「たまに『仕事』もします」。ミシャ式が守備練習を必要としない理由とそのDNA【ミハイロ・ペトロヴィッチの哲学・後編】

7月30日(火)10時10分 フットボールチャンネル

5+4でスペースを埋めてしまう

 サンフレッチェ広島を5年、浦和レッズを5年、2018年から北海道コンサドーレ札幌を指揮し、これまで常にチームを自分の色に染め、選手も成長させてきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督。“ミシャ式”はJリーグにおいて10年以上汎用され続けているが、その独特の指導法にはどのような哲学があるのか。8/6発売の『フットボール批評 isuue25』から、一部抜粋して発売に先駆けて前後編で公開する。今回は前編。(取材・文:西部謙司)

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 10年を経過してもミシャ式に効力があるのは、形状変化による戦術的効果だけではない。選手が上手くなるからだ。

 ペトロヴィッチ監督は守備のトレーニングをほとんどやらないことで有名だった。頑固なぐらい守備に手をつけない。セットプレーもやらない。その理由は、伝え聞くところによると「守備はいつでもできる」という考えがあったからだという。

 引いたときのミシャ式は5-4-1だった(現在は必ずしもそうではない)。5+4でスペースを埋めてしまえば、日本のチームは攻略できないと考えていた。これはミシャ式導入初期の話なので、現在はまた違うと思うが、引ききってしまえば問題ないと考えていれば確かに守備練習に時間を割く意味はなかったのかもしれない。

「たまに『仕事』もします」

 こちらは直接聞いた話。ペトロヴィッチ監督は、ごくまれだが最初から5-4-1で守備を固めることがあった。それを「仕事」と言っていた。この場合の「仕事」は、勝ち点をとるために、お金を稼ぐために、本意ではないがやるという意味での「仕事」である。

 ペトロヴィッチ監督にとって、サッカーは自分たちがボールを保持しながら主導権を握り、さまざまなアイデアを駆使して相手を攻略して勝つゲームなのだろう。そこに喜びがある。スコットランド由来のDNAだ。

トレーニングの目的は実際に選手を上手くすること

 トレーニングの大半はゲーム形式だった。通常よりも狭いフィールドで11対11を行う。紅白戦なので、相手も3-4-2-1の可変型。ミラーゲームであり、当たり前だが互いに手の内は知っている。つまり、ミシャ式のフォーメーション変化によるアドバンテージがほとんどないゲームだ。

 その中で、プレーに制約を加える。ドリブルなし、ワンタッチだけ、パスを出した選手にリターンしない、組み合わせてワンタッチ+リターンなし。制約なしでもやるが、制約を加えることで判断の質を変え、発見を促す。プレーの途中で監督が止め、こういう方法もあるとアイデアを加えることもある。

 ミシャ式は形から入っているが、トレーニングではボールを動かすことで人をいかに操るかという本質の強化を行っていたと考えられる。これは「人とボール」に関わることなので、ミシャ式とは関係なく普遍的だ。

 ミシャ式による形状変化は、選手をより上手く見せる効果があるが、トレーニングの目的は実際に選手を上手くすることだった。ゲーム形式のトレーニングの中で、選手はどうプレーすべきかを発見し、チームメートとのコンビネーションを発見していく。

(取材・文:西部謙司)

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