わずか1日でひと月半ぶんの荷造り「あわてて日本を飛び出した」中嶋一貴に聞く、欧州での生活

2020年8月15日(土)14時41分 AUTOSPORT web

 WEC世界耐久選手権2019/20シーズン第6戦スパの予選で、8号車トヨタTS050ハイブリッドのアタックを担当、ブレンドン・ハートレーとの平均ラップタイムで中嶋一貴は予選2番手を確保した


 そんな一貴に、スパでのマシン感触や決勝レースへの展望、レース2週間前に“駆け込んだ”ベルギーでの生活、そして来月に迫ったル・マン24時間レースへの思いなどを、日本からのリモート取材で予選後に聞くことができた。


 今回のWECスパ・フランコルシャン6時間レースは無観客で開催されている。新型コロナウイルス対策のためサーキットに入場できるメディアの数も限られ、また現地での取材に関してもなるべく対面を避けるなど、さまざまな対策が施されている。


 そんなかTOYOTA GAZOO Racingは予選後の各ドライバーやテクニカル・ディレクターなどへのリモート取材を設定。各国のジャーナリストはスパのプレスルームから、あるいはそれぞれの自宅から、グループインタビューに参加する機会を得られた。


 予選アタックを終えた一貴は、FP1からの流れと今季初めて実戦投入したローダウンフォース仕様のセットアップについて、こう語った。


「昨日のFP1では、ある程度(7号車と)プログラムを分けてやっている部分があったのですが、僕らのクルマはあまりいいバランスではない状態からスタートしましたね」


「今日(FP2以降)に向けては7号車のデータも参考にしつつセットアップを変えたところがあり、それがある程度はいい方向に行っているかなと思います」


「ただいかんせんグリップレベルがすごく低いんですよ。(サクセス)ハンデで遅いというのもあるんですけど、温度が高いせいもあってかグリップが良くない」


「ニュータイヤ一発の予選はいいと思うんですが、スパはタイヤもかなり落ちる(デグラデーションが大きい)ので、そのときのドライビングはかなり難しい状況です。明日の決勝もそうなるだろうし……長いレースになりそうなだ、と(苦笑)」


 タイヤの状況を見越してチームは予選を1セットのタイヤで戦う判断を下したが、それが決勝では助けとなるか。ただ、「スパ・ウェザー」も決勝の見通しを難しくする。


「今日も朝と夕方、路面温度によってクルマのバランスの変化の仕方が違うので、レースではそれがどうなるか判断も難しいし、あと天気がちょっと怪しそうなんですよ。だから決勝に向けては心配事がたくさんある状況ですね」


 一貴の駆る8号車は、選手権リーダーのチームメイト・7号車を追いかける立場でもある。


「7号車はここスパでは毎年調子がいいんですよね。彼らとしては『ここで前に行ければ……』という思いはあるでしょうけど、お互いやるべきことに集中して、淡々とやっていますよ」


 そもそもこのスパ戦は本来4月に予定されていた。ところが新型コロナウイルスの影響により8月へと延期になり、6月のル・マン24時間レースも9月開催へと変更された。レースのない期間、一貴はどう過ごしていたのだろうか。


「6月いっぱいまではずっと日本にいました。まぁ、暇でしたよね。ジムは開いてないし、家のなかでできることをいろいろ探すようになり……まぁ、いらん物もいろいろと買ったなぁと思いますけど(笑)、あとは外に走りに行ったりとか」


「僕はあまり先のことを考えても仕方がないと思うタイプですし、レースの再開は自分が決められることでもないので、あまりレースのことは考えてなかったかもしれないです。ただ、身体をいい状態に保っておくことは最低限しなければと思っていました」

スパ・フランコルシャン入りし、走行に先立ってコースチェックをする中嶋一貴(左)とブレンドン・ハートレー。


■ベルギーでの「ぜいたく時間」の過ごし方


 7月上旬には、フランスのポール・リカールでTS050ハイブリッドのテストが予定されていた。ヨーロッパに居住地を持たない一貴の場合、移動制限がネックとなった。


「6月が明けたところでフランスに入れることになって、不安はありましたけど無事に入国でき、テストに参加できたのは良かったです。レース前にテストで1回くらいは乗っておきたかったので」


「当初は行って2週間、帰って2週間の隔離という話もあったのですが、帰ってからだけになったのも助かりました」


 いったん日本に帰国した一貴だったが、8月のスパ戦に向けては思わぬ事態が起きた。8月1日よりベルギーの入国制限が厳しくなり、入国後2週間の隔離が求められることになる、とチームから急に知らされたのだ。


「1日で1カ月半ぶんくらいの荷造りをして、あわてて日本を出てきました」


 既報のとおり全日本スーパーフォーミュラ選手権を運営するJRP(日本レースプロモーション)はWECなど海外レースに参戦するドライバーの開幕戦ツインリングもてぎ(8月30日決勝)出場について「参加が厳しい状況」と説明しており、一貴は9月のル・マン24時間レースまで欧州に滞在する可能性を考慮して、日本を出国したのだった。


 到着後、WECのレースまでの2週間をベルギー国内で過ごすことになった一貴は「ぜいたくな時間の使い方もした」という。


「基本はホテルの小さなジムで、チームのトレーナーとオンラインで繋いでトレーニングしたりとか、外を走りに行ったりとかしていました。でも、時間はとにかくあり余っていたので、片道2時間かけてゴルフの打ちっぱなしに行ったりもして。日本ではなかなかできないこともしていましたね」

予選2番手から6時間の決勝レースに臨む中嶋一貴。


 スーパーフォーミュラ開幕戦への参戦可否を含め、スパのレース後も不透明なことは多い状況ではあるが、一貴は9月に迫ったビッグイベント、ル・マン24時間レースへと照準を定めている。


「今回のスパはル・マンに向けたひとつのステップになると思うので、天気とかは難しい状況になりそうですけど、しっかりとやるべきことをやって、いいリズムをつかんでル・マンに臨みたいと思っています」


「ただ、本当にこの状況だと誰がどこでいつ感染してもおかしくないと思うので、そこには細心の注意をはらい、ちゃんとル・マンに出られるようにするところがスタート。体調管理も含めて、いい準備をして臨めるようにしたいです」


 果たしてル・マン3連覇への布石となるか。WECスパ6時間レースは、15日13時30分(日本時間20時30分)にスタートが切られる。


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