履正社ナインが語る豪打の秘密。ねじ伏せられた屈辱が才能に火をつけた

8月16日(金)18時57分 Sportiva

「はたして今日は、どっちの履正社か……」。

8月7日に行なわれた履正社(大阪)と霞ケ浦(茨城)との試合前、私の興味はそこにあった。4年ぶりに制した大阪大会では、7試合を戦いチーム打率.367、10本塁打と強打で打ち勝ってきた印象が強い。

 ただ大阪大会で残した数字と、実際に試合を見て受けた印象には多少の差があった。選手個々の能力の高さは、今年の大阪では間違いなく最上位。準決勝では昨年夏の南大阪代表の近大付を7対2で下し、決勝では準々決勝で大阪桐蔭を破った金光大阪にこちらも7対2で勝利するなど、活発な打線で押し切った。


初戦でプロ注目の霞ケ浦・鈴木寛人からホームランを放った履正社・井上広大

 一方で大阪大会の7試合のなかには、こんな2試合もあった。

 まず4回戦の大阪電通大戦。電通大は「大会序盤で当たると嫌な相手」とある中堅私学の監督が”警戒”していたチームではあった。ただ昨秋は3回戦、今春は初戦で敗退しており、結果だけを見れば実績を残していない。それゆえ、戦前の予想は履正社が圧倒的だったが、試合は2対1と辛勝。

 そして準々決勝の桜宮戦も2対0とロースコアでの勝利だった。桜宮は体育科を持つ公立校で、甲子園経験もある実力校。岡田龍生監督が履正社赴任前にコーチとして矢野燿大(現・阪神監督)を指導していたという”縁”のあるチームだった。その桜宮は今夏、優勝候補の一角に挙げられていた大阪偕星や、昨年夏の北大阪大会準優勝の大阪学院、さらには大大産大付や上宮という甲子園出場経験のある私学を次々と撃破。勢いに乗っていたところでの対戦ではあったが、履正社打線はわずか4安打に抑えられたなかでの勝利だった。

 もちろん「打線は水もの」と言われるように、計算しづらいものだ。桜宮戦で貴重な一発を放った4番・井上広大に、大阪大会で苦戦した2試合について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「電通大の試合は右投手にきっちりコーナーを攻められて、桜宮の時はうまくかわしてくる左投手で、自分たちのバッティングをさせてもらえませんでした」

 たしかに、「強打線」と言われる履正社だが、昨年秋の近畿大会では龍谷大平安(京都)の野澤秀伍に7回を3安打無得点に抑えられ、今年春のセンバツでは星稜(石川)の奥川恭伸に17三振を奪われて完封負けするなどの一面も併せ持つ。

 履正社の練習試合を見た関係者からは「あの打線はえげつない。どのバッターもピンポン球みたいに飛ばす」という声が上がる一方で、「きっちり攻めればそこまで怖くない」と語るライバル校の監督がいたり、履正社打線の評価は真っ二つに分かれていた。つまり、霞ケ浦との試合前に持っていた興味には、そうした背景があったのだ。

 結果から言うと、これまでの評価をさらに上回る強打で、霞ケ浦のプロ注目右腕・鈴木寛人を3回途中ノックアウト。終わってみれば、2006年の智弁和歌山に並ぶ大会タイ記録の1試合5本塁打を含む17安打11得点。圧倒的な破壊力を甲子園の舞台で見せつけた。

 猛打の理由として、トレーニング効果を挙げる記事をいくつか見かけた。もともと履正社は「選手が高校卒業後も伸びるように……」と、専属トレーナーをつけ、体づくりに早くから取り組んできたチームだ。トレーニングメニューも試行錯誤を繰り返しながら向上し、春季大会後に計測したスイングスピードでは10人もの選手が140キロを記録したという。

 霞ケ浦戦の2日後、履正社の練習グラウンドを訪れると、岡田監督は「スイングスピードというよりも……」と強打の理由についてこう語った。

「選手たちが一番実感しているのは、冬に鍛えた筋肉を維持しながら夏を戦えているということだと思うんです。例年、冬の間はウエイトも多くなって、たとえば12月や1月にスクワットで150キロを上げたとします。でも、シーズンになって体が疲れてきたりすると、150キロ上げられていたのが120〜130キロに落ちてしまう。

 今年はこの落ち幅を減らそうとトレーナーとも相談して、シーズンになってもバッティング練習の時間を削ってウエイトに回したり、冬につけた力を維持するようにやってきました。実際、例年に比べて落ち幅は少なくなり、夏になってもバットが振れているという感覚を持っているはず。この点が大きいと思います」

 またセンバツで奥川に完璧に封じられた以降は「対応力を上げる」ことをテーマに練習に励んだ。一線級の投手の球をいかに試合のなかで対応し、攻略していくのか。岡田監督は言う。

「スライダーの見極めのポイントなど、いつも言っていることは継続しながらですが、なにより大きかったのは春のあの時期に奥川くんのボールを見られたということ。彼以上のピッチャーと言えば……それこそ佐々木(朗希/大船渡)くんがどうかというところしかないわけですから。その奥川くんのボールを基準に考えれば、より意識は高くなってきます。それが夏のバッティングにも現われていると思います」

 4番を打つ井上の”変身”は、まさにチームの象徴だった。187センチ、95キロの堂々たる体から圧倒的な飛距離を誇るスラッガーだ。センバツ前も注目を集めていたが、奥川の前に3三振。それもストレート、変化球についていけず、まったく自分のスイングをさせてもらえなかった。井上は言う。

「今までは楽しいと思うことがいっぱいあった野球が、あの試合から1カ月ぐらいは本当にやりたくなかった」

 これまでの自信を完膚なきまでに打ち砕かれた。それでも甲子園から戻ると、奥川の球の残像をイメージしながら、打撃練習を繰り返した。

「センバツから帰って、いろいろ考えて試しました。1つはボールをとらえるポイントです。とくに追い込まれたあと、普段の左ひざ前のイメージから、体の中心あたりまで呼び込んでバットを落として打つ感じにしたんです。左ひざの前でさばこうとすると、気持ちも体も前にいってしまいがちで、変化球に対応するのが難しかったんです。すぐにはできませんでしたが、徐々に体がしっかり残って、背筋で飛ばす感覚がわかってきたんです」

 4、5月はまだ思うような感覚をつかめていなかったが、そのなかでターニングポイントと語る一戦があった。

「6月の三田松聖(兵庫)の試合です」

 正確には6月16日で、この試合で井上は2打席連続ホームランを放ったのだが、その1本目の場面を振り返った。

「相手は左投手で、変化球を張っていたところ真っすぐが来たんです。今までなら完全に詰まって打ち取られる感じだったのが、差し込まれ気味でもバットの芯でとられてボールは飛んでいったんです。このぐらい差し込まれる感じで打っても大丈夫だというがわかって……体のなかでとらえる感覚がわかった感じがしたんです」

 じつはその1週間前、履正社は石川に遠征し、星稜と練習試合を行なっていた。奥川が先発のマウンドに上がり、6回を4安打、1失点、9奪三振と、またも抑えられた格好だったが、井上は「少し成長も感じられたし、大きな意味のある試合でした」と振り返った。

 井上は大阪大会で打率.407、4本塁打。三振も7試合でわずか3つと成長のあとを見せつけ、甲子園初戦でも実力どおりのバッティングを披露した。

 それでもまだ確信は得ていなかった。2回戦の相手はプロ注目の右腕・前佑囲斗(まえ・ゆいと)擁する津田学園(三重)。対戦前、岡田監督は「かなりレベルの高い投手。初戦のようにうまくはいかないでしょう」と表情を引き締めていた。

 しかし結果は、またしても”強打の履正社”だった。本塁打こそなかったが、6本の長打を含む12安打7得点。履正社の核弾頭・桃谷惟吹(いぶき)は好調の理由についてこう語る。

「奥川くんとの対戦から学んだことが多くて、対応力が上がったのが今につながっていると思います。あのままでは、次に(奥川と)対戦してもやられると。そこで選手なりに考えて打つようになりました」

 具体的に言うと、桃谷はセンバツ後、タイミングの取り方を変えた。

「センバツでは左足を上げて打っていたのですが、ほとんど上げないようにしました。奥川くんに手も足も出なかったので、とにかくミート力を上げようと思って変えました」

 これまで慣れ親しんだフォームを変えることは簡単ではなかったが、対応力アップを最優先に取り組んできた。

「春の(大阪)大会も打てずに負けて、そのあとから本格的にいろいろ試したんですけど、なかなか難しくて……しっくりくるようになったのは、夏の大会に入ってからでした」

 その大阪大会で桃谷は25打数10安打(打率.400)の成績を残し、甲子園でも初戦の2本塁打を含む4安打と好調を維持している。なにより積極的に打ちいく姿勢が印象的だ。

「もともと積極的にいくタイプで、センバツの奥川くんと対戦した第1打席でも初球から振っていったんです。でも、とらえられなかった。そうなるといいピッチャーを打つのはどんどん難しくなっていくので、狙った球を1球で仕留められるように……そこはかなり意識してきた部分です」

 井上、桃谷のふたりだけではない。あの星稜戦、スタメンに並んだ9人のうち7人が2三振以上を喫した。2年生ながらクリーンアップに座る小深田大地も「本当にいいピッチャーは一発でとらえないと、その打席で甘い球はこない。センバツ後はそこを強く意識して打席に立つようになりました」と言う。

 またマネージャー兼選手という”異色の球児”として話題になり、この夏の甲子園で8打数6安打(打率.750)と大当たりの西川黎は、次のように好調の理由を挙げる。

「いい投手ほど、ボール球に手を出さないようにすることと、球をしっかり絞っていかないといけない。そこは徹底してきました」

 ミートポイント、タイミング、好球必打、1球で仕留める集中力と技術、そして選球眼……どれもバッティングの基本であるが、奥川にねじ伏せられた屈辱が、才能豊かな選手たちの負けん気に火をつけ、さらなる成長につなげていった。

 2回戦の試合後、岡田監督は盛り上がる報道陣の熱を冷ますように、最後にこう言った。

「ここまで打つほうは対応してくれていますけど、この先、サイドハンドとか左投手の対戦になった時にどうか……」

 3回戦の相手、高岡商(富山)のエース・荒井大地はサイドハンドだ。

 はたして3回戦は「どっちの履正社か?」。星稜と、そして奥川ともう一度対戦するためにも、まだ負けるわけにはいかない。

Sportiva

「履正社」をもっと詳しく

「履正社」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ