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終わりの後——敗れていった3年生の球児たちへ

スポーツニッポン7月18日(火)8時38分
画像:「VICTIS HONOS」(敗者に名誉を)の刻印がある1915年の第1回大会参加章
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「VICTIS HONOS」(敗者に名誉を)の刻印がある1915年の第1回大会参加章
 【内田雅也の広角追球】夏の高校野球、地方大会2回戦で敗れた試合で最後の打者となった輝夫と、次打者席でゲームセットを迎えた控え選手の渡瀬はともに<終わっていない>と感じていた。

 3年生で、敗戦は高校野球の終わり、引退を意味する。楽しみにしていたはずの練習のない夏休みが訪れたが、渡瀬は新チームの練習にグラウンドに出向き、打撃投手やノッカーを買って出ていた。予備校夏期講習に通う輝夫は見逃し三振した外角低め速球が何度も頭に浮かんでくる。<悔いを残さないように——>とよく言う。しかし<一度も負けずに甲子園に行くことよりも、そっちの方がずっと難しいんだと、いまわかった>。

 高校野球への思い入れも強い、重松清氏(54)の短編小説、その名も『終わりの後の始まりの前に』=『季節風 夏』(文春文庫)所収=である。ごく普通の高校の3年生野球部員の最後の夏をとりあげている。

 いま、全国各地で高校野球地方大会が真っ盛りである。全国約4000校の球児たちが甲子園を頂点とした壮大なトーナメントを戦う。敗れれば終わる。全国優勝する1チームを除き、等しく一度だけ敗れて高校野球は終わるのだ。

 「高校野球は必ず終わる時が来ます。切ないですが、それが運命です」という話を聞いた。7月10日の夕方、岡山県立玉野光南高の教室。同校野球部の2、3年生40人を前に講演していたのは妹尾浩二さん(35)。田野昌平監督(45=保健体育科教諭)の玉島商高監督時代の教え子だった。

 妹尾さんは倉敷(中庄)自動車学校の教官(指導員)だ。学科教習技術を競う全国大会で昨年11月、最優秀賞に輝いた。全国1280の教習所から予選を突破した20人で講義の内容やわかりやすさを競った。「野球で田野監督に学んだ心をテーマにしました。目標を日本一に定め、高校野球と同じ3年間、積んできた練習が実りました」

 車のナンバーを「21」(日本一)とする田野監督は「同じ日本一を目指す自分たちに通じるものがある」と毎年講演を依頼して4年目になる。

 今回、玉野光南の選手たちに語ったテーマは「準備10年、成功5分」。ノルウェーの極地探検家アムンゼンの言葉で日々の練習、生活の重要さを説いた。

 妹尾さん自身、3年春の岡山大会で集合時間に20分遅刻するという失態を演じていた。夏は準決勝で敗退。5試合で送りバントが安打になった1本を除き「実質ノーヒット」に終わった。「あの遅刻が影響していました。当たり前のことができなかった私を野球の神さまは見ていたのです」

 敗戦後、下を向き泣いていた妹尾さんに田野監督は語りかけた。「ノーヒットか。おまえが一生懸命練習していたのは分かる。しかし、何かが足りなかったんだだろう。高校野球はこれで終わったが、長い人生、まだまだこれからや。これからが大事なんだぞ」

 最後の夏の敗戦、不成績を糧に「いかに普段の生活、準備が大切か」と卒業後の日々を過ごした結果として妹尾さんの「日本一」はあった。

 あの1979年夏の甲子園、延長18回の箕島(和歌山)—星稜(石川)戦で、捕れば勝利の一邪飛に転倒した星稜・加藤直樹一塁手が後年、立派な社会人、父親になった姿を見て、箕島監督だった尾藤公さんが「加藤君、君は人生の勝利者になった」と喜んだ。

 興南(沖縄)監督の我喜屋優さんは<負けたときこそ唇をかみしめて、前を向いて歩いていけばいい>と著書『逆境を生き抜く力』(WAVE出版)に書いた。控え選手によく話すそうだ。「レギュラーになれるかなれないかなんて、長い人生からみたらたいしたことじゃないぞ。将来うんと偉くなって、レギュラーだった連中をこき使ってやればいいじゃないか」

 『終わりの後の——』で輝夫は夏期講習を抜け出し、地方大会準決勝が行われている球場に向かう。スタンドで自身の見逃し三振を「ストライク」とコールしたベテラン審判員に出くわす。「残酷だよな」と審判員は語りかける。「でもなあ……悔しさや後悔のなんにもない人生っていうのも、それはそれで寂しいんじゃないかって、俺は思うけどなあ……」

 高校入学から2年半、日々汗を流してきた最後は何ともはかない。むなしく、悲しい「終わり」のなか、新たな人生の「始まり」を模索していくしかない。

 深紅の大優勝旗にラテン語で刻まれた「VICTORIBUS PALMAE」(勝者に栄光あれ)の文言。小学生のころ、閉会式での優勝旗授与のシーンで、NHKアナウンサーは「それは、敗れていった幾千の敗者への賛辞でもあります」と語っていた。

 実際、夏の選手権(当時は中等野球)第1回大会が豊中で開かれた1915(大正4)年。参加章で全選手に配られたメダルには同じくラテン語で「VICTIS HONOS」(敗者に名誉を)と刻まれていた。敗者への励ましやいたわりの心こそ、高校野球の根幹をなしている。 (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 大阪紙面のコラム『内田雅也の追球』を通じて高校野球関係者との交流が広まり「追球会」の会合も持つ。本文で書いた玉野光南監督室の窓には外に向け、拙文の切り抜きが貼られている。1963年2月生まれ。桐蔭(旧制和歌山中)時代は失敗と苦悩ばかりの高校球児だった。慶大文学部卒。

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