金メダル獲得へ大橋悠依に平井コーチが授けていた作戦。リオ五輪金の萩野公介の泳ぎから伝えていたこと

7月26日(月)6時50分 Sportiva

 東京五輪の水泳競技金メダル第1号は、女子400m個人メドレーの大橋悠依(イトマン東進)が獲得した。

 今年4月の日本選手権や6月のジャパンオープンでは、納得いく泳ぎができずに表情を曇らせていた大橋。だが、東京五輪水泳競技初日7月24日の400m個人メドレー予選の泳ぎは軽やかだった。

多くの人の支えがあって金メダルが獲れたと話した大橋悠依
 最初のバタフライは、ジャパンオープンまでの少し引っかかるような動きとは違ってスムーズ。隣のレーンのハリ・フリッキンジャー(アメリカ)と競り合って、100m通過は3位だったが、大橋に慌てる様子はなかった。そして次の背泳ぎは、彼女らしい静かな泳ぎで少し抜け出すと、3泳目の平泳ぎでその差を一気に広げて、2位に3秒5以上の差をつけた。

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 そして、最後の自由形はリラックスした流し気味の泳ぎで、4分35秒71と全体3位の記録で決勝進出を果たした。

 記録自体は、日本選手権やジャパンオープンと変わらない4分35秒台だが、泳ぎは全体的に余裕があった。平井伯昌コーチは「これまで五輪の予選をシミュレーションした泳ぎで、流して35秒台というのはなかったのでよかった」と話す。

 そして迎えた翌日25日の決勝。その日最初のレースだった男子400m個人メドレーの優勝タイムは、4分09秒42と平凡な記録に終わったのを見て、平井コーチは大橋に作戦として、300mから350mの重要性を伝えていた。

「リオ五輪で萩野公介が、自由形が強いカリシュ・チェイス(アメリカ)や瀬戸大也に勝つにはどうしたらいいかを考えた時に、前半は落ちついて入らせ、平泳ぎから最後の自由形に入る300mのところからの50mで差を縮められないように伝えたんです。

 結果的には0秒7差での優勝でしたが、300mから350mをグッと追い詰められてターンするのと、距離を保っていくのとでは、追われるほうも追うほうも気持ちが違う。萩野は、そこでわずかしか詰められなかったし、『最後に体力を残してなどといっても、そうそう残っているのもではない』というようなところも、大橋にはリオのあとからよく話していました」

 決勝の最初のバタフライと背泳ぎも予選より少し遅く、3位と2位で折り返した。それでも大橋に焦りはなかったという。

「決勝は朝だったので、昨日と同じか、むしろ少し落ちてもいいから落ちついて200mまでは行こうと思っていました」

 そして平泳ぎに移ると大きな伸びのある泳ぎで、予選よりラップタイムを2秒ほど上げる1分16秒41で泳ぎ、2位との差を1秒99に広げた。そしてポイントと見ていた300〜350mは0秒07広げる攻めの泳ぎをした。最後は詰められたものの、その作戦が功を奏して4分32秒08で金メダルを手にしたのだ。

「アップの時もすごく緊張していたけど、平井先生に『順位もタイムも気にしなくていいから。自分のできることを全部やれば大丈夫』と言ってもらえたので、自分のペースを守って自分のレースをするということだけを考えて入場しました」

 こんなにも前向きに決勝に向かうことができた大橋だが、つらい経験もたくさん乗り越えてきた。

「ここ2年間はうまくいかないことだらけで、すごく苦しくてほぼ諦めたような感じでした。東京五輪までも正直、全然うまくいっていなくて、金メダルを獲れるなんて昨日の予選を泳ぎ終わるまで一瞬も考えませんでした。

 準高地の東御合宿でも調子は上がらず、6月下旬の長野の試合で泳いだ時は、『もしかしたら決勝にも残れないのでは』というくらい状態が悪かった。その長野のあとに自分の不安要素が全部さらけだされて心が一回折れたけど、その時に平井先生に『チャレンジするのをやめるという選択肢もあるんだぞ』と言われて......。

 それで一晩、400mをやめて200mにシフトしようかとも考えたけど、絶対にメダルを獲りたかったかったので、メダルに近いのは400mだと思って挑戦を決めました」

 意外にも調子が上がってきたのは、選手村に入ってからだった。

「選手村に入ってから、いつも東京でリハビリを見てもらっている先生が選手村の本部にいて体の状態を見ていただくことができたので、自分の気にしていた体の左右のバランス差などが改善されて、心地よく泳げる感覚を掴めました。金メダルとか、メダルっていうところは別にしても、『これはすごくいい泳ぎができるかもしれないな』と思えるようになりました」

 その感覚のよさを初日の予選で確認できたことで、メダル獲得への自信も沸きあがってきたのだ。

「本当に自分は全然ポジティブじゃないし、自分が金メダルを獲るなんて思ってなかったので、うれしい気持ちと不思議な気持ちといっぱいです。すごいダメダメな時期もあって、暗くなっちゃって一人でいる時期もあったんですけど、周りの先生やチームメイトが声をかけ続けてくれました。みんなのおかげで獲れたメダルだなって正直思います。東御合宿からは『本当に大丈夫かな?』と思いながら帰ってきたけど、昨日のレースが始まってからは、『もう、あとはやるしかない』と思えました。自分でもこんなに落ちついたレースができたことに、すごくびっくりしています」

 決勝後のミックスゾーンで記者に囲まれている時でも、以前のつらかった時期を思い出して、言葉を詰まらせながら涙を流していた大橋。彼女に、「これで2個目の金も狙う気になりましたか」と問いかけると、「アハハハ!」という笑い声が返ってきた。

 今夜、予選が行なわれる200m個人メドレーにも、大橋は自信を持って臨んでくれるだろう。


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