代理人・柳田佑介氏に聞く、コロナ禍で混乱する移籍市場のリアル

7月25日(土)21時0分 footballista

【コロナ禍で揺らぐフットボールバブル】#4

リーグ戦が7月、欧州カップ戦に至っては8月まで続く異例の日程は、本来なら今まさにピークを迎えているはずである移籍市場の様相を大きく変えている。その実情について、代理人を務める柳田佑介氏に明かしてもらうインタビューの前編。※このインタビューは7月1日に実施した

——今年はコロナ禍の影響により、あらゆる⾯で従来とはまったく異質なシーズンとなりました。移籍市場も例外ではありません。代理人としての活動にも影響が出ていますか?

 「ヨーロッパではシーズンが早期に終了したり、あるいは再開されたリーグもクラブ関係者以外はスタジアムに入場できないプロトコルで試合が運営されたりしていて、試合を視察することができませんでした。加えて、クラブ関係者や選手との面会も制限されており、契約に際して行われるメディカルチェック等についても代理人は立ち合うことができません。もともと選手の紹介や条件交渉、そして契約書の署名でさえもオンラインで進めることは可能なので、代理人が現場で同席しなければならない場面は確実に減少しています。コロナ禍により私たち代理人の活動にも大きな影響が出ていると言えます」

——一部のリーグではシーズンが6⽉から7⽉、CL に⾄っては8⽉まで延⻑となり、通常であれば移籍市場の佳境に⼊る8⽉までコンペティションが続きます。こうしたことは、移籍市場にどういう影響を与えるでしょうか?

 「誰もが経験したことのない混乱した状況の中で、移籍市場も手探りで進んでいっているというのが現状です。チームを離れる選手がこれだけいるから何人取らなければいけないとか、絶対に取りたい選手がいるといった見通しが立っているものについては進めることができますが、20-21シーズンの日程も未確定、無観客試合がいつまで続くのかも不透明でシーズンシートをどれくらい売ってよいかもわからない、スポンサーとの交渉も時間がかかり予算をなかなか立てられない中で、多くのクラブにとって積極的に選手獲得を進めていくことは難しい状況です」

——クラブ側の動きは、どうしても消極的にならざるを得ないということですね。

 「そうですね。オランダなどではサポーターがスタジアムに入れるか否かを問わずシーズンシートを購入することでクラブを支えようという動きが出てきています。このように入場料収入をある程度確保する等で減収を想定より抑えることができた場合には新規選手の獲得に動けるようにもなると思いますが、基本的にはどのクラブも予算をミニマムに設定し、その中で大きな割合を占める人件費も削減せざるを得ない状況です」

——選手側の方はいかがでしょうか? この夏の移籍をリスクと捉えたりするようなところはあるのでしょうか?

  「Covid-19によるリスクということで言えば、今年3〜4月頃に深刻な感染状況が連日伝えられていたスペインやイタリアのクラブからオファーが来たとしても、家族等のことを考えて躊躇する選手はいたかもしれません。ただ、今はヨーロッパに関してはどこの国も同じような状況ですので、最終的にどう判断するかは選手の考え方次第かと思います。

  新しい環境に適応できない、試合に出られなくなるといった移籍自体に伴うリスクについて言えば、これらはCovid-19にかかわらず常に存在するものですが、Covid-19により各国リーグのフォーマットやスケジュール(適応期間)が変更されたことで、そのリスクが高まっていると言えるかもしれません」

——FIFA の定める移籍期間のデッドラインデーが10 ⽉5 ⽇になるとの報道がありました。イレギュラーな移籍期間は、移籍市場での⽴ち振る舞いをどう変えているでしょうか?

 「ヨーロッパでは、リーグ戦やUEFAのコンペティションが例年5月末頃には終了しているという前提の下、選手の契約期間は通常、7月1日から翌年6月30日までを1年間とするサイクルとなっています。また移籍市場に関しては、FIFAはRegulations on the Status and Transfer of Players(RSTP)において『原則として現シーズンが終了してから翌シーズンが始まるまでの期間とする』としています。

 ただ、今年に関してはヨーロッパの多くの国で7月に食い込む形でリーグ戦が行われている状況で、シーズンが終了するまで市場がオープンしないとなると、6月末で契約が切れる選手たちが路頭に迷ってしまう状況でした。そのためFIFAは、6月11日に新型コロナウイルスによるRSTPの修正を発表しました。この修正により、それぞれの協会がFIFAから承認を得ることによって移籍市場をシーズン終了前にオープンすることが可能になりました。

 しかし移籍市場が開くことで理論上は移籍が可能になったとしても、現実問題として現行シーズン中に新しいクラブでプレーできるわけではありません。またリーグ戦の順位が確定しないことには昇降格やUEFAコンペティションへの出場の有無が決まらないため、そうした要素にクラブ予算を大きく左右されるクラブは移籍市場での動き出しが遅れることになります。

 チーム作りの上でどうしても必要不可欠な選手との交渉や、コロナ禍でも予算に大きな影響を受けていないビッグクラブ絡みの案件は動いていますが、20-21シーズンの見通しや予算が不透明なうちは積極的に動くことのできないクラブがほとんどで、シーズン終了から徐々に移籍市場が動き出し、代理人もバタバタし出すのではないかと思います」

——そうした難しい状況でのオペレーションとなるということは、代理人も慎重になってくるものでしょうか?

 「そうですね。慎重にもなりますし、短い期間の中でスムーズに契約をまとめるために素早い判断が求められることになると思います。例えば私が契約している中村敬斗選手のケースで言いますと、トゥエンテを退団することが決まった5月下旬からシント=トロイデンへの加入(ガンバ大阪からの期限付き移籍)を決めるまでの短い期間で様々な判断をしなければならなかったのですが、オランダもベルギーも早期に19-20シーズンが終了し、20-21シーズンに向けて動き出していたことでいち早く動けたというのはありました。ベルギーに関して言えば選手にオファーをいただいた5月末の時点で20-21シーズンのスケジュールもおおよそ決まっていて、クラブも選手も見通しが立てやすかったというのは大きかったと思います」

——コロナ禍がどう推移していくのかも不透明な中で、次の移籍先が決まらないまま何カ月も過ごすとなると不安が募ってしまいますものね。

 「それが一番大きいですよね。海外組の選手に関していうと、今年の5〜6月は日本のクラブもJリーグ再開に向けた厳格なプロトコルの下での限定されたトレーニングの最中で、移動中の感染リスクなども考慮すると(元/現所属クラブであっても)Jリーグのクラブのトレーニングに参加するということが難しく、日本に戻ってきている間に練習する場所がないという問題もありました。それであれば早く移籍先を決めて再度ヨーロッパに渡ってしまった方が、20-21シーズンに向けた準備を進められるという判断をしました」

——例年ならこの時期に行われているプレシーズンマッチ等もどこまで行えるか不透明な状況ですから、選手の適応という部分では例年以上にハードルが高くなる可能性がありそうです。

 「そうですね。ただ、ベルギーなど国によっては20-21シーズン開幕日が早期に固まり、それに向けたスケジュールを立てやすかったところもあります。また、観客を入れてのプレシーズンマッチは難しくとも、Covid-19対策プロトコルに基づいた国内クラブ同士の非公開トレーニングマッチは積極的に組まれています。一方で7月に入っても19-20シーズンが続いていたリーグのクラブや、8月まで続くUEFAコンペティションに参加しているクラブに移籍する選手は適応に苦労する可能性がありますね」

——次に、契約に関するお話を聞かせてください。例えば、FCバルセロナからバイエルン・ミュンヘンにレンタルされているコウチーニョはレンタル期間をUEFAチャンピオンズリーグ(CL)終了まで延長しました。6月末で契約切れとなる選手に関しては、個別に契約を結び直すなどの対応が必要になったのでしょうか?

 「FIFAは修正RSTPの中で、期限付き移籍中の選⼿の移籍先クラブとの契約が国内リーグ戦の終了まで延⻑されるべきことを推奨していました。ただこれはあくまでも選⼿の地位を保護するためになされている推奨事項であって、基本的には契約事は当事者間の交渉に委ねられますので、すべてのケースで個別に契約を結び直す対応が求められていたはずです。

 コウチーニョのようにリーガエスパニョーラ(移籍元クラブ)とブンデスリーガ(移籍先クラブ)、CLと3つのコンペティションが絡んでくる場合、代理人は本当に大変だったと思います。CL決勝を目指すバイエルンにとってはブンデスリーガがつつがなく6月末までに終わってもシーズンが続くわけで、CLのために新たな選手を加えられるわけでないとなると、今いるスカッドを維持したいと考えるのは当然です。コウチーニョがあまり試合に出ていなかったとしても、レギュラーに負傷者が出るなど何があるかわかりませんからね。

  ただ報道によると、ハンジ・フリック監督はコウチーニョを20-21シーズンに向けても必要と考えていたものの、クラブとしては買い取りオプションを行使しない(オプションを行使するほどの費用対効果を認めない)という判断になったようです。

  実はこれは選手側の視点で言えば大きな問題で、ブンデスリーガが終わった後にCLのためだけにさらに2カ月間クラブに残るというのは、リスクが高いと個人的には考えます。試合に出られていれば良いですが、出られなければコンディションが落ち、選手としての価値も下がってしまいます。かといって新しいクラブから話があっても8月までバイエルンに拘束されるため合流することができないことは確定ですし、もしCL期間中にまたケガでもしようものなら……と考えると、私がコウチーニョの代理人だとしたら、20-21シーズンにバイエルンに所属しないことが見えているなら6月末で期限付き移籍を満了することを勧めたいところです。とはいえバイエルンはCLのためにそれを認めないでしょうから、代理人にとっては本当に難しい判断を強いられるオペレーションだったでしょう」

——なるほど。逆にRBライプツィヒのベルナーは、クラブがCLで勝ち残っているにもかかわらず、CLには出場せずチェルシーに移籍することを決断しました。

「クラブ側がこの時点での移籍を容認したというのは、それはそれで凄い判断ですよね。サポーターからすれば『CLを捨てるのか?』となりますから。ただ選手視点からすれば、20-21シーズンに新しいチームに適応するということだけを考えればこの形の方がメリットが大きいと思います。

 このコウチーニョとベルナーのケースは、移籍期間とシーズンが入り乱れてしまった今年の状況を象徴していますよね。コロナ禍によって各国に起こっている個別の状況に応じて様々なケースが出てきますから、代理人もクラブ側も大変です」

——ベルナーの判断に関しては批判も起こっていますね。

  「ライプツィヒがこのタイミングでの離脱を許容してくれたというのは選手にとってはありがたい判断ですけど、クラブはそれでいいのかというところもありますし、サポーターからは当然、批判されますよね。裏事情はわかりませんが、もしかしたらチェルシーが『合流が遅れるのなら(チェルシーにとって不利益なので)オファーを取り下げる』と通告してきたとか、あるいはベルナーがCLに参加しない代わりに(ライプツィヒの不利益を埋めるために)金額を上乗せしたといったこともあったのかもしれません。ライプツィヒとしてはこうした状況で、目の前のCLよりもクラブの経営を安定させるために移籍補償金収入の確保を優先させたということなのでしょうね」

——契約が来年夏までで、この夏に売却しないとフリートランスファーとなってしまう選手たちの処遇をどうするのかという判断が変わってくるでしょうか?

 「経営の厳しいクラブであればなおさら、移籍補償金の額が希望額に届かないオファーであっても『売る』判断に傾くでしょう。また選手との契約が来年夏以降まであったとしても、コロナ禍の影響で半年後や1年後に選手の価値(他クラブからのオファーに伴う移籍補償金の額)がどうなっているか見えなくなってきていますから、目先の収入を確保するために『売れる時に売る』という判断は出てくると思います。選手を獲得する(買う)側のクラブもそうしたクラブの経営事情を知った上で足下を見たオファーをしてくるでしょうから、もともと20億円だった選手を10億円でも売却せざるを得なくなるといったような状況がところどころで生まれると思われます。こうした動きを牽制するためか、ドルトムントはサンチョに関して『バーゲンセールはしない』と明言していますが、これも見方によっては交渉の一環と捉えることもできると思います」

——全体として、この夏の移籍市場は例年と比べて動きの少ないものになりそうでしょうか?

 「経営の厳しいクラブは選⼿との契約を早期解除したり、報酬の削減交渉をしたりすることで何とか人件費を圧縮し、⽣き残りを図っている状況です。20-21シーズンの入場料収入やスポンサー収入がどうなるのか、あるいは売却予定の選手がどのくらいの移籍補償金収入をもたらすのかといったところが見えてくるまでは、新規選⼿獲得どころではないでしょう。

 ただ、シーズンが終われば各国のクラブとも20-21シーズンに向けて動き始めます。その中で、経営の厳しいクラブが目先の収⼊を得るために選⼿を本来の価値より安いと思われる移籍補償金でも売ろうとすることで、動きが少なくなるというよりも、移籍補償金の水準が下がるという変化が表れると思います。また、今年は選手の等価交換(トレード)という支出を伴わない形の移籍が例年よりも増えると予想しています。加えて、今季限りで契約満了や契約解除によってフリーとなった選⼿が多く市場にあふれてくるとなると、移籍件数⾃体は例年とそれほど変わらないのではと考えています。お金をかけた選手獲得には消極的になる分、お金をかけない移籍には積極的になるのではないかということです」

——選手側の動きとしては、より良いオファーを待つというよりも早めに移籍先を確保したいという思考になるでしょうか?

  「通常のマーケットであれば、1つオファーがくるとそのことによってさらに選手の価値が上がり、2つ3 つとオファーが競合するということが頻繁に起こります。ただ、この夏は同じタイプ、同程度の実績/実⼒の選⼿がマーケットに⼤量に流出するでしょうから、決断を遅らせることでオファーを他の選手に持っていかれてしまったり、オファーしてきたクラブの状況が変わりオファーがキャンセルとなったりといったことが例年よりも多く起きると考えています。そういった状況を考えると、選手としては1つでもオファーがあればそれをできるだけ早く確定させたいという思考になるのではないかと思います」

——いわゆる口コミのように、1つオファーがあると広がっていくということがあるんですね。

  「そうなのです。『○○選手に△△がオファーした』という話が関係者に伝わったり現地のメディアで話題になったりすると、○○選手には価値があるという認識がクラブ間に広まり、銘柄としての人気が上がります。またそうして価値を認定された選手の移籍に携わることで金儲けをしたい代理人(というよりブローカーのような人間)が話をさらに広げるので、複数のクラブが後追いオファーをしてくる、ということはよくあります。ブローカーが扇動しているケースも多いので注意する必要はありますが、本気でオファーしてくれるところももちろんあるので、慎重な検討が必要です」

——柳田さんのクライアントには監督やコーチの方もおられます。チームへの影響という観点からすると、監督やテクニカルスタッフの交代は選手以上に重要ではないかと思いますが、より難しい判断を迫られるのではないでしょうか?

 「監督交代を考えていたクラブにとってはこのCovid-19によるシーズンの乱れやチーム作りの遅れは死活問題だと思います。特にCLやELに勝ち残っているクラブは、その後に監督を変えるとなるとそれぞれの国の20-21シーズンに向けた準備期間がかなり短くなってしまいます。予算の問題も考え合わせると、監督交代を断念するクラブも出てくるかもしれませんね。

 一方で、新しく着任する監督にとっても十分な準備期間を確保できず、希望する選手が獲得できるのかどうかも未知数な中でスタートしなければならないわけですから、かなり難しい状況の中で新たな仕事をスタートすることになるのは間違いありません」

後編:日本人の欧州挑戦は? プレーヤートレーディングは? コロナ後の移籍市場はどうなる?

Photos:Getty Images

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