テストでの“判断ミス”と暑さが響いたもてぎ戦。そして良好なコンビ仲の秘訣【井口&山内のBRZコラム Vol.3】

2021年7月28日(水)11時56分 AUTOSPORT web

 今季、GT300クラスに新型『SUBARU BRZ R&D SPORT』を投入したSUBARU陣営。そのステアリングを握る井口卓人選手と山内英輝選手が、オートスポーツwebにコラムを寄せてくれることになりました。ドライバーのふたりは毎レース後、交互に登場します。


 今回は予選7番手/決勝11位で終えたツインリンクもてぎでの第4戦、苦闘の裏側を山内選手が語ってくれました。


 そして前回とは反対に山内選手目線での、井口選手との出会いやこれまでのエピソードも。が、話は意外や井口選手と組む以前の『いまの山内英輝』が完成したいきさつにまでおよび……。しかしそれこそが、現在の井口・山内コンビの“土台”を作っているとも言えそうです。


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 皆さんこんにちは、SUBARUの山内英輝です。


 もてぎは厳しいレースになってしまいました。公式練習の走り出しから前後ともにうまくグリップが出せず、曲がらない、高速コーナーではリヤの支えがない……という感じでかなり苦戦していました。


 じつは新型SUBARU BRZになってからもてぎではテストをしておらず、今回のレースウイークが初走行でした。でも、6月上旬にSUGOでテストがあったんです。いま思えば、そのテストでの“判断”が間違っていたことが、もてぎの不調につながってしまったのかもしれません。


 SUGOのテストでは、ダンロップさんのタイヤを含めいいバランスのものが見つかりました。もてぎで重要になるトラクションを重視してもコーナリングが速かったし、一発も、アベレージもタイムが良かった。


「SUGOでも良かったし、これでもてぎも行けるだろう」と思って、SUGOテストをベースにもてぎ向けのアレンジを施して第4戦に臨んだのですが、もてぎでは路温が高すぎたことで、うまくいかなかったんだと思います。


 そんなわけで公式練習から予選までにマシンをガラっと変え、卓ちゃんがギリギリでQ1を突破してくれました。Q2でマシンに乗ったら朝より全然良くなっていて、決勝もポイント圏内ではフィニッシュできるだろう、と思っていたんです。


 ところが7番手からスタートしてみたら、前の6台に全然ついていくことができませんでした。始まって2周で「あぁ、うしろのマシン全部と戦わなきゃいけないんだな」という覚悟ができましたね。

スタート担当の山内は、序盤から後続を抑える苦しい展開となってしまう


 コーナリングスピードがある程度速ければ、トップスピードがなくてもカバーできたと思いますが、今回の僕らはコーナーも遅かったので、なす術がなく……。加えて、予選で上位に行くことを考えていたためスタートタイヤは柔らかめのコンパウンド。高気温ともあいまってタイヤがやや早めに厳しくなってしまったこともあり、何台かに抜かれてしまう形となりました。


 早めのピットに入って後半は硬めのコンパウンドで卓ちゃんが行ってくれましたが、やはり周りに比べると厳しく、ノーポイントに終わってしまいました。今回、『こうするとダメだな』というのは分かったので、次のレースからはもっと成長できるように頑張りたいです。


 ただ今年はもう1回、寒い時期にもてぎ戦があるのが、なんとも悩ましいです。寒くなったときに今回選んだタイヤがいいのか、それとも1・2戦目で使っていたものがいいのか……など、とても難しい判断を迫られそうです。


 次は相性のいい鈴鹿。今回の悔しさを含め、すべてをそこにブチ込みたいと思います!


 いままでは正直、ライバルとしてブリヂストン勢を注視していたのですが、今回のもてぎを見るとヨコハマ勢もおそらくかなり開発を進めていて、上位に来ている。となると鈴鹿でも誰が上に来てもおかしくないし、すごい接戦にはなるだろうなと覚悟しています。

ピットでは四輪交換を選択。コンパウンドを変更するが、後半の井口も苦戦した


■井口卓人は「気遣いの人」。絶妙だったコンビ結成のタイミング


 ではここからは前回の卓ちゃんのコラムとは逆に、僕が卓ちゃんとの出会いや彼の存在について、語ってみましょう!


 といっても、僕も卓ちゃんと同様、初対面がいつだったのかは曖昧です(笑)。記憶をたどると……キャリア的には僕の方が先にトヨタの育成プログラムに入っていたので、最初は卓ちゃんの方が年下かなと思ってたんですが、どこかのタイミングで向こうが年上(編注:同じ1988年生まれだが学年は井口がひとつ上)だと知り、ちょっと気まずかった覚えはあります(笑)。


 卓ちゃんは当時の僕のことを「怖い印象だった」と言っていましたが、F1を目指してトヨタの育成プログラムにいる以上、「周りは全員敵だ」と思ってやっていましたし、正直、仲良くする意味が分からなかったんです。


 なので、仲良くなったのは、やはり育成プログラムを出てからじゃないでしょうか。同じような境遇の蒲生尚弥選手、松井孝允選手、そして吉田広樹選手とも、その頃から仲が良かったです。


 話は少し変わりますが、トガってた僕が変わるきっかけになったのは、2013年にJLOCからGT300に出場した際にコンビを組ませてもらった吉本大樹さん、そして翌年にゲイナーで一緒に戦った植田正幸さんの存在です。


 それまではGTでもすごく“バチバチ”やってたんですけど、やっぱりそれだと結果が出ない。そのあたり、吉本さんははっきりと言ってくださる方なのでいろいろと教えていただきましたし、植田さんには“パートナーと組んで一緒に結果を出す”ことの楽しさを教えてもらいました。ゲイナーのチームの皆さんからも、たくさん学びましたね。本当にありがたかったです。


 そんなわけで、2015年にSUBARUに加入して卓ちゃんと組めたのは、本当にタイミングが良かったと思います。前のまんまの僕だったら、誰と組んでも絶対にうまくやっていけなかったでしょうね(笑)。

2015年、コンビ結成直後の井口と山内


 卓ちゃんとの関係性も、コンビを組んでからいままで、そんなに変わってないんですよ。基本的には卓ちゃんの方が大人しいというか、落ち着いているというか。あと、すごく気を使ってくれる人なんだなぁ、と。


 僕が後から加入したこともあり、当初はテストでも卓ちゃんがタイヤ評価を全部やり、僕がロングラン担当という形だったのですが、「山ちゃんにもニュータイヤを履いてもらって、お互いタイムが出るようにやりましょう」と、卓ちゃんからチームに提案してくれたことがありました。想像以上に気を使ってくれる人なんだな、というのは組んでから分かったことですね。


 対して僕は、やっぱり感情的に突っ走ってしまうタイプ。そういえばSUBARUに加入した当初、無線のところに「敬語!」って書かれていたこともありましたね(笑)。レース中、どうしてもアツくなると無線でタメ口になっちゃってたんですが、TVとかでも映像・音声が使われる可能性もあるので……というチーム側からの配慮でした。まぁ、いまでもアツくなったら敬語ではなくなっていると思いますが(笑)。


 卓ちゃんは常に相手を傷つけないような話し方をしますし、そこからは僕もだいぶ勉強させてもらったと思います。いまでもどうしても、僕の方が少しストレートな物言いにはなってしまうんですけど、やっぱりチームスポーツなので、コミュニケーションは大事ですからね。あとはとっても家族思いなところも、卓ちゃんから学ばせてもらってますね!

コンビ結成2年目の2016年、第6戦鈴鹿1000kmでコンビ初優勝を飾る。山内にとってはGT300初優勝でもあった。


 以前は正直、バトルになったときに引いてしまう卓ちゃんの“優しさ”が気になることもありました。僕らBRZはストレートが劣るので、バトルの時に引いてしまうと完全に打つ手がなくなってしまいます。でも僕が口に出すまでもなく、卓ちゃんの方から「一緒にシミュレーター行ってもらえますか」と言ってくれたりするようになって嬉しいです。そういうところに、コンビがうまくいく秘訣があるんじゃないかと思います。


 さきほど名前を挙げたところでいえば、蒲生選手も松井選手もGT300のタイトルを獲っています。コンビ歴は長くなってきているけど、卓ちゃんと僕はまだそこに手が届いていない。だからこそ、このチームで、卓ちゃんと一緒に、絶対にタイトルを獲りたい。


 ありがたいことにSUBARUファンの皆さんからもすごくアツい応援をいただきますし、それに応えたい気持ちも強いです。ドライバーのどちらかがその目標に対して少しでも醒めていると、タイトルへの思いを発言すること自体に恥ずかしさを感じてしまうと思いますが、僕らにはまったくそれがない。むしろ、期待に応えたいという気持ちがお互いの行動に表れていて、それがさらにチームにも伝わり、「全員で頑張ろう!」という雰囲気がすごくあるんです。


 もてぎ戦はうまくいきませんでしたが、引き続き悲願のタイトルを目指して全力で戦いたいと思います!

2021スーパーGT第4戦もてぎ SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

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