イエロー多発のレースをエリクソンが逆転勝利。佐藤琢磨は多重クラッシュの餌食に/インディカー第11戦ナッシュビル

2021年8月9日(月)16時54分 AUTOSPORT web

 NTTインディカー・シリーズ第11戦ナッシュビルの決勝レースが8日に行われ、イエローコーション多発のレースをマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)が制した。


 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、今季ワーストの24番グリッドから追い上げを見せるも、マルチクラッシュに巻き込まれリタイアとなった。


 新しいストリートレース、ビッグ・マシン・ミュージックシティGPがテネシー州々都のナッシュビルのダウンタウンで初めて開催された。


 アメリカではCOVID-19の第4波が猛威を振るい始めているが、南部の大都市での新しいビッグイベントには大勢の観客が押し寄せ、活気が満ち溢れる中でインディカーレースは行われた。マスク着用は推奨されているものの、屋外イベントなこともあり、サーキットを訪れたファンのほとんどはノーマスクだった。


 NFLのテネシー・タイタンズが本拠地とするニッサンスタジアム周辺の道路と、ダウンタウンを流れる大きな川を渡る大きな橋がレイアウトとされたコースの全長は2.17マイル。


 直角コーナーが多く、コーナリングスピードは全体的に低いのだが、橋の上でインディカーは時速185mphに達する。ストリートコースはバンピーなものだが、ナシュビルの場合は大きな橋の継ぎ目部分が“暴力的にバンピー”で、マシンのフロアやサスペンション、ギヤボックスのケーシングなどにダメージが及ぶ可能性が心配された。


 初走行を終えた金曜日の夜、インディカーは少しでも路面がスムーズになるよう、ブリッジの両端でコースの表面を削る作業が行われた。それでも、コース幅がタイトなことも手伝い、レースではアクシデントが多発し、出されたフルコース・コーションは13回。


 残り5周で出された最後のイエローは、レースをグリーン下で終わらせるために赤旗とされ、タイヤバリアをセットし直した後にレースが再開された。


 ナッシュビルでの8月開催となれば、強い日差しが照り付ける上に湿度も高く、非常に厳しい酷暑の下でのレースになることが誰の目にも明らかだった。しかし、幸いにもレースの直前になって太陽は雲に覆われ、比較的過ごし易いコンディション下でバトルは繰り広げられた。


 予選でポールポジションを獲得したのはコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)。プラクティス1、プラクティス2ともに最速だったハータは、予選のQ1をブラックタイヤのみ使用でクリア。Q2、Q3にレッドの新品を1セットずつ投入し、予選2番手のスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)にコンマ5秒以上の差をつけてみせた。

レースをリードするコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)


 レースでもハータの速さは突出していた。しかし、ピットタイミングによってトップの座を明け渡すシーンも見られた。


 57周目のリスタートを6番手で迎えたハータは、フェリックス・ローゼンクヴィスト(アロウ・マクラーレンSP)、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)、ジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)を次々とパス。


 62周目にはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)もオーバーテイクし、トップを走行するマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)の背後へと迫った。


 エリクソンは序盤5周目のリスタート時にセバスチャン・ブルデー(AJフォイト・エンタープライゼス)のリヤに突っ込み、タイヤに乗り上げたために大きくジャンプ。ブルデーを飛び越えてノーズから地面に着地した。


 リヤウィングなどに大きなダメージを受けてブルデーはリタイア。しかし、エリクソンはピットでノーズやタイヤを交換するとレースに復帰した。アクシデントを起こしたために科せられたペナルティによって彼は最後尾まで下がったが、多くこなしたピットストップのたびに燃料を補給するなどの作戦を駆使、徐々にポジションを上げていった。

ノーズを破損しながら走行するマーカス・エリクソン



■ハータとエリクソンの一騎打ち



 終盤大詰め、ディクソンを抜いたハータが、その勢いのままエリクソンもパスしてトップを奪い返す可能性は非常に高いと見ら荒れた。ところが、エリクソンの抵抗は長く続き、ハータの方がタイヤを酷使し過ぎてグリップ低下に陥ったようだった。エリクソンが小さくだがリードを広げ、69周目にはハータがブリッジを降りて来たターン9でホイールをロックさせるミスを冒した。


 これで両者の差は2秒以上に開き、エリクソンの逃げ切りがなるのか……という雰囲気になったが、74周目には再び両者の差は1秒を切る。


 ハータのアタックがまた始まる……と思われた途端だった。ターン9で他のドライバーたちより大きくイン側にラインを採る彼は、さらにインへとステアリングを切り込むところでグリップを失い、コーナーを曲がり切れずにコンクリートのウォールに激しくヒット。自滅によるリタイアを喫した。


 これでレースは赤旗になり、ゴールまで2周でグリーンフラッグが振り下ろされた。ハータに代わってエリクソンにアタックするのは、先輩チームメイトのディクソンだった。


 しかし、7度目のタイトル獲得に闘志を燃やしているディクソンをもってしても、エリクソンからトップを奪うことはできず、レース序盤に空を飛んだドライバーがキャリア2勝目を記録したのだった。


 3、4位はアンドレッティ・オートスポートのベテラン勢、ジェイムズ・ヒンチクリフとライアン・ハンター-レイ。5位はグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)で、6位はエド・ジョーンズ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・バッサー・サリバン)、7位はポイントリーダーのアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)と、ホンダ勢が1位から7位までを独占した。

初開催ナッシュビルの表彰台で喜ぶ3人


 ナッシュビルの初代ウイナーとなるキャリア2勝目を挙げたエリクソンは、「自分でもどうやって勝ったのか、まだ完全に理解し切れていない。言えるのは、信じられない勝利だということ」


「インディカーシリーズでは本当に何が起こるかわからない。絶対に諦めず、全力で戦い続ければチャンスが訪れる。自分には非常に優秀なチームがいる。彼らは素晴らしいマシンを用意し、勝つことを可能にしてくれる」


「今日は、レース序盤のアクシデントで受けたダメージが大きく、あそこで自分は終わりだと思った。しかし、ひとつでも上位でゴールできるよう頑張ることにした。トップ15がまずは目標だった。しかし、どんどんと順位を上げていき、トップ10入り、さらにはトップ5も狙える状況へと変わっていった」


「ハータが背後に来た時は、“このままうまくいくことはないだろうな”と考えた。今週末の彼は本当に速かったから。しかも自分には、彼を背後に封じ込めながら、燃費のセーブも行わねばならない状況になっていた」


「ピットの指示してくる数字は実現が非常に難しいものだった。そんな中、これまで積み重ねて来た経験を総動員し、どうやったら相手に抜かれず、燃費もセーブできるかを考えて、それを実践した。私のレースキャリアの中でも最良のパフォーマンスを今日は披露できた……と正直考えている」と誇らしげに語った。


 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、金曜日のプラクティス1からグリップ感の不足に苦しみ、予選に向けたセッティング変更も成功しなかった。


 グリッドは27台出場中の24番手という後方。厳しい戦いになるものと見られた。しかし、決勝日のウォームアップでマシンの動きが良くなり、チームメイトのレイホールがトライしたセッティングが大きな効果をもたらしたことから、それを自分のマシンにも移植することを決意。レースではスタート直後からバトルの末にライバル勢をパスする戦い振りを見せていた。


 序盤のフルコースコーションで何台ものマシンがピットイン。ここでコースに残った琢磨は13番手までポジションアップし、さらに上位を狙える雰囲気を醸し出していた。


 ところが、20周目のリスタートでウィル・パワー(チーム・ペンスキー)がチームメイトのシモン・パジェノーを弾き飛ばし、彼のマシンはコースのアウト側の壁にヒット。そのすぐ後ろを走っていたリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)も巻き添えを食い、その後方を走っていたマシンの多くは塞がれたコースで立ち往生することとなった。

マルチクラッシュに巻き込まれる佐藤琢磨


 ここで琢磨はビーケイのマシンの後方に突っ込み、サスペンションアームを曲げ、ステアリングラックにもダメージを負ったため、リタイアとなった。


 レース後の琢磨は、「とても厳しいレースになりました。ナッシュビルは素晴らしい雰囲気で、とても多くのファンがレースに集まってくれました。ミュージックフェスティバルと一緒になって、賑やかに開催されたレースとなっていました」


「新イベントということで、ロングビーチ以上の雰囲気になっていたとも思います。スタートでは多くのクルマが入り乱れ、混乱が起きてアクシデントが多発しましたが、すべてを避けることができていました」


「コース上でライバル勢をオーバーテイクし、13番手まで順位を上げました。トップグループに近づいて行くことができていたと思います。レース序盤の戦いぶりは、かなり勇気づけられるものになっていたんです」


「しかし、再スタート時にクラッシュが発生、私の目の前でクルマが絡み合い、タイトなコーナー部に2台が並んでストップ、避けきれずにぶつかり、フロントサスペンションを破損しました。それでも、何とかピットまで戻ることができて、クルーたちが修理を試みてくれたのですが、重要なパーツのひとつが修復不能な状態になっていたため、残念ですがレースに戻ることはできませんでした」と話していた。


 インディカーシリーズは休むことなく、今週末には2021年シーズン第12戦をインディアナポリスのロードコースで行う。

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