ホンダF1山本MD前半戦総括(1)分岐点はフランスGP。今だから明かす、フェルスタッペンにだけ起きたパワーロス症状
2019年8月19日(月)11時40分 AUTOSPORT web
レッドブル・ホンダのシーズン序盤は、開幕戦オーストラリアGPでいきなり3位表彰台に上がったものの、メルセデスとの実力差を毎回のように実感させられていた。優勝が期待された第6戦モナコGPでも、ペナルティを受けたとはいえ4位が精いっぱい。もはや今季は勝てないのでは、という空気が流れて始めた第9戦オーストリアGPで、堂々の初優勝を遂げた。
その後も苦手なはずの第10戦イギリスGPで4、5位入賞、続く第11戦ドイツGPで2勝目。さらに初ポールを獲得した第12戦ハンガリーGPは、最後に逆転を許したもののメルセデスを完全に本気にさせたレースだった。それら一連の活躍への分岐点となったのが、「(第8戦)フランスGPで(マックス)フェルスタッペンにだけ起きた、パワーロス症状だった」と、山本雅史マネージングディレクターは舞台裏の真実を語ってくれた。
──────────
──前半戦を終えて、今の思いをお聞かせいただけますか。
山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):前半戦を振り返って一番思うのは、フランスGPがターニングポイントだったということですね。
──というと?
山本MD:あそこのスタートでフェルスタッペンがシャルル・ルクレール(フェラーリ)に並んで、一瞬抜きかけたことがあったでしょう。覚えていると思いますが。ところがその直後に、軽くちぎられてしまいました。
実はあの時ホンダのパワーユニットは、オーバーヒートしていたんですよ。マックスのだけ。今だからこそ言えますが。それはどうしてか。なぜそんなことが起きたのかをレース後に解析して、そしてオーストリアに臨みました。
──そういうことだったんですね。
山本MD:もともと4台ともに、熱の兆候はあったんです。
──その前の第7戦カナダGPで、パワーロスの症状が出ていましたね。
山本MD:そう。そしてフランスではマックスだけが、スタートで大幅にパワーが落ちました。まさにパワーロスの症状がデータで残っていて、1周目のスタート直後になぜそんなことが起きるんだと。そこでオーストリアに際しては、オーバーヒート対策を万全にやりました。
4台走らせるのはこういう時にメリットがあって、膨大な4台のデータを研究所で検証してくれました。オーストリアはものすごく暑かったですが、そういう環境でも本来の性能を発揮できるよう、ぎりぎりのセッティングをしてくれた。それがオーストリアの勝利に、直結したわけです。
同時にあのレースで、我々のパワーユニットからここまで性能を引き出せることもわかり、イギリス、ドイツ、そしてハンガリーと、いいレースができるようなりました。初優勝後のイギリスについては、「パワーサーキットだから、うまくいっても表彰台かな」と、田辺(豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)と話してたぐらいだったんですね。実際、勝利は無理でしたけど、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に当てられさえしなければ、2位だったかもしれない。そういうレースを見せてくれたおかげで、僕らにも手応えが感じられました。
カナダのパワーロス、そしてフランスでマックスだけが極端にパワーが落ちた。そこで学習して、オーストリアに行きました。あれが分岐点で、そこから今までいい流れが続きましたね。
──オーストリアからの4戦、コース特性は全然違いますし、暑かったり雨だったり涼しかったり、コンディションも全然違った。なのにすべてのレースで、トップ争いに絡めている。この4戦の獲得ポイントは、フェルスタッペンが一番ですし。そこが、いいですよね。
山本MD:いいですよね。「暑くならないと、勝てないかな」なんて冗談半分で言っていたけど、そんなことなかったですし(笑)
■実りのあった前半戦。印象的だったのは「コースアウトしたハミルトン」
──冬のテスト、開幕戦当時から、マシンパッケージとして大きく進化した印象です。
山本MD:本当に、そう思いますね。
──開幕戦で表彰台に上がった時も、「なかなか簡単には勝てないね」と、言ってましたよね。
山本MD:そう。それが実感でした。もともとメルボルンは特別なコースですから、車体やパワーユニットの本当の実力はなかなか測りにくい。冬のテストは、ほぼほぼうまくいってましたから、メルボルン入りした時も(ヘルムート)マルコ博士や(クリスチャン)ホーナー代表は、「うまくいけば3位表彰台だな」と言っていて、実際そうなりました。
それはそれでよかったですが、同時に勝つのは大変だなと実感させられました。もちろん初表彰台でしたから、本当にうれしかったですけどね。しかし、ハンガリーの2位は悔しさしかない。人って、恐いですよね(苦笑)。
──トップのメルセデスとの差は、確実に縮まっているという印象ですか?
山本MD:縮まってはいると思います。開幕戦当時は、メルセデスについて行けるという感覚すらなかった。HRD Sakura(栃木県の本田技術研究所)の開発者たち、レース現場のエンジニアたちが、本当にいい仕事をしてくれた。それに尽きますね。
そして前半戦最後のハンガリーでは、メルセデスのルイス・ハミルトン、レッドブル・ホンダのマックスが、真っ向バトルを繰り広げてくれた。非常に印象的だったのは、レース中にハミルトンが飛び出したシーンがあったじゃないですか。あれは、凄いですよね。もし開幕序盤だったら、軽く抜かれて、ハミルトンが飛び出すなんてことはもちろんなく、あっという間にちぎられて終わっていたでしょう。それがあのレースでは、並んで入って行った。実りのあった前半戦だったと思います。
※ホンダF1山本MD前半戦総括(2)に続く