GT300決勝《あと読み》:運がすべてを左右した!? スーパーGT第4戦SUGOのGT300の展開を考察

2017年7月24日(月)9時41分 AUTOSPORT web

 終わってみれば、優勝したGAINER TANAX AMG GT3と2位に入ったFerrari 488 GT3が77周。3位のVivaC 86 MCは76周という周回数で、スーパーGT第4戦SUGOは幕を閉じた。先に言っておくと、GAINER TANAX AMG GT3の予選順位は17番手。Ferrari 488 GT3は16番手だった。


 VivaC 86 MCがポールポジションだったのだが、いったい何がどうなってこの順位になったのか。荒れに荒れたSUGOのGT300の戦いは、関係者に聞くとなんとなくその全体像が見えてきた。


■序盤のBS勢の躍進。何もなければLEONがウイナーだった!?


 今回勝負のキモとなったのは、フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rと植毛GT-Rが最終コーナーでクラッシュしたために導入された、2回のセーフティカーだ。これは実はGT500クラスも同様だ。レースはスタート直前まで、多くのGT300車両がスリックを履いていたが、パレードラップ開始直前に降り出した雨により、ほとんどのマシンがウエットタイヤに換装。序盤はウエット路面のなか、タイヤのキャラクターが出るレースとなった。


 序盤から激しい戦いが展開したように見えたGT300だが、これはコース上の水量によるものだった。水量が多くなり、タイヤが温まったときに素晴らしいスピードをみせつけたのは、ブリヂストン勢。JMS P.MU LMcorsa RC F GT3、LEON CVSTOS AMG、そしてTOYOTA PRIUS apr GT、ARTA BMW M6 GT3が序盤大きく順位を上げている。また、ダンロップ勢もやや水量が減ったときに速く、GAINER TANAX AMG GT3がここで大きく順位を上げた。また、表彰台圏内をSUBARU BRZ R&D SPORTが争っている。


「セーフティカーが出なければ、65号車(LEON CVSTOS AMG)のレースだったんじゃないかな」というのは、VivaC 86 MCの土屋武士監督。フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rのクラッシュによるアクシデントの際、トップを走っていたのはLEON CVSTOS AMG。次いでJMS P.MU LMcorsa RC F GT3が続いていた。


 この直前のタイミングで、路面は急速に乾いており、B-MAX NDDP GT-Rを筆頭にD’station PorscheやGULF NAC PORSCHE 911がピットイン。スリックタイヤに交換した。当然、早めにスリックに替えれば取り分が大きい。こういったウエットからドライになるレースではセオリーだ。グッドスマイル 初音ミク AMGの河野高男エンジニアや、土屋監督、さらに優勝したGAINER TANAX AMG GT3の福田洋介エンジニアも「タイヤを替えよう」とジャッジした。


 ただ、グッドスマイル 初音ミク AMGはピットの準備の関係で遅れた。また、土屋監督は「このタイミングで入れたかったけど、ひょっとするとセーフティカーが出る可能性があった」と、一瞬ピットインをためらった。そうして、このレース2回目のSCが出たのだ。


■セーフティカー明けの位置取りが順位を左右


 本来、セーフティカーが入る前にピットインしていれば、その分取り分が大きく、レースを有利に運べるのが定説だ。ただ、土屋監督、河野エンジニアは興味深い解説をした。実はこのSUGOはコース距離が短く、一度ピットインしてしまうと、周回遅れになってしまう。そのため、SCが出るとトップの車両を抑えるため、周回遅れが挽回できなくなってしまうというのだ。実際、これでポルシェ勢もロスを喫している。


 2回目のセーフティカー明け、VivaC 86 MC、GAINER TANAX AMG GT3、グッドスマイル 初音ミク AMG、さらにSYNTIUM LMcorsa RC F GT3らもピットインした。ただ、「BS勢はチョイ濡れが苦手だから、早めには入れられなかったんじゃないかな(河野エンジニア)」とLEON AMG、JMS RC Fらはピットに向かわなかった。実際、乾きつつあったグリッドで最後までウエットを着けていたのはBS勢だった。この時点でBS勢の2台は、この後もう一度SCが出てしまったため、“セーフティカーの後にピットインする”という順位を落とすセオリーどおりになってしまう。


 さて、一度目のSC明けに入ったメンバーは、ピットイン後にVivaC 86 MC、GAINER TANAX AMG GT3、グッドスマイル 初音ミク AMGという順番でコースに復帰する。ただ、JAF-GT勢は車重が軽い分タイヤの温まりが悪く、GAINER TANAX AMG GT3、グッドスマイル 初音ミク AMGに先行されるが、この直後、グッドスマイルとVivaCはLEON CVSTOS AMGに先行された。そして、この時点で植毛GT-Rのクラッシュにより、このレース3回目のセーフティカーが導入されたのだ。位置関係にするとこうなる。


#11-#65-#4-#25


 当然、セーフティカーはGT300のトップであるLEON CVSTOS AMGを先頭にする。ここで、グッドスマイル 初音ミク AMG、VivaC 86 MCとGAINER TANAX AMG GT3の間に1周の差ができてしまったのだ。その後、LEON CVSTOS AMGとJMS P.MU LMcorsa RC F GT3がピットに向かい、GAINER TANAX AMG GT3があっさりと首位に立った。「ウチがまるまる得してしまった」と福田エンジニア。


 では、50号車Ferrari 488 GT3はなぜポジションを上げたのか。Ferrari 488 GT3は、2回目のセーフティカー明けの翌周にピットに入っている。そして、作業をしているうちに3回目のセーフティカーが入り、集団がスローになったため、GAINER TANAX AMG GT3と同様、その時の首位だったLEON CVSTOS AMGの前に出たのだ。まさにタイミングとしては“ドンピシャ”だった。


■運が左右した第4戦。求められるFCYの導入


 なぜこのタイミングだったのか伊藤宗治監督兼エンジニアに話を聞くと、こんな返事が返ってきた。


「セーフティカー明けの1周目は、絶対に入りたくなかったんです。なぜかというと、一昨年のSUGOのレースのときにSC中にピットインして、“渋滞”を食らったから」


 スーパーGTの歴史のなかでもレアなシーンとなった、15年のセーフティカー中のピットインによる“渋滞”。SC中のピットインを禁じるレギュレーション制定のきっかけになった出来事だ。あれが伊藤監督の脳裏にあったということだ。ドライバーの新田守男は、いち早くスリックに替えることを主張したというが、それをおさえてまでのあのタイミングが奏功したということだ。


 まさに運が左右したのが、今回のスーパーGT第4戦SUGOだったということだろう。


 今季は岡山、オートポリスで不運なクラッシュを喫したFerrari 488 GT3だが、伊藤監督は「今まで運が悪かったんだから、その分のツケがちゃんと返ってきたってことでしょう」という。また、福田エンジニアも「運です(笑)。2015年の鈴鹿1000kmなみの“神ってる”レースでした。ウチはアンラッキーが続いていたので、たまにはこういうのもないとね(笑)」と、今まで波に乗れなかった2台に、気まぐれなSUGOの女神が微笑んだのかもしれない。


 また、「エンジニアとしては、SCが出るのも予感できていたし、展開を読めていたので、満足度がすごく高い(土屋監督)」「流れとしてはすべてうまくいっていた。でもこんなこともあるよね(河野エンジニア)」と、こればかりは仕方がない……という様子だった。


 とは言えファン、そして参加している側からすると、やはり“運頼み”ではないレースもやはり見たいところだろう。そうなると必要になるのが、アクシデント発生時の公平性と安全性が高いフルコースイエロー(FCY)システムの導入となる。今回話を聞いた全員が「FCYは必要」だと口を揃えた。


 FCYの導入は現在スーパーGTでも検討が進められてはいるが、サーキット側に設備が必要で、課題は多い。運が左右するレースもスリリングではあったが、今回はFCYの必要性も大いに考えさせられるレースだったと言えるだろう。


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