イニエスタが相手の脅威となる理由。名波監督の着眼点、磐田の選手たちが触れた“世界”

8月13日(月)11時40分 フットボールチャンネル

イニエスタの何に注目すべきか

明治安田生命J1リーグ第21節が11日に行われ、ジュビロ磐田はヴィッセル神戸に1-2で敗れた。アンドレス・イニエスタに異次元のプレーから先制点を奪われたサックスブルー。世界最高のMFに磐田の選手たちは何を感じたのか。また試合前日には、名波浩監督がイニエスタについて言及していた。(取材・文:青木務)

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 先制点を献上したことで、ジュビロ磐田は苦しい戦いを強いられた。

「前半ちょっとボールを回されすぎて、疲れたりストレスが溜まったりもしていたと思う。ただ、後半立ち上がりから押し込む形も何回もあったと思いますし、決定的なシーンも何度もあった。ゲームとしては4:6にどうにか盛り返せたかなと」

 試合後、名波浩監督は振り返っている。最終的に1-2で敗れたとはいえ、システム変更などで盛り返し、ドローに持ち込める雰囲気は作った。

 前半15分に喫した磐田の失点、つまりヴィッセル神戸にとっての先制点はアンドレス・イニエスタによるものだった。ルーカス・ポドルスキの強いパスを後ろ向きで受けると、正確な右足のタッチと滑らかなターンでDFを剥がす。ノエビアスタジアム神戸がどよめきに包まれる中、冷静にネットを揺らした。文字通り、ワールドクラスのプレーだった。

 加入後、随所に違いを見せているイニエスタだが、彼の何が凄いのか。そして、彼を観る多くの人々はどこに注目すればいいのだろうか。

 試合前日の10日、神戸戦の最終調整を終えた名波監督に尋ねた。現役時代、他者とは異なるビジョンと魔法の左足で仲間を導き、日本代表で10番を背負った指揮官の考えが知りたかった。すると、対戦相手の選手にもかかわらず、世界最高のMFの注目ポイントを語ってくれた。

イニエスタが最適なプレーを出せる理由

「常に前を見ているところ。前への選択が多いというのはわかりやすいと思うし、ほとんどバックパスがない。それに、ワンプレーで終わらない。叩いて動いて、叩いて動いてを繰り返す。スピードこそ、そんなに出していないけど、次にもらうこと、次の展開を常に考えている。つまり予測だよね。それが凄いなと」

 イニエスタは[4-3-3]の左インサイドハーフを起点にポジショニングを微調整し、前向きなプレーができるよう計算して動いている。味方がパスを出しやすい位置に動くからこそ、プレーに連続性が生まれる。とはいえ、必ずしも自分中心にゲームを作りたいわけではない。彼がもたらす連続性とは自分のためではなく、チームの攻撃がスムーズに流れることを意図している。

 もちろん、ボールを持てば天才的なアイディアを発揮する。磐田戦でも何度もチームの攻撃を加速させている。例えば25分のシーンでは、味方がボールをカットするとイニエスタがドリブルで前進。またぎのフェイントでマーカーを翻弄し、相手を引きつけておいてポドルスキにパスを送る。フリーになった元ドイツ代表の正確なクロスに古橋享梧が飛び込んだ。古橋のハンドでノーゴールとなったが、イニエスタを起点に決定機を作り出した。

 80分には左寄りでボールを受けると、少しタメてから大外を駆け上がった味方を使った。最後はクロスをウェリントンが強烈なヘッドを放っている。イニエスタが受けた時、ボックス内でラストパスを待っているのはウェリントンだけだった。相手を引きつけること、味方がいい状態でクロスを上げること、中にもう一人入ってくることを考慮して時間を作っていた。

 時に少ないタッチでボールを離し、時に自ら持ち込んで相手に脅威を与える。状況に応じて最適なプレーを出せる点も、予測力のなせる業ではないか。

「メッシの“あの”ゴールを驚かないのは、世界中でイニエスタくらい」(名波監督)

 実際にイニエスタと同じピッチに立った磐田の選手たちは、何を感じたのだろうか。昨季最少失点の立役者であり、今季も守備の要にして活躍する大井健太郎はこう話す。

「(1失点目について)イニエスタ選手の体の向き的にダイレクトでパスもあるかなと思って、中を少し警戒してしまったところを引くターンでやられてしまった。ターンももちろん上手かったし、深かった。足が届くかなと思ったけど、やっぱり上手いですよね。もう少し前目に流れてくるトラップもあると思うけど、より深めに入って。非常に上手かったと僕が言うのもなんですけど、やっぱり凄かったなと」

 磐田のディフェンスリーダーは、イニエスタがどうすれば相手を混乱させられるかを考えてプレーしているとも感じたという。

「常に危ないところで待っていて、ドリブルで運んで浮き球でスルーパスを出された前半の場面とか、ああいうところで確実に崩されている。任せるところは任せて、他の選手に運ばせてくる上手さとか、そういうポジショニング。ボール技術の高さは元々わかっていたことだけど、僕らに捕まりづらいところで受けるのが上手いなと」

 圧巻のゴールを決められた磐田。少し話は戻るが試合前日、名波監督はイニエスタの『予測』ついて話した後、こうも述べていた。

「あとはやっぱり、ファーストタッチだよね。ナイジェリア戦での(リオネル・)メッシのあのゴールを驚かないのは、世界中でイニエスタくらいじゃないかな」

 ロシアワールドカップ・グループリーグ第3節。アルゼンチン代表は決勝トーナメント進出をかけてナイジェリアと対戦し、メッシは左サイドからのフィードを完璧なタッチで収めると右足でネットを揺らした。シチュエーションは違えど、今回のイニエスタのトラップも異次元だった。

同じ中盤の選手が指摘、イニエスタの『目線』

 中盤でプレーし、何度かイニエスタと対峙した21歳の上原力也は、「パスコースを消したり前に運ばせないことを意識していて、チャンスがあったら奪おうと思っていましたけど、やっぱり持ち方とか目線とかすごく上手くて。すんごい選手だなと」と振り返っている。

 イニエスタが日本に来たことで、対戦相手は世界トップレベルに触れる機会を得た。チームメイトである神戸の選手はもちろん、彼らと戦う側にとっても元スペイン代表は指標となる。今回、ノエビアスタジアム神戸に乗り込んだ磐田もまた然りである。

 今季、磐田で主力の一人として稼動する上原は21歳。イニエスタとの対峙で得た感覚を糧にすると言った。

 今後もイニエスタはJの舞台で輝きを放つと思われる。磐田戦で加入後初めてフル出場を果たしたが、コンディションはさらに上がり、クオリティも高まるはずだ。最高の状態になった時、彼はピッチにどのような魔法をかけるのだろうか。

 イニエスタのプレーには、一つひとつに意味がある。ダイレクトでパスを叩く時、ドリブルで運ぶ時、フィニッシュに持ち込む時。ボールを持たなくとも身振り手振りで味方を動かしている。ピッチを浮遊しているように見えても頭の中はフル回転しているのだろう。

 そんなことを考えると、名波監督の言うイニエスタの予測はやはりずば抜けている。サックスブルーの指揮官の視点を参考に、常に未来を見ている元スペイン代表を目で追うのも面白いはずだ。

(取材・文:青木務)

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