坪井翔「僕もスイッチが入った」。2連勝の妻、斎藤愛未から引き継がれた最高の日曜日/第4戦富士決勝
2024年7月24日(水)7時0分 AUTOSPORT web

2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦で見事、4年ぶりの優勝を果たした坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)。そのスーパーフォーミュラ決勝直前に行われたKYOJO CUP第3戦では坪井の妻、斎藤愛未(Team M 岡部自動車 D.D.R VITA)が前日の第2戦に続いて連勝を飾り、その後に行われたスーパーフォーミュラの夫、坪井との優勝と合わせて、歴史的に稀に見る“夫婦同日優勝”という快挙を達成した。その決勝日について、坪井、そして斎藤愛未に聞いた。
妻の斎藤愛未が先にKYOJO CUPで2連勝を飾ったということで「プレッシャーになった」と、記者会見でも心境を明かしていた坪井。それは、同時に気合いが入った瞬間でもあったと振り返った。
「あのレースを見たら、『自分も頑張らなきゃ』と思った」
前日と同様にKYOJO CUP第3戦でも下野璃央(Dr.DRY VITA、)翁長実希(Car Beauty Pro RSS VITA)と毎周のように順位を入れ替えるトップバトルを繰り広げていた斎藤。最終的にふたりに5秒加算のペナルティ(下野は走路外走行をしながらの追い越し、翁長が複数回の走路外走行)が出たものの、斎藤は最終ラップのコカ・コーラコーナーでトップに浮上し、そのままライバルを振り切ってチェッカーを受けた。
その時、坪井はTOM’Sのピット内で観戦。「嬉しかったですし、何よりレース内容がめちゃくちゃ良かったです。(ライバルに)タイムペナルティが出ましたけど、それでも最終ラップでもつれ込んだバトルで競り勝って、ちゃんと1位で帰ってきてくれました」と喜んでいた。
斎藤はこれまで勝つチャンスが何度もありながら、最終ラップで順位を落とすことが多く、本人も「最後までトップを守り切ることが一番の課題」と話していた。第2戦ではセーフティカー先導でゴールとなったこともあって嬉しさ半分という雰囲気だったが、今回は勝負の最終ラップで力強い走りを披露。レースを終えた斎藤本人も満面の笑みを見せていた。
前日はパルクフェルメまで祝福に来て優勝した本人より先に涙をみせていた坪井だが、「(2レース目も)サインガードまで手を振りにきましたけど、僕は8分間ウォームアップがあったので、その後すぐ準備に入りました」と、妻の元に行く時間はなかった。
妻の2連勝にピットの坪井が笑顔を見せる姿が公式映像で映し出されていたが、VANTELIN TEAM TOM’Sの山田淳テクニカルディレクターによると、ピット裏では相当プレッシャーを感じている坪井を目撃していたとのこと。
「当然、ふたりのことなので(坪井も)嬉しいというのが正直な気持ちだと思うのですけど、それと同時に『いや、ちょっと待てよ……』みたいな感じにはなっていました。でも最後は『よし、頑張るか!』となっていました。奥さんの活躍をみて、彼の中でも何かあったんじゃないですか」と当時の様子を語った。坪井も、その時の心境を振り返る。
「彼女が2連勝したことで、いろんな人から『分かっているよね?』と、すごくプレッシャーをかけられましたけど、意外と半笑いで聞いていた感じでした。実際にプレッシャーはありましたけど、逆に2勝目を飾ってくれたことで気合いが入りました。『(4番手スタートから)絶対に抜かなければいけないな』と。プレッシャーよりかはスイッチが入った感じがありました。良かったです」と坪井。
「昨日のままだと、けっこうプレッシャーを感じて動揺していましたけど、あの2レース目を見せられたら『自分もやらなきゃ』みたいな感じになってレースに臨めました。もともと(SFの決勝は)ロングに自信はありましたし、何より彼女がこれ以上ないというくらいの素晴らしいレースを見せられたので、さらにギアが上がった感じです」
その言葉通り、坪井はレース序盤からコース上でオーバーテイクを繰り返し、ピットストップ後の終盤には3台を抜いてトップに浮上するという圧巻のレース運びをみせた。その原動力となったのが、妻がみせたKYOJO CUPでの力走だったことは言うまでもない。
「(自分が2連勝したことで)かなりプレッシャーをかけちゃったかもしれません。プレッシャーを感じすぎていたら悪いなと思いつつも、良い流れは前日同様に作れたと思うので、あとは坪井選手に任せます!」とKYOJO CUP後の記者会見で話していた斎藤。前日の第2戦で初優勝に続き、2レース目となった第3戦では“バトルで競り勝って、最終ラップもちゃんと逃げ切る”という課題をクリアする走りをみせた。
レース後の記者会見が終わると、急いでスーパーフォーミュラのグリッドに向かい、坪井と合流。スタート前のわずかな時間だったが、自ら優勝の報告を夫にしていた。
そこから、今度は“夫のレースを見守る側”に回ったが、レース中はKYOJO CUP側のピット内で戦況を見守った。
「けっこうペースが良かったのは見ていて分かりましたし『今日は勝てるのかな』とは感じていましたけど……ゴールするまでは分からないので、モニターから目を離せなくて、ずっと手を握って祈っている感じでした。ずっと胃が痛かったです(苦笑)」と、斎藤。
サインガードでゴールした直後の坪井を出迎えることはできなかったものの、すぐにパルクフェルメへと移動を始めていたが「あの時は半泣きになりながら向かっていました」と、坪井がこれまで勝てなかった4年間を思い出していたという。
坪井が前に優勝を飾ったのは2020年の最終戦富士。この時すでにふたりの交際は始まっていたとのことで、当時からお互いに支え合いながらレース活動に取り組んできた。結婚してからスーパーフォーミュラの際は斎藤がほぼ全戦で現場に帯同し、夫の負担を少しでも減らすために、移動の運転を担当していたという。もちろん、ここまでの4年間でたくさんの良いレース、良くないレースを共有してきた間柄でもある。
「今こうして振り返ると(4年間は)長かった気がしますけど、なかには良いレースもあったので、いざ4年ぶりと言われると『そんなに経っていたっけ?』という感じがしました」と斎藤。
「前日に主人の涙があったので『私もそれくらいと感動しないと……』とは思っていましたけど(苦笑)、本当に自然と感動して涙が出てきました。やっぱり4年ぶりだったので……嬉しかったです」と、笑みが溢れていた。
坪井も自身4年ぶりの優勝に対する心境を振り返った。
「(涙が出た理由は)4年ぶりというのが大きかったです。ここまで、けっこう苦しい思いをしてスーパーフォーミュラを戦ってきたところもありましたし、今年はチームを移籍して『ここで勝たないといけない』という想いがあったなかで、なかなか勝てずにいたので、自信がなくなりそうな時もありました」
「そういうのを思い出して……残り5周くらいから全部がフラッシュバックしてきました。優勝した時は嬉しかったので、気づいたら泣いていましたね」
改めて振り返ると、お互いがそれぞれのレースを“走る側”“見守る側”で支え合い、刺激しあったからこその快挙達成だったのだろう。
最後にどうしても気になるのが“坪井家ルール”の行方だ。ふたりが同じ週末にレースをする時は、獲得賞金の少なかった方が自宅までの帰り道を運転するというルールがあるとのこと。今回はKYOJO CUPが2レース開催(2連勝で240万円獲得)ということもあり、どう判断をするのか難しいところではある。
それに関して坪井に聞くと「僕です!」と、即答。「彼女が2連勝した時点は『帰りの運転は僕だな』と。それは始まる(SFのレースが)始まる前の時点でそう思っていました」とキッパリ話した。
一方の斎藤は「どっちも優勝して、ふたりとも頑張ったので……仲良く半分ずつ運転するということで良いかなと思います」と、話すものの、「富士までだとそんな(ドライバー交代をするような)距離じゃないので、僕が運転します」と坪井。
結局、どっちが運転して帰ったのか……それはまた後日取材しようと思う。
今回は“夫婦同日優勝”となったが、今回の快挙達成で坪井はトップから9.5ポイント差のランキング2番手に浮上し王座も狙える圏内に入ってきた。斎藤も2連勝したことでランキング首位に浮上し16ポイントをリードしている状況。今度は“夫婦ダブルチャンピオン”という新たな快挙も見えてきそうだ。
ちなみに、次回の坪井夫妻が同日にレースをするのは8月17・18日に富士スピードウェイで行われるインタープロトシリーズとKYOJO CUPだ。


投稿 坪井翔「僕もスイッチが入った」。2連勝の妻、斎藤愛未から引き継がれた最高の日曜日/第4戦富士決勝は autosport webに最初に表示されました。