松田丈志が考察。瀬戸大也と渡辺一平が狙って勝つためにやるべきこと

7月27日(土)18時57分 Sportiva

 世界水泳の競泳の5日目に行なわれた男子200m個人メドレー決勝で、前夜の200mバタフライで銀メダルを手にした瀬戸大也が、自己ベストとなる1分56秒14で金メダルを獲得。競泳陣で最初の東京五輪内定を勝ち取った。

 瀬戸本人は、レース前から金メダルが取れそうな予感がありながらもそれを周りには話さず、「隠してました」と笑顔で振り返った。ほかの選手たちの状況と自分の調子を冷静に見極めながら、持ち前の勝負強さを生かしたすばらしいレースだった。

 最初のバタフライから積極的に飛び出し、50mを2位でターン。2種目目の背泳ぎでトップに立つと、平泳ぎ、自由形でも先頭を譲ることなく逃げ切った。逃げ切れた理由について、瀬戸は「耐乳酸トレーニングの成果が出ています。(レースの)最後はめっちゃキツかったですけど、最後まで体が動いてくれました」と話した。

 4月の日本選手権後にインタビューをした際、瀬戸は「やっと本物のアスリートになってきた気がします」とコメントしてくれた。その真意は、「アスリートとして自分が強くなるために、”やれることを全部やる”ようになってきた」ということ。その「全部やる」には、「自分がやりたくないトレーニングにも積極的に取り組む」ということも含まれるが、そのひとつが、乳酸を出しながら泳ぎ続ける能力を向上させるための耐乳酸トレーニングだ。

 大学時代に継続的にやっていた、休息時間を長めに取って50mを全力で泳ぎ続ける「ゴールセット」と呼ばれるトレーニングを、世界選手権に向けて再び週1回のペースで取り入れた。さらに別の耐乳酸トレーニングも、やはり週1回で実施。瀬戸自身が「一番嫌い」と語るトレーニングを積極的に取り入れたのも、勝つために必要だと感じたからだろう。

 また、「全部やる」の中のもうひとつが栄養管理だ。管理栄養士の指導と、妻の優佳さんのサポートもあって、普段の食事にも気を配りはじめた。

 その取り組みは今大会でも続いている。世界選手権は8日間あるため、大会の最初はベストコンディションでも、適切な栄養摂取を行なわなければ徐々にコンディションは崩れていく。瀬戸は今大会で個人3種目に出場しており、レースやウォーミングアップなど分刻みのスケジュールをこなしているが、その中でコンディションが崩れないよう、緻密に栄養摂取のタイミングがプランニングされているのだ。

 200m個人メドレー決勝に進出した選手には、瀬戸よりも速い1分55秒台の自己ベストを持った選手が3人もいた。しかしレース本番では、それらの選手が自己記録よりタイムを落とす中、瀬戸は逆に自己記録を0秒55更新。この勝利を「ご褒美みたいなもの」と瀬戸は語ったが、ここまでに行なってきた準備の量と緻密さ、さらに勝負強さがあったからだと思う。

 やれることをすべて実践し、結果を残している瀬戸。最終日(7月28日)の400m個人メドレーでは、王座復活と個人メドレー2冠をかけて再びライバルたちと激突する。

 翌6日目には、今大会で「もっともハイレベル」と言ってもいい戦いが繰り広げられた。

 男子200m平泳ぎ決勝、渡辺一平が2分6秒73で前回大会に続く銅メダルを獲得した。渡辺は同種目の世界記録保持者(2分6秒67)だが、前日の準決勝でオーストラリアのマシュー・ウィルソンが渡辺と同タイムの世界タイ記録をマーク。さらに最大のライバルであるロシアのアントン・チュプコフも、準決勝で2分6秒83を出して好調さをアピールしていた。


男子200m平泳ぎで銅メダルを獲得した渡辺一平

 ウィルソンは先行型で、チュプコフは極端な後半型。とくにチュプコフは最後の50mが極端に速い。渡辺もどちらかといえば後半が強いのだが、チュプコフはその渡辺より最後の50mだけで1秒以上タイムが速いのだ。

 その「チュプコフ対策」として、渡辺はさまざまなレースパターンを試してきた。渡辺と、渡辺を指導する奥野景介コーチが導き出した答えは、渡辺の強みである「スピードを維持し続ける能力」を生かし、スタートからゴールまでを平均的に速く泳ぐレースパターンだった。

 つまり、ラスト50mが強いチュプコフに対して、150mまででリードを奪って逃げきる作戦だ。実際に決勝のレースでも、渡辺は150mをチュプコフより0秒65速い1分33秒58で、ウィルソンに次ぐ2番手でターンした。

 しかし残り15m付近でチュプコフにかわされ、3着でゴール。チュプコフはラスト50mで31秒89という驚異的なラップを刻み、2分6秒12の世界新記録で優勝した。上位3人が2分6秒台というハイレベルで見応えのあるレースだった。

 世界記録更新と金メダルを狙ったからこそ、渡辺はレース後に「悔しさ80パーセント」と語ったが、一方で充実感も口にした。

「銅メダルなんですけど、今僕ができる最高のパフォーマンスで獲った銅メダルなんじゃないかなと思います。自己ベストではないですけど、しっかりと(2分)6秒台を出せたというのも価値がある。レースプランも勝負にこだわるのではなくて、200m平泳ぎをいかに速く泳ぐかを考えながらレースができた。2年前とは違う成長した自分を表現できたのではないかなと思います」

 今後の課題は、予選から攻めの泳ぎができるベースを作っていくことだろう。今大会、渡辺は準決勝まで力を温存していたが、勝負をする上で後手にならない為にも、高いレベルで3本(予選、準決勝、決勝)泳げる能力が求められる。それは渡辺本人も自覚していた。

「僕は予選・準決勝はできる限り力を使わないようにと考えていました。対して彼らは、予選と準決勝でいいタイムを出して、自信を持って決勝に臨んでいたように思います。練習も僕以上にキツいことをやってきたんだなと感じたので、僕も(今後は)いいタイムを3本揃えられるような力を、(東京オリンピックまでの)1年でつけていきたいです」

 それに続けて、この種目のへの思いを「日本の”お家芸”である200m平泳ぎは、東京オリンピックで絶対に勝たないといけない種目だと思います。これだけ強いライバルが同世代にいるのはすごく光栄なことなので、負けないようにしっかりと1年間やっていきたいです」と力強く述べた。

 また、奥野コーチは東京五輪で勝つために2分5秒台を条件とし、「超ハイペースなレースで最後逃げ切るしかない」と話した。そのために、まずは上半身を強化してプル(腕のストロークの中で、前方でキャッチした水を体の近くへ引き寄せる動作)での推進力を増すこと。さらに、決勝のレースではラスト50mのラップタイムが33秒15だったため、耐乳酸トレーニングを丁寧に丹念にやっていくことで、最後までチュプコフから逃げ切れる力を身につけることを課題とした。

 私から見た今回の渡辺の収穫は、予選から決勝まで狙いどおりのレースができたことだ。予選からいい記録を揃えることを課題には挙げたが、渡辺本人も言うように各レースで現時点の能力を出し切っていたし、レース中のペースや泳ぎもコントロールできていた。

 渡辺が世界新記録を出したのは国内大会(2017年の東京都選手権)で、世界選手権のような世界のライバルがいる中で出した記録ではなかった。しかし今回は、世界記録保持者として金メダルの期待がかかるプレッシャーを背負いながら、世界水泳の舞台で想定どおりの泳ぎができた。世界で勝つことを”狙って”勝負ができる実力がついてきた何よりの証拠だ。

 この自信と悔しさを胸に、来年の東京五輪では世界記録での金メダルを目指してほしい。

Sportiva

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