天野純を直撃。ベルギー2部移籍の真相、現実を突きつけられる日々で見出したもの(前編)

7月31日(水)7時0分 フットボールチャンネル

「違いを作らないと自分がいる意味はない」

 この夏、Jリーグから多くの選手が欧州移籍を決断した。その中の1人、天野純は異色の存在だ。28歳で選んだ初めての海外挑戦の背景にはどんな思いがあったのか。そして、ベルギーでどんな日々を過ごしているのだろうか。オランダに飛び、練習試合を終えた天野を直撃した。今回は前編。(取材・文:舩木渉【オランダ】)

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 プレシーズンの練習試合で、まさか発煙筒や花火が焚かれるとは想像していなかった。2019年7月17日、NACブレダ対ロケレンの試合開始直前、アウェイのロケレンサポーターが持ち込んだ火薬類に火を点けた。

 ちなみに両クラブは1993年に開催された親善試合をきっかけに友好関係を築いており、サポーター同士の関係も非常に良好だ。2つのクラブの名前が記されたフラッグもいくつか掲げられていた。そのため熱狂的でありながら、発煙筒が焚かれても危険な雰囲気は一切ない。

 今回の試合が行われた、オランダ南部の小さな街アウデンボッシュの外れにある簡素なスタンドが設けられたピッチは黙々と広がった黄色い煙に覆われた。その煙が晴れ、試合開始のホイッスルが吹かれる瞬間、ロケレンに移籍したばかりの日本代表MF天野純が目の前にいた。

 この夏、横浜F・マリノスからベルギー2部のロケレンに移籍したばかりの天野は、背番号14のユニフォームをまとい、オランダ2部NACブレダ戦に4-2-3-1の右サイドMFとして先発起用された。加入して以降、2戦目の実戦だった。

 ピッチ上での役割は、マリノス時代とは全く違う。スタートポジションこそ右サイドなものの、自分たちがボールを保持している状況であれば、どんどんインサイドに進出して、周りと近い距離でプレーに関与していく。時には相手ディフェンスラインの裏に抜け出し、ペナルティエリア内でフィニッシュに絡み、中盤からラストパスも供給する。すでにセットプレーのキッカーも任されており、チームからの信頼を感じ取ることができた。

 試合後、天野を直撃した。マリノスでは全体の立ち位置のバランスを考えながら動く必要があっただけに、全く異なるスタイルの中で何を感じながらプレーしているのか。黄白黒のトリコロールの一員になった背番号14は、プレーの変化や戦術の違いを指摘すると「本当にそうですよね」と笑った。

「(右サイドは)マリノスでは考えられないですけど、監督はより前で使いたいということなので、インサイドでプレーしろ、外にあまり張らなくていいと言われていて、だから今は新境地というか、すごく面白いですね」

 ピッチ上で自由を与えられるということは、同時に結果への責任も求められる。天野は「右サイドバックの選手がすごくタフなので、ある程度任せて、右、左と自由に動いています。その代わり前で違いを作らないと自分がいる意味はないので、そこはすごく意識していますね」と表情を引き締める。

ボールが来ない…。欧州の洗礼を浴びて

 NACブレダ戦で移籍後初の先発出場を果たした。そこまでの短い期間にも大変なことは多くあったという。「最初の5日間とか、練習試合までは結構きつかったですね。ボールは全然来ないし」と、初の海外挑戦で欧州の洗礼を浴びた。

「私生活もですよ。『何だこの日本人』みたいな雰囲気がすごくあったので、やっぱり海外組ってすげえなって思いながら、徐々に積み上げている感じです。日本で、マリノスで実績を作ったとか、こっちの人からしたらそのキャリアは一切関係ないから。やっぱり認められるまで、今はまだ結構大変ですね」

 風向きが変わり始めたのは、移籍後初めての練習試合だった。7月13日に行われたベルギー1部のズルテ・ワレヘム戦に後半から途中出場して1アシスト。格上相手の2-2ドローに、数字に残る結果で貢献して見せたのである。

「最初の練習試合のときに、ここでアピールしなかったら結構ズルズルいっちゃうなと思ったので、一発気合い入れてやったらうまくいって、そこからだいぶみんなが認めてくれるような雰囲気とか、そういうのが出てきました」

 それから4日が経ったNACブレダ戦。試合前のウォーミングアップなどを観察していると、チームメイトから話しかけられるなど、徐々にチームに馴染めてきている天野の姿があった。そして、初先発となったオランダでのアウェイゲームで、背番号14は得意のコーナーキックからイェッレ・ファン・ダンメのゴールをアシスト。その1点が決勝点となり、2戦連続アシストが勝利に繋がった。

 天野は、こうした「結果」がチーム内での自分の立場を築いていくことを理解した。それは誰もが自分のことを知っているマリノスでは味わえなかった厳しさ。欧州移籍で、まさに求めていたものだった。

「いやあ、きついですね。海外での生活だったり、プレーをもっと舐めていました。でもやっぱり厳しいし、本当に1つひとつ、ここからは自分の力なので、今は試されているなという感じですね。ピッチで自分のプレーを見せていくのが全てなのかなという感じがすごくしています。何か変に私生活で積極的に話にいってとか、そうじゃなくて、練習だったり、こういう練習試合だったりで、より親密になれる関係性がある。そこがやっぱり日本で描いていたものと少し違うと思いますね」

ロケレンは「ぬるま湯」なのか?

 ただ、正直な印象としてロケレンは天野にとって「ぬるま湯」なのではないかとも感じる。はっきりと質が高いと言えるのは、ベルギー代表歴を持つファン・ダンメと、天野の後ろを支える右サイドバックのステファノ・マルツォくらい。おそらくこのままいけば代えの利かない存在として重宝されるのは確実ではないかと、試合を見ていて感じた。

 その疑問をぶつけると、天野は「そういう見方をされるのは仕方ないと思います」と答え、このタイミングで欧州へ挑戦する決断をした背景と経緯についても語ってくれた。

「正直、他にも候補はあったし、もちろんもう少し上のレベルでやる選択肢もあった中で、自分の身の丈に合ったクラブを、ステップアップというより、それにふさわしいクラブを僕の中で選択したつもりだし、やっぱりこのタイミングで海外に行くしかないと思いました」

「足もとは本当に日本人の方が間違いなく上手いし、Jリーグの方がレベルも高いと思いますけど、球際のところと寄せのスピード、体の大きさとか、それはロケレンでも練習から全くレベル違うと思ったし、そこの一瞬の脚の伸びだったりというところは、本当に今調整中です」

 マリノスでは今年から背番号を「14」から「10」に変更し、キャプテンの1人にも任命された。昨年は日本代表デビューを果たし、間違いなく中心選手としてチームを引っ張っていかなければいけない立場になった。

 それでも移籍を選んだのは、自分の成長を止めたくないという思いと、夢だった欧州でのプレーを実現するためのタイムリミットが迫っている実感があったから。悩み抜いた末に、J1で上位争いに絡むマリノスを離れる決断を下した。

「いやあ、やばかったですね、もう。何ヶ月か本当に悩んだし、でもやっぱりキャプテンだし、チームを引っ張らないといけない立場にいる中で、絶対にやっちゃいけないですけど、それがたまに練習とかに出ちゃっているなと自分の中では感じていて…。本当に悩みに悩んで、自分のキャリアを考えました。本当に正解かは結局最後までわからなかったですけど、もう行かないで後悔はしたくないなと思ったので、決断しました」

(取材・文:舩木渉【オランダ】)

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