犬飼智也が鹿島に来て変わった勝利の味 「喜びより先にホッとします」

8月10日(土)8時17分 Sportiva

遺伝子〜鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学〜(47)
犬飼智也 後編

 ロスタイム6分。2点リードを許しながらも、追いつき、その後も攻勢を続けていたにも関わらず、勝利を決定づける3点目は奪えず、逆にボールロストからピンチを招き、与えたコーナーキックから失点。Jリーグ第21節、鹿島は湘南ベルマーレ相手に2−3で敗れ、リーグ戦8戦ぶりの黒星を喫した。

「後半開始直後に失点をしてしまったことが、この試合を象徴している。自分たちが後半の立ち上がりをしっかり入れなかったことが、のちのち、響いてきた。ハーフタイムにも伝えていたが、集中力、注意力が足りなかった。自分たちの意識の問題。プレースピード、攻守の切り替えのスピードをもっと速く、強くしていかなければいけなかった」

 大岩剛監督は、終了間際の失点以上に、49分、52分の2失点について口にした。

 土居聖真も「完璧に同じ形での失点。後半の(終了直前の失点につながった)最後のワンプレーもありましたけど、同じ形で2回もやられてる。しかも短い時間。あれはよくなかったし、あれがすべてだと思う。相手がよかったとかじゃないし、本当にうちの不注意というか、あっさりとやられた。それはレッズ戦も同じだった」と話した。

 7月31日の第16節浦和戦も1点リードしながら、88分に失点して勝ち点3を獲りこぼした。そして、中2日での湘南戦。湘南のチョウ・キジェ監督が「日程のところで公平性があったのか。鹿島の選手は身体が重かった」と指摘している。7月20日に第20節を戦い、鹿島戦を迎えた湘南と鹿島との違いは小さくはなかっただろう。浦和戦は気温31.2度、湿度64.0%。湘南戦は気温27.7度、湿度86.0%という気象条件を考えても、積み重なる疲労は心身ともに大きい。

 それでも、それが敗戦の理由にはならない。

「僕らはそれを言い訳に戦いたくはない。去年からずっと過密日程でやってきたし、そういうなかでも選手スタッフ、サポーターと戦ってきた。厳しい戦いですけど、当たり前だし、それを乗り越えてこそのチャンピオンになれるのか、なれないのかだと思います」

 選手の想いを代表するように土居は語る。

 それでも、試合巧者の伝統を持つ鹿島らしくない失点。大幅な選手の入れ替わりがそこに影響を及ぼしていることも事実だろう。過密日程に慣れていない選手も少なくない。ベテラン選手の不在もまた、「言い訳」にはできないテーマではあるが、勝利しなければ、そう言われてしまうのは当然のことだ。今季、頼もしさを増した土居は続ける。

「僕も戦い方やその姿勢を教えられてきたわけじゃない。先輩の背中やチームの雰囲気を感じ取ってきた。言われてやるようじゃまだまだだし。今いる選手たちはそういう選手でもない。ただ、選手ひとりひとりが意識は高く保たなくちゃいけない。シーズンを通して考えれば、すべていい試合ができるわけじゃない。だから、こういう苦しくなったときに僕も含めて、ひとりでも多く、自発的にチームを鼓舞できる選手がいればいるほど、流れは変えられると思う。みんな頑張っているし、悪くない。本当にちょっとのスキだと思う。そこが大事なのをわかっているからこそ、選手ひとりひとりがその課題を抱え込まず、チーム全体でスキを埋めていきたい」

 一見、些細に見えることが勝敗やタイトルという大きな結果につながる。細部へのこだわりの重要性を語る勝者は多い。しかし、ミスは起きる。それをお互いにカバーし合える状態が続けば、良い結果が生まれる。昨季はそうやって、選手の不在や日程などの苦境を乗り越えた。選手個々の力不足を埋めるためのチーム力を今、試されている。

 浦和戦でデビューした上田綺世は、湘南戦でも終盤にピッチへ送り込まれた。何度かポストプレーで強さを発揮したものの、得点につながることはなかった。

 勝利やタイトル獲得が鹿島というクラブにとって、いかに重要なことなのか。ピッチに立つことでサポ—ターからの期待やプレッシャー、熱を改めて感じることはあるかと上田に訊いた。

「鹿島がどういうクラブかは小さいころから知っているし、そういうクラブだとわかって入っている。それ(サポーターの熱や圧力)を歓声に変えるという責任が自分に乗っているだけです」

 ジュニアユース出身の上田のなかにも鹿島のDNAは流れていた。

 2019年度に加入した伊藤翔、白崎凌兵、小池裕太らは、今夏に移籍した鈴木優磨、安部裕葵、安西幸輝の穴を埋めるに十分な戦力となっている。移籍で失う恐れのあるポジションを想定したチーム編成だったに違いない。それは、2018年加入の犬飼智也にも共通する点だ。昌子源植田直通というレギュラーCB2枚を失っても、上位争いを続けるための獲得だった(もちろんシーズン途中に加入したチョン・スンヒョンも同じく)。


鹿島での勝利は「任務」と語った犬飼智也

 清水エスパルスのジュニアユース、ユースと経て2012年にトップへ昇格した犬飼だったが、1年目はリーグ戦出場1試合だけだった。2年目の途中、出場機会を求めて、当時J2の松本山雅へ期限つき移籍するとレギュラーポジションを獲得し、2014年にはJ1昇格を果たす。2015年清水へ復帰したものの、J2降格も経験。1年でJ1に復帰したもののケガなどもあり、2017年の出場は16試合に留まっていた。

「鹿島のSBはみな日本代表。鹿島でポジションを獲れば日本代表に近づける」

 鹿島加入時にそう話していたのは安西だった。それは犬飼も同じだった。日本代表の経験は2012年のU-19選出くらいしかない。全国的には無名とも言える存在だったが、犬飼は、日本代表入りという野心があったからこそ、鹿島へ挑戦した。

 週末の試合での勝利、そしてタイトル獲得。それが日常であり、それを現実のものにする鹿島の選手たちは皆、野心家だ。野心がなければ、厳しい戦いは勝ち抜けない。

——犬飼選手がCBでプレーし始めたのはいつごろですか?

「しっかりとそのポジションでプレーしたのは、中学になってからだと思います。小学生時代も市の選抜でCBを務めることもありました。最初はやっぱり嫌でしたね。幼いころはFWをやっていましたが、小学生高学年で中盤、ボランチなどでプレーしていたんです。小学時代の僕のアイドルは小野伸二さんで、アウトサイドでのパスを真似たりしていました。あとはジダンやロナウジーニョが好きでしたね」

——ゲームメーカーとしては、なんでCBなんだよと思いますよね。

「でも、自分が試合に出られるのなら、CBでもいいと自然に考えるようになっていきました」

——CBからゲームを作る時代にもなっています。技術も活かせる。

「そこは自分の良さだと思うので、トライし続けています」

——プロに入って2年目の途中に松本へ移籍。早い決断だとも感じますが。

「試合に出ること、そこで結果を残すこと。プロの厳しさというのは理解していたけれど、とにかく試合に出て、経験を積みたい。そうじゃなければ、なにも始まらないという気持ちが強くありました」

——J2とはいえ、松本へ行っても競争はあります。

「そうですね。でも、シーズン途中での加入だったので、その時点でチームの戦力にならないといけない。そういう覚悟は自然と持っていました」

——すぐにチャンスも手にしました。

「松本でずっと試合に出続けられたこと。そして、ほとんど負けなかったこと。最初のシーズンは昇格できなかったけれど、2年目で昇格も果たせました。そういう結果が自分に大きな自信を与えてくれたし、松本での1年半がなければ、今の僕はいないと思います。もちろん、その後清水へ戻り、いろんな経験をしました。昇格も降格も、ケガでの離脱も。そういう意味では鹿島の選手が経験できない経験をしてきた結果、今の僕なんです」

——Jリーグでプレーする選手にとって、鹿島からのオファーというのは、どのようなものなのでしょうか?

「鹿島はやはり、日本のトップのチームだと思います。でも、清水でプレーしていたときに、『いつか鹿島へ入りたい』ということは考えていませんでした。でも、いざオファーが来たときは、自分が成長できると感じたし、魅力はありました。どのチームからであっても、『オファー』というのは、自分が評価された証なので、嬉しいです。でも、鹿島からの評価はやはり特別なことだと思います。清水時代の先輩からも『鹿島からオファーが来る選手は間違いがない』と言って頂きました」

——とはいえ、当時の鹿島には日本代表のCBがふたりいる。どちらかからポジションを奪わないと試合には出られない。

「はい。でもだからこそ、シンプルな話だなと思ったんです。そのポジション争いに勝てば、(代表スタッフや世間からも)見られると思う。ひとりじゃなく、ふたり揃って代表でしたから、どちらかからポジションを獲れば、僕にとっての日本代表も現実味を増すだろうと。それに身近に代表選手がいることは、基準がわかるというか、自分がなにをすべきかを理解しやすい環境だとも感じました」




——そのふたりが移籍という形でチームを離れ、レギュラーポジションを得た現在。ポジションを奪う立場から、守る立場へと変わったのでしょうか?

「(クビをひねりながら)……まだ満足はできていない。もっと絶対的な存在になれると自分に期待しているし、もっとやらなくちゃいけないと思っています。まだまだ物足りないですね」

——若手のころは先輩から学んで……という姿勢で挑んだのかもしれませんが、20代半ばとなった今、変化はありますか?

「若いときはいろんなことを吸収しようとして、あらゆることを吸収している。もちろん今もそこはあるんです。でも、ある年齢、たとえば僕くらいの20代半ばになれば、力を評価されて、試合に出してもらっている。だからまずは、自分のプレーをしっかり出すこと、チームとしてやることをしっかりやることが一番大事。それをしたうえで、もっと自分にできることが他にあるのかと考えています」

——犬飼選手のなかで、目指すべきCB像があり、そこへ近づくように成長もしているんだろうけれど、目指すべき姿もまた日々、高くなる。いつも6合目みたいな感覚ですか?

「本当にそうだと思います。絶対に昔の自分よりできているという自負があるけれど、物足りなさもまた強く感じるので。鹿島のCBとしては全然足りていないし、毎試合反省ばかりで、自分が満足いくような選手にはなれてはいないです」

——松本時代に数多くの勝利を経験して自信をつけたと話していましたが、鹿島へ来て、その勝利に違いはありますか?

「昔のほうが勝ったときに嬉しかったんですよ、多分。今、鹿島では、勝ってホッとしています。喜びはあるんですけど、その違いはありますね、なんかちょっと違います。鹿島での勝利は任務なんですよ。任務達成の安堵感なんだと思います。日々、試合に勝つという任務のために、過ごす時間が鹿島は濃い。チーム全体としてもそうだし、選手個人がそのためにいろんなことをやっている。誰か数人というのではなくて、全員が高い意識を持っていると感じるのが、鹿島なんです」

——昌子選手が復帰した昨季のシーズン終盤は、ベンチスタートになりました。ACL決勝戦もベンチで見ていた。

「優勝は嬉しかった。でも、自分の力で優勝したい、決勝の舞台に立ちたいと心底思いました。大きな悔しさを味わったけれど、気持ちのどこかに『まあそうだよな』というのもあったんです。決勝を見ていても、自分のプレーを考えたら、先発じゃないことも『やっぱりそうだよ』というふうに感じているところがありました。でも、だからこそ、今は自分の手で優勝を掴めるシーズンにしたいと強く思っています」

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