【渥美心のEWC参戦記】フル参戦ライダーとしてのプライド。日本と世界の架け橋へ/第3戦鈴鹿8耐

2022年8月20日(土)20時27分 AUTOSPORT web

 2022年はフランスに移住し、OG Motorsport BY SarazinからFIM世界耐久選手権(EWC)に“フル参戦”することになった渥美心選手。そんな渥美選手がEWC参戦のなかで感じた、耐久レースならではの出来事や裏側を語ります。


 今回はOG Motorsport BY Sarazin ではなく、S-PULSE DREAM RACING ・ITECから参戦することになった鈴鹿8耐の雰囲気やレースに参戦した心情などのレースウイークの日々、そして最終戦ボルドール24時間に向けての想いを渥美選手と同行している広報兼ヘルパーの目線でお伝えします!


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 まず、今年の鈴鹿8耐へは現在所属しているフランスのチームOG Motorsport BY Sarazinから参戦することを目指していました。しかし、新型コロナウイルスや世界情勢の影響で空輸の輸送費がおよそ4倍となり、主催者側からの外国人選手受け入れなども決定が遅れたため、ビザの申請などの問題で海外チームが日本へ来ることがとても難しい問題点が積み重なり、参戦することを諦めざるを得ない状況となってしまいました。


 そんな状況で今年は鈴鹿8耐への参戦は半分諦めモードから始まったのですが、もし鈴鹿8耐を走れるなら、将来の自分のレース活動に活かせるような環境で学びながら走りたいという気持ちが強かったので、ライダー兼チームオーナーとしてチームを運営している方の元で走ることを望みました。


 そこで自ら4月の終わり頃にS-PULSE DREAM RACING ・ITEC(以下S-PULSE)のオーナーである生形秀之選手に連絡をしました。その数カ月後に正式に生形選手のチームからオファーをいただき走ることが決まりました。

渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐


■人生初のスズキGSX-R1000R・ブリヂストンタイヤへのチャレンジ


 今回、S-PULSEで走らせていただけることになったことはとても喜ばしいことではあったのですが…… 実はスズキのマシンに乗ることも、ブリヂストンタイヤを使用することも人生で初めてだったのです。


 S-PULSEのような表彰台を狙うチームに来てマシンもタイヤも初めてづくしだったので、少し不安な気持ちもありましたが、自身の座右の銘である「タイヤが2つあれば大丈夫!」という言葉を信じて挑戦することにしました。


■7月のテストからチームに合流


 7月2〜3日にスペイン・バルセロナで開催されたカタルーニャ24時間が終わったその日のうちに日本へと向かいました。7月5日の合同テストでライダー3人が揃うのが初めてでした!

渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 鈴鹿サーキット主催 合同テスト 1回目


 この合同テストでは、レース用バイクのセッティングを生形選手と津田拓也選手で担当し、自分は練習用バイクで多くの周回を重ねて経験を積みました。周回を重ねるごとにコツを掴み、初日の夜間走行ではレース用バイクで2分12秒台で走行できたので本番は夜間走行を担うことが決まりました。これは24時間で夜間を多く走ることによって得たテクニックです。


 チーム全体的に、相談もしやすい環境で伸び伸びとテストに取り組ませてくださったので初めてのバイクとタイヤについて理解を深めることができました。ちなみにこのテストではマシンに関しての理解は6割程度だったので、残りの4割は本番のレースウイークで深めていきます。


 このバイクを操るにはもう少し荷重をかけることが必要だと感じたため、レースウイークまでの1カ月弱でトレーニングと食事によって体重を4kg増やしました。


■この日のために各プロフェッショナルが集結する最強チーム


 ここでS-PULSE DREAM RACING・ITECのチーム紹介をします。チーム名にもあるエスパルスは、静岡のサッカーチーム『清水エスパルス』とタッグを組み地域貢献を目指すチームです。

津田拓也、生形秀之(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 鈴鹿サーキット主催 合同テスト 1回目


 そしてチームオーナー兼ライダーの生形秀之選手。生形選手はライダーとして本当に尊敬しており、このレースを通じてライダーとしての在り方を教えていただきました。


 今回一緒に戦った津田拓也選手は近畿スポーツランドでよく一緒に練習しているので日頃から交友のある先輩ライダーです。津田選手はヨシムラで何度も表彰台を経験しており、現在はスズキのMotoGPマシンであるGSX-RRの開発をされています。


 監督は鴨宮保雄氏で、スズキワークスチームの監督を何度も経験されている方です。メカニックの方達もトップチームで経験されていた方が多数いらっしゃり、各部門のプロフェッショナルがこの日のために集う最強チームでした!


 このように書くと緊張感が高まるチーム環境を想像されるかと思いますが、全くそのようなことはなくレースウイークから決勝まで本当に居心地の良い穏やかな雰囲気でした。そのおかげで常にリラックスすることができ、いいパフォーマンスを常に発揮することができました!

渥美心、津田拓也、生形秀之(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐


■海外経験を経て戻ってきた3年ぶりの鈴鹿8耐


 2019年に所属していたTONE RT SYNCEDGE4413では、SSTクラスで優勝を掴み、その後は自身初の海外レースとなるセパン8耐でも3位表彰台を獲得。その頃から世界耐久選手権にフル参戦したいという気持ちが芽生えました。そして今年度よりフランスのチームOG Motarsoport BY SARAZINよりフル参戦することとなり、今年6月に行われたスパ24時間では3位表彰台を獲得しました!

SSTクラス3位を獲得したOG MOTORSPORT BY SARAZIN/2022EWC第2戦スパ24時間


 今年、ル・マン、スパ、カタルーニャと計3回の24時間レースを戦ってきたため、表彰台を目指すS-PULSEからの参戦、FIM世界耐久選手権(EWC)に参戦する唯一の日本人ライダーとしてのプライドもあり、より一層鈴鹿8耐に向けて気合が入ります!


 S-PULSEはトッププライベーターチームとしての期待も大きなチームなのでここで表彰台獲得に向けて、世界耐久で学んだことを活かしつつチームの目標達成に向けて貢献したいと思いました。


 そして順調にバイクやチームへの安心感を得ながらレースウイークを過ごし、ついに決勝日を迎えました。先ほども紹介した通り、チームの雰囲気はレース日を迎えてもいつも通り落ち着いた空気感です。

スタートライダーを務めた津田拓也(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 決勝


 スタートはこのチームのエースライダーの津田選手が担当し、順調なスタート。13番手のスタートから6位まで追い上げることができました。その後は渥美心、生形選手の順番で走行を順調に続けます。


 そして自分の2回目の走行では3周、およそ10分間もの間、国際放送でフォーカスされました! この時、フランスのチームのメッセージグループでも大盛り上がりでした(笑)

渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 決勝


 走行を終えた後、そのまま国際放送でのインタビューがありました。これは日頃世界耐久選手権で走ってる恩恵なのでしょうか。日頃応援してくださっている日本、フランスで応援してくださるみなさんに喜んでいただけたことを知り、とても嬉しい気持ちになりました。


 鈴鹿8耐で凱旋レースを行うことで今回のチームS-PULSEは世界に知れ渡り、フル参戦をしているOG Motarsoport BY SARAZINは日本でも取り上げられ、双方に良い影響を残せたのかなと思います。


 自分自身も日本でも知ってもらえただろうし、海外のチームやライダーにもアピールできたと思うので、出場できて良かったです。今後も自分自身のレース活動を通じて、日本と海外の架け橋となりレース業界をもっと盛り上げていくことが自分自身のミッションです。日本人ライダーとして世界で活躍し、その海外で得た成果を活かして日本のレース業界を盛り上げていきたいです。

生形秀之(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 決勝


 そして、その後は津田選手と生形選手が淡々と順位を落とすことなく走行し続け、ゴールまでのラストスティントを渥美心が務めることになりました。

最終スティントを走る渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐


 後ろにはTOHO Racingの清成龍一選手とまるでスプリントのような争いを続けましたが、残り20分のところでTOHO Racingはピット作業に入ったためそこで少しの差を開かせてゴールまで4位で運ぶことができました。


 鈴鹿サーキットはコースレイアウト的にも大変で、疲労は凝縮されている感じがしますが、精神的には3スティントの8時間耐久レースは余裕がありました。24時間を戦うと8時間は短いと感じることを聞いていましたが、実際にこのような感覚になり驚きました。

パルクフェルメに帰ってきた渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐


■24時間耐久を経験し、鈴鹿8耐に戻ってきた感想


 まずは改めてこの度私をライダーとして起用してくださったS-PULSE DREAM RACING・ITEC、そしてそれを認めて海を越えて応援してくださったOG Motarsoport BY SARAZINに感謝しています。素晴らしい体制のチームで走れることと、今年は鈴鹿8耐が3年振りの開催ということで気合いが入りつつも、今回はとても落ち着いて挑めました。

2022鈴鹿8耐:プライベーター最上位の4位を獲得したS-PULSE DREAM RACING ・ITEC


 非常に居心地が良いチーム環境と世界耐久選手権にフル参戦していることで安定感のある走りをするにはどうすべきかということが把握できていたことが要因でしょう。また、24時間レースに慣れたことで8時間レースはとても短く感じ精神的にも体力的にも非常に楽で、今回の鈴鹿8耐は常に冷静な走りができました。


 夜間走行も24時間レースでの経験が活きて今までで最高の走りができたと思います。日本の夏特有の高温多湿な厳しいコンディションのみが大敵でした。これまでであれば手も足も出なかったチームやライダーと順位を争えて4位でチェッカーを受けられて嬉しいです。

津田拓也、生形秀之、渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐


 大きなミスがなく8時間先のゴールへマシンを運んでくださったチームメイトの生形選手、津田選手とチームスタッフ全員の尽力に感謝しています。将来的にはEWCクラスでのチャンピオンを目指しているので、今回好成績を獲得できたことはEWCクラスでも十分に戦えるという大きな自信になりました。スパ、鈴鹿と良い流れできているので次戦の最終戦ボルドールでは24時間レースでのSSTクラス初優勝を目指して全力を尽くします。


 日本のレースファンの皆様には鈴鹿8耐だけでなく他の世界耐久選手権のレースも観て楽しんでいただけると嬉しいです。今後とも応援よろしくお願いします。

2022鈴鹿8耐にS-PULSE DREAM RACING ・ITECから参戦した渥美心
渥美心(S-PULSE DREAM RACING ・ITEC)/2022鈴鹿8耐 決勝
2022鈴鹿8耐:4位を獲得したS-PULSE DREAM RACING ・ITEC

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