動の2020年、そしてオリンピック出場の切符を掴むまで。

【オリンピック延期と人生最大の決断】

 2020年、オリンピックイヤー。代表選考がいよいよ始まろうとする中、新型コロナウィルスという見えない敵の出現により世界が激変します。

 スポーツ界も多大な影響を受け、3月末、東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が決定。日本体操協会も4月に行なわれる予定だった全日本選手権の延期を発表し、代表選考も中断されることとなりました。

 6月。内村選手のある決断が、日本中を驚かせます。

 目標としていた個人総合(ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒の6種目で争う)ではなく、「種目別・鉄棒に専念」してオリンピックを目指すと発表したのです。「6種目やってこそ体操」とオールラウンダーへの強いこだわりを持ち続けてきた内村選手にとっては、自身の体操人生を覆すような、大きな決断でした。

「(6種目)やろうと思っても、痛くなってできなくて。『やっぱり、もうやっちゃダメなんだな』と」

 身体の痛みと向き合い現実を受け入れる中で見えてきた、鉄棒に専念するという選択。年明けに再び訪れたオーストラリアで鉄棒に絞り、練習を重ねる中で得た手ごたえは徐々に確信へと変わっていきました。

 オールラウンダーのプライドよりも、オリンピック出場。再び、世界の頂点を目指したいという強い気持ちが後押しした決断だったのです。

 そんな、鉄棒のスペシャリストとしてのデビュー戦となった、9月の全日本シニア選手権。1年ぶりの試合で、自身最高難度となるH難度「ブレットシュナイダー」に挑戦します。これまでもずっと練習を重ねてきたものの、試合で成功させられずにいたこの大技。鉄棒のスペシャリストとしてこれから戦っていくためには、必ず習得しなければならない技です。

 しかし肝心の試合では、なんとか鉄棒を掴むも、理想とするできからは程遠く、結果6位。演技後、練習の成果を出せず残念としながらも「試合さえこなしていけば、いい演技は出てくる。金メダルを取るための道筋を自分は知っている」と話すなど、スペシャリストとしての第一歩には、希望を見出していたようでした。

 その言葉通り、そこからの内村選手は、演技をするたびに凄みを増していき、11月、コロナ禍で各競技の先陣を切って行なわれた体操の国際大会では、直近3年の世界選手権金メダルスコアを上回る、15.200という高得点をマーク。そして12月の全日本選手権では完璧な演技で15.700とさらに得点を伸ばします。9月の全日本シニアで「なんとか掴んだ」ブレットシュナイダーは安定感を増し、試合ごとに精度が上がっていきました。

2021年3月 新所属先発表会見後に取材 写真:フジテレビ提供

【0.001点が明暗を分けた代表争い】

 2021年4月。ついに始まった代表選考。種目別枠の代表権を得るためには、4月の全日本選手権と5月のNHK杯、そして6月の全日本種目別の3大会で、予選と決勝合わせて5回演技をし、各演技で得られるポイントの合計でトップに立たなければなりません。

 内村選手が目指すのは、団体4人の枠ではなく、国内選考においてたった一つ与えられている種目別での代表枠。大きなミスが一度でも出たら代表選考から脱落する過酷な戦いです。

 代表選考スタートとなる4月の全日本選手権では、決勝で15.466の高得点をマーク。「出来は60点」という自己評価も、予選と合わせて80ポイントを獲得します。

 ミスの許されない戦いが続く中、翌月のNHK杯でも15.333という高い得点で40ポイントを獲得。2大会を終えた時点で、内村選手の持ち点は合計110ポイント(NHK杯終了時に全日本選手権予選のポイントが30に変更)となりました。

 迎えた最後の選考大会・全日本種目別選手権。種目別の代表枠を争うライバル、跳馬の米倉英信選手と一騎打ちとなります。

 米倉選手は、大学時代に自身の名がつく大技「ヨネクラ」を国際大会で成功させたのち、代表選考へ向け着々と実力を伸ばしてきました。本番での勝負強さが武器の米倉選手がここまでの2大会で獲得していたポイントは内村選手と同じ110ポイント。勢いそのままにこの種目別選手権予選でも高得点を出し、合わせて140ポイントを獲得していたのでした。

 決勝。まずは米倉選手の跳馬。2本をしっかりまとめて15.100。30ポイントを加算し、米倉選手は合計170ポイントで代表選考のすべての演技を終えます。

 そして内村選手の鉄棒。その直前、すでに団体メンバーで代表入りを決めている橋本大輝選手が15.133という高得点を出したことで会場は大きな盛り上がりを見せます。極限のプレッシャーがかかる中、内村選手の演技に予期せぬほころびが出ます。演技中盤、車輪が戻る痛恨のミス。これ以上ミスが出たらオリンピックの道が霞みゆく中、最後の着地は・・・「ドスッ!」。静寂を切り裂き、マットに両足を突き刺すように決めます。

 得点は、15.100。20ポイントにとどまり、全選考を終えての合計は170ポイント。なんと米倉選手と並ぶ展開に。 

 結果、タイブレークという選考基準で内村選手が種目別の代表権を獲得。わずか0.001点が勝敗を左右する代表選考の厳しさを目の当たりにした瞬間でした。

 代表内定後、内村選手の表情はうれしさよりも複雑さが勝るものでした。

「もうね、ダメです」

「米倉選手にすごく申し訳ない。勝ち取るならしっかりいい演技で勝ち取りたかった。嬉しいというより、これでオリンピックに行っていいのかという気持ちです」

 会場内のインタビューで、率直な心情を吐露した内村選手。死に物狂いで目指してきた代表権を掴んだにも関わらず、口から出るのは反省の弁。史上最高の体操選手・内村航平のアスリートとしての凄みを感じました。


東京オリンピック代表内定後にインタビュー 写真:フジテレビ提供

【オリンピックは、「意義とかそういうものではない」】

2019年、悪夢の予選落ち。「オリンピックは夢物語」
それでも、必死で立ち上がり、体操と向き合った日々。「夢物語から夢へ」

2020年、プライドを捨ててスペシャリストへ
「金メダルを取るための道筋を自分は知っている」

2021年、掴みとった夢舞台

 どん底から這いあがり、ジェットコースターのような数年間を過ごした内村選手が、4度目のオリンピックを前に思うこととは。

「意義とか、そういうのじゃないと思うんですよね。オリンピックって。そういうのじゃ語れないかなって。ことばにできない何かがあるとしか言えないんですよね。見てもらって、感じてもらって、いろんな人が胸を熱くして、明日からの原動力になったり、そういうパワーがある舞台。僕らはそれを、演技、パフォーマンスで伝えなきゃいけない」

 リオで見せた、鉄棒の着地。大きな感動を生んだあの瞬間を思い出しました。

「こういう意義がありますっていうんじゃなくて、僕らがいいパフォーマンスをすれば、意義とか意味とかって見えてくるんじゃないですかね」

 内村選手が演技を通して何を伝えてくれるのか。8月3日、東京オリンピック、鉄棒・種目別決勝の日にきっとすべてがわかるはずです。
PROFILE
宮司愛海(みやじ・まなみ)

91年7月29日生まれ。2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメーンキャスター。
スタジオ内での番組進行だけでなく、
現場に出てさまざまな競技にふれ、
多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。


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