努力という2文字で片付けてはいけない。ボリーニという男の生存戦略

8月13日(火)8時0分 FOOTBALL TRIBE

写真提供: Gettyimages

著者:菊池大将

 ミランに所属するイタリア人FWファビオ・ボリーニという選手をご存知だろうか。日本国内では、サッカーにそれなりの情熱を捧げる方なら知っている方も多いだろうが、知名度はそこまで高くない選手だ。

 このボリーニという選手からは多くのことが学べると私は考えている。これはサッカー選手を目指す人だけではなく、学生や社会人など多くの人にとってだ。まず、ボリーニという選手について軽く説明しておきたい。

 ボリーニは2007年にチェルシーのスカウトにより引き抜かれ、16歳でユースチームに加入。リザーブチームでスタメンを勝ち取った。エリートと呼んでもいい選手だ。しかし、彼は一流選手と呼ばれるグループに入ることはできなかった。リバプールなど、ビッグクラブでプレーした経験もあるが、基本的にはバックアッパー(サブ)として起用されていた。

 そのボリーニがミランにやってきたのが2018年夏のこと。買い取りオプション付きのレンタルで加入し、1年後には完全移籍を果たす。

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 ミラン移籍以降のボリーニは、しばしば“努力の人”というような表現をされる。これは、もともと最前線でプレーする選手だったボリーニが、サイドバックなど自身が経験したことのないポジションでのプレーに適応し、チームの戦力として生き残ってきたことに由来する。今夏は新監督のマルコ・ジャンパオロ氏の下で、中盤(MF)としての新たな可能性を示している。

 しかし、ボリーニが見せたチーム内で生き残るための立ち回りを、“努力”という2文字で片づけてはいけないと私は考えている。“常にチーム内で生き残るために最善の手を打ってきた”と表現すべきだろう。

 欧州をはじめ、その思想に大きく影響を受けた日本でもそうだが、“努力”という言葉を美化しすぎる傾向がある。「努力は必ず報われる」といった格言などは、それを顕著に表しているだろう。しかし、努力が報いてくれるには、最善の立ち回りを取る必要があるのだ。

 例えば、FWの選手がスタメンの座を奪取するためにシュート練習を今までの5倍行ったとしよう。しかし、5倍の練習を行ったところでチーム内にその選手よりも優れたシュートを披露する選手がいれば、無駄な努力だ。ボリーニで言えば、クシシュトフ・ピョンテクなどのチームメイトがそれに当てはまるだろう。ボリーニがミランで生き残るためにシュート練習を5倍するのは無駄な努力ということになる。では、彼はどのように生き残ろうとしたのだろうか。


 ボリーニはチーム内で、チームメイトにはできないことをしようと試みた。サイドバックに負傷者が相次いだ時には、運動量を活かして右サイドを司った。今夏で言えば、広大なスペースをカバーできるMFがいないチームの中で、自身がその役割を担っている。MFとして優れているわけではないが、広大な範囲をカバーしつつ、少ないタッチでボールを味方に預ける。彼は努力して自分ができることを増やしたわけではない。していることはFWの時と大差ないのだ。これにより、ボリーニは今夏での放出候補から外れたと言っていいだろう。最善の立ち回りをすることで、チーム内の生存競争を勝ち抜いたのだ。

 これは社会でも言えることだろう。大学内で多くの生徒が同じような努力を行い、同じような方法で就職先を決めていく。ただ、彼らが行った努力と同じことを周りもしているため、その努力にはなんの優位性もない。

 サッカー界に近いところで例えるなら、サッカー関係の仕事をメインにしているモデルやタレントなども、ボリーニに近い生存戦略を取っていると言えるだろう。

 彼女たちは、おそらく芸能界のトップやモデル界のトップでは通用しないだろう。容姿改善のための最大限の努力をしたとしても、トップモデルやテレビで活躍するモデルには敵わない。しかし、元からあるサッカーへの情熱や、後から付けたサッカーへの知識を武器にすることで、芸能界という世界を生き残っている。

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