7つの球種×"技"で打者を幻惑。ヤクルト・石川雅規「3D投球術」の極意

8月17日(土)6時40分 週プレNEWS

東京ヤクルトスワローズ、石川雅規(いしかわ・まさのり)、39歳。プロ18年目のシーズンを戦っている、身長167cmの小さな巨人だ。

彼は、「球が遅くても打者は抑えられる」を今、日本球界で最も体現する投手といえるだろう。ストレートは最速130キロ台ながら、多彩なテクニックで打者を翻弄。8月14日のDeNA戦では、8回1死まで1四球というノーヒットピッチングで球場を沸かせた。

現役最多169勝左腕が「フルスイングさせない投球術」を語る。

※数字は2019年8月14日現在のものです。

* * *

■年齢不詳の投球はカツオさながら

『サザエさん』のカツオが永遠の11歳なら、スワローズのカツオも負けず劣らず、いつまでも歳を取らない。童顔のせいもあるし、変わらない体型のおかげかもしれない。今年、39歳になったベテランピッチャー、石川雅規(いしかわ・まさのり)はこう言って笑った。

「カツオですか。今は気に入ってます。最初はなんだよ、と思いましたけど、今になってみると嬉しいんですよね」

このニックネームにセンスを感じるのは、今や、見た目の話だけではなくなっているからだ。実際、石川のピッチングスタイルは年齢不詳、カツオ君さながらに歳の取りようがなく、秋田商高でも青山学院大でも、そしてスワローズでも、スリークォーターから投げる滑らかなフォームは大きく変わっていない。

スピードに頼らず、かといって緻密なコントロールがあるわけでもなく、多彩な球種でアバウトながらも確実にストライクを取り、最後は変化球でゴロを打たせる。

「僕、昔から球は遅いんですよ。遅いんですけど、でも速い球を投げて打ち取りたいという思いはずっとありました。だから若い頃は身体を大きくひねって投げていましたし、150キロを投げたい願望だって持っていたんです。

でも、今はどれだけ遅い球で打ち取れるかを考えるようになりました。だって、結局は打ち取ったらいいんですから......別にすべてのピッチャーが145キロ、150キロを投げなきゃいけないわけじゃないですからね」

遅い球でバッターを打ち取る石川のピッチングは、若い頃には老獪(ろうかい)に映り、歳を重ねれば巧みだと称(たた)えられる。そんな話をぶつけると石川は穏やかな口調でこう言った。

「よくそうやって言っていただくんですけど、39歳にもなれば若いと言えるのはもう、気持ちだけなんですよ。実際、平均スピードが落ちている分、昔はファウルになっていたボールを前へ飛ばされるようになったとか、失速するはずのフライがそのままホームランになったとか、ありますよ。疲労もずいぶん抜けづらくなっていますからね......」

■球種×フォーム×プレート位置=∞

プロに入って今年で18年目になる。登板がすべて先発だったのは、今年も含めて13シーズン。1試合だけリリーフに出たのが4シーズン。つまり1シーズンを除く17シーズン、石川はほぼ先発のマウンドに立ってきた。

その1シーズンも26試合中、15試合には先発している(07年)。つまりスワローズのカツオ君は、今年も含めてプロ入り以来、18年連続で15試合以上、先発のマウンドに立とうという、故障知らずの"鉄人"なのである。

「07年に4勝しかできなかったんです。プロに入って5年、勝ったり負けたりではありましたが、まがりなりにも5年連続で2ケタ勝利を挙げて(入団から5年連続2ケタ勝利はヤクルトでは史上初、セでは堀内恒夫江夏豊に次ぐ3人目)、ちょっとプロをナメていたのかもしれません。

『10勝くらい、できるじゃん』と思っていた中で、07年、まったく勝てなくなった。中継ぎになって、二軍行きを命じられて......古田(敦也)さんからはずっと『このままじゃダメだ、変えなきゃ』と言われていたんですけど、なかなか本気になれなかった。やっぱり調子こいていたんでしょうね(笑)」

27歳のとき、6年目の挫折を味わわされた石川は、ようやく本気になった。左バッターのインコースへ食い込むシュートを覚え、フォームのメカニックも見直した。そして苦しんだ一年が終わろうという、07年9月13日。神宮での巨人戦で、石川はプロ初完封を成し遂げる。

小笠原道大阿部慎之助といった左のスラッガーにインコースのシュートを投じて詰まらせ、新境地を見出したのだ。翌08年、石川は防御率2.68で、初のタイトルを獲得。以降、ヤクルトのローテーションを守り続けてきた。

「08年は自分の中で感覚が最もよかったシーズンでした。あれから少しずつ球種を増やして、今はストレート、スライダー、カットボール、カーブ、シュート、速いシンカー、遅いシンカーの7種類を投げています。

まっすぐの割合は2割くらいかな。まっすぐとカットボール、シュートが130キロ、スライダーと速いシンカーが120キロ、カーブと緩いシンカーが100キロくらいのイメージで投げています」

来年は40歳だが「今後、どれだけできるのかなと探っていくのが楽しみというかワクワクしています」
来年は40歳だが「今後、どれだけできるのかなと探っていくのが楽しみというかワクワクしています」

とはいえ、石川が投げているのは7種類のボールではない。それぞれの球種に、いくつもの"技"を組み合わせた結果、投げているボールは、おそらく100種類を超えている。石川が言う。

「ひとつ挙げるなら、投げるときにバッターを見て、フォームのタイミングをちょっとだけズラしたりしています。だから球種は7種類ですけど、クイックで投げるか、投げないか、あるいはプレートを踏む位置が一塁側か三塁側か、そういうことまで組み合わせれば、7つの球種は倍、倍、倍になっていく。

要はいかにフルスイングさせないか、芯を外すかということですからね。7つのボールを投げているというイメージはありません」

たとえば7月6日、7イニングを投げて1失点に抑えたナゴヤドームの中日戦でも、石川はいくつもの技を駆使していた。右のバッターボックスにダヤン・ビシエドを迎えると、石川は三塁側のプレートを踏む。

サインを覗(のぞ)き込んで初球を投げ込み、2球目。今度は一塁側を踏んで、サインを見る。3球目も同じく一塁側を踏んで投げた。その仕草はどこまでもさり気ない。さらに、左バッターボックスに高橋周平が入ったときも、石川は一球ごとにプレートを踏む位置を変えていた。石川が続ける。

「(キャッチャーの)中村はプレートのどっちを踏んでいるかを見てサインを出しているわけではなく、球種を選択してくれているんですけど、それに自分が合わせられるか、というところですね。

一塁側を踏んで右バッターにインコースを投げるのと、三塁側を踏んで投げるのとでは、ビューがまったく違うんです。ピッチャーのビューが違うということは、バッター側からしてもビューは違うはずです。こっちが投げづらいんだったらバッターだって打ちづらいだろうし、背に腹は代えられない。

次は中村がこのサインを出しそうだな、だったらプレートはこっちを踏んだほうがいいな、よし、中村のサインは......という順番。中村の意図を先読みして、僕の判断でプレートを踏みかえている感じです。もちろん違うサインが出たらいったんプレートを外したり、わざとボール球を投げたりすることはありますが、できるだけどの球種も、どっちを踏んでも投げられるようにはしています」

石川のピッチングがハマったときには、投球術などという生やさしいものではなく、"妖術"のようにさえ見える。甘いコースに遅いボールを投げているのに、バッターが力のないゴロを打ち返す。傍はた目めにもバッターがタイミングをズラされたり、芯を外されているのがわかる。

「よく投球術って言われますけど、基本的に配球には正解がない。130キロのまっすぐをど真ん中に3つ投げても、それで打ち取ったらナイスピッチングです。

だけど長いシーズン、それを続けていたら当然打たれてしまいますから、前後左右、3Dのイメージで空間を使ってタイミングを外し、相手にフルスイングさせないようなボールを投げる。そうすると130キロのまっすぐに振り遅れることもあるんです。

それはバッターがいろんなことを考えてくれているからで、だったらこっちとしては逆にそこを利用しない手はない。それが自分なりの"術"じゃないかなと思っていますし、もし投球術というものがあるんだとしたら、いかにズラすか、ということに尽きると思います」

■「毎朝、小指と薬指の感覚がないんです」

18年間、ほぼ休みなく投げ続けた石川の左腕には、それなりの"勤続疲労"が溜(た)まっている。だからこそ今の石川は毎朝、緊張を強いられる一瞬と向き合わなければならない。

「朝、起きたとき、小指と薬指の感覚がないんです。それはもう、毎日です。感覚がないから、それこそ『あれっ、指、どこ行っちゃった?』という感じです。だから毎朝、その二本の指をゆっくり動かしてみる。そうすると少しずつ動くようになるので、『ああ、今日も戻ってきた、よかった』とホッとして、それで一日が始まるんです。

投げた次の日、そしてその次の日も、今はベッドから起きるだけで、すごく時間がかかりますからね。普通に、ムクッとは起きられない。目が覚めたらまず横を向いて、それから、ゆっくり身体を伸ばして、少しずつ起き上がる。

40近いなと思うと、時としてその年齢を言い訳にしてしまうんです。歳取ったからしんどいのかなとか、いやいや、そんなことを考えちゃダメだとか、そういう自分が順番に出てくる......そんな毎日です」

思うような結果が出せないとき、それを年齢による衰えだと認めるのか、スランプだと信じて練習を続けるのか。気持ちを前に進めたいと思ったとき、石川はある"レジェンド"の言葉を思い浮かべるのだという。

「以前、雑誌で読んだんですけど、サッカーの三浦カズ(知良)さんが『全盛期はいつですか?』と質問されて、『これからだよ』と答えていたんです。この考え方、カッコいいなあ、と思いました。

僕、人生の先輩やスポーツ界のレジェンドの言葉をあれこれ探して、自分を鼓舞しているんです。一日の中でも、一年の中でも、気持ちがめげるときってありますからね。そういうときにどうやって自分を奮い立たせるか。"気持ちの体力"ってすごく大事なんですよ。

僕の全盛期ですか? もちろん、これからだと信じています。球が遅くても抑えられるんだぞ、というところをまだまだ見せていきたいな、と思っていますから」

そんな石川に、「もし野球の神様に何か一つ叶(かな)えてもらえるとしたら、何をお願いしますか」と訊いてみた。すると石川はこう言った。

「僕、自分が投げる球を捕ってみたいんです。相手にどうやって見えているのかを知りたい。それって絶対に叶わないじゃないですか。キャッチボールをしていると『ナイスボール』って言ってもらうんですが、一体、どういうナイスボールなのかなって思うんです(笑)。

だからキャッチャーとして、ピッチャーの石川雅規が投げるボールを受けてみたいし、リードしてみたい。そう考えただけで、おもしろそうだと思いませんか?(笑)」

●石川雅規(いしかわ・まさのり) 
1980年1月22日生まれ、秋田県出身。39歳。秋田商業高校から青山学院大学を経て、2002年に自由獲得枠でヤクルトスワローズに入団。ルーキーイヤーから12勝を挙げて新人王、08年には最優秀防御率を獲得した。18年シーズン終了時点で、現役選手では最多となる通算11回のシーズン2桁勝利をマークしている。身長167cm、体重73kg

取材・文/石田雄太 撮影/田口まき

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