「育成のセレッソ」国内外で活躍するC大阪ヤンマーレディース出身の選手たち

2023年8月23日(水)18時0分 サッカーキング

C大阪ヤンマーレディース出身で現在は海外クラブで活躍する林、宝田、浜野[写真]=Getty Images

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■究極の育成型クラブから数多くの選手が巣立つ
 8月26日に開幕するWEリーグカップ。2023−24シーズンからWEリーグを戦うセレッソ大阪ヤンマーレディースにとって、初の公式戦が迫ってきた。チームの平均年齢は、リーグ最少の21歳。佐伯真道レディース事業部長は、「1名の外国籍選手を除き、全員が育成出身。究極の育成型クラブ」と胸を張る。2010年のチーム創設以降、林穂之香(ウェストハム・ユナイテッドFCウィメン/イングランド)、宝田沙織(リンシェーピングFC/スウェーデン)、浜野まいか(ハンマルビーIF/スウェーデン)ら数多くの優秀な選手を輩出してきた。

 チーム1期生の松原志歩(この夏にサンフレッチェ広島レジーナからデンマークのフォルトゥナ・イェリングに移籍。セレッソには2010年から2018年まで在籍)、東京オリンピック代表の実績を持つ北村菜々美(日テレ・東京ヴェルディベレーザ/セレッソには2012年から2020年まで在籍)、井上陽菜(ノジマステラ神奈川相模原。セレッソには2012年から2020年まで在籍)、松原優菜(INAC神戸レオネッサ。セレッソには2012年から2020年まで在籍)、野島咲良(2023年3月、海外挑戦のためにノジマステラ神奈川相模原を退団。セレッソには2012年から2020年まで在籍)、田畑晴菜(マイナビ仙台レディース。セレッソには2017年10月から2023年1月まで在籍)らは、セレッソで大きな成長を遂げて巣立っていった。彼女たちのように、すでにWEリーグでプレーしているセレッソ出身選手は数多い。

 13年のチャレンジリーグ参入初年度から指揮を執った竹花友也元監督は、当時を振り返って次のように話す。

「厳しい中でも楽しく練習することを心掛けていました。ワンタッチ、ツータッチでテンポよくボールを動かすことは、どの年代でも共通して取り組んでいたこと。自転車に一回乗れたら乗れるのと同じで、感覚さえ掴めれば、一生身につく。みんな、ひたむきに取り組んで、教えれば教えるほど吸収していきました」

 走り負けない運動量とともに、足元の技術でも相手を凌駕する集団。それが、チーム発足から現在に至るまでC大阪ヤンマーレディースを支える大きな幹となった。

 今回は、林穂之香、宝田沙織、浜野まいか、この3選手の足跡を振り返ることで、「セレッソの育成力」にフォーカスを当てたい。
林穂之香の軌跡
■セレッソで研鑽を重ね、現在はイングランドで奮闘

 オーストラリア&ニュージーランド・ワールドカップを戦うなでしこジャパンにも選出され、ベスト8のスウェーデン戦でゴールを奪った林穂之香。「レベルの高いところでプレーしたかった」とセレクションを受け、2期生として中学1年時に加入した。当時、実家のある京都府宇治市から大阪の練習場に片道2時間かけて通うハードな日々を過ごす中で、メキメキと上達していった。

「セレッソでは基礎となる部分を全部教えてもらいました。ハードワークの基準も上げてもらい、意識の部分も高めてもらったと思います」。セレッソで過ごした10代〜20代前半をそう振り返る彼女だが、中学時代は“大人の相手”と戦って大敗し、悔し涙を流すこともあった。それでも「上の学年の選手とプレーできて、毎日練習もレベルの高いところでサッカーができて、楽しかった。セレッソは自分の可能性を広げてくれた場所。レベルの高い相手と試合をして、食らいついていくことで基準も高く設定できた」と当時を回想する。

 同じ志を持つ、年代が近い選手が揃う環境はC大阪ヤンマーレディースの魅力の一つ。「常に上を目指している選手が近くにいたので、自然と引き上げてもらえた気がします。この子には絶対負けない、という気持ちより、一緒に登っていく感覚でした」。周りの選手たちとの切磋琢磨が向上につながったと実感を込める。

 高校3年生の2016年には飛び級でU−20W杯に出場して3位。大学2年の2018年には再びU-20W杯に出場し、日本の初優勝に貢献した。順調に階段を上がっていった林穂之香だが、2018年は彼女にとって「セレッソでの活動の中で最も忘れられない1年」になったという。チームとして初のなでしこリーグ1部での戦い。20歳の若さでキャプテンも任され、チームを引っ張りながら、「苦しんで最下位で降格。もがいた時期」を過ごした。

「焦る気持ちと、1部のレベルに付いていけないもどかしかしさ」を感じながら、中学時代と同様、目の前の現実と向き合い、多くのことを吸収していった。「トップレベルの舞台を20歳くらいの年齢で体感できたことは大きかった」。糧にすることで、その後の成長につなげた。

 2020年、2度目のなでしこリーグ1部は4位で終え、自身としてもチームとしても成長した姿を披露した。翌年はレディース史上初の海外移籍を実現(スウェーデンのAIKフットボールへ)し、東京五輪にも出場。2022年9月には、ウェストハム・ユナイテッドへ活躍の場を移した。その土台となっているのは、C大阪ヤンマーレディースで過ごした日々。「練習に入る前のアプローチ、練習が終わった後の自主練は、セレッソでやってきたことを今でも続けています。セレッソで学んだ技術的な“止める・蹴る”の部分は質を落とさないように、もっと上げていけるように、欧州でも練習しています」。中学時代から変わらぬ技術向上への飽くなき探求心を持って、今後も欧州の地で自身を磨いていくつもりだ。
宝田沙織の軌跡
■攻守両面で輝く、万能型タレント

 林穂之香の1学年後輩にあたる宝田沙織も、小学生の頃から高い能力をもち、C大阪ヤンマーレディースでその才能を開花させた一人だ。2012年、中学入学と同時に地元の富山県を離れ、大阪府堺市に開校したJFAアカデミー堺の1期生として入学した彼女は、J−GREEN堺の寮で生活しつつ、C大阪堺レディース(当時のチーム名)にも入団した。

 2チームを掛け持ちしてサッカーに取り組んだ中学時代について、「JFAアカデミー堺はチームではなかったので、試合はありませんでした。平日は堺で練習し、週末はセレッソで試合。両立することでいろいろな刺激を得ることができ、成長につながったと思います」と話す。多感な時期に親元を離れて寮生活していたことについては、「最初は寂しさもありましたが、周りに仲間がいたので、慣れていくにつれて楽しくなっていった」と振り返る。

 高校からはセレッソ1本の活動に。その能力を遺憾なく発揮したのが高校3年生の2017年だろう。FW登録として背番号を11に変更したこの年、なでしこリーグ2部で22得点を記録。「勝つためには自分が点を取らないといけない。練習から意識して1本1本のシュートの質、精度にこだわった」結果、得点王に輝き、1部昇格に大きく貢献した。

 翌2018年、初のなでしこリーグ1部での戦いは「簡単には勝てない1年」になったが、「自分にどう矢印を向けて成長につなげるか。勝つために日々の練習にどう取り組むか。見つめ直す時期になりました」とひたむきにサッカーと向き合った。1年で1部復帰を果たした2020年はFW、MF、DFと様々なポジションでプレーしつつ、チームの4位に貢献。成長した姿を示した。

 年代別代表としては、高校2年生の2016年、U−17W杯で準優勝。2018年のU−20W杯では、5得点3アシストの活躍を披露し、日本を優勝に導いた。2019年はフランスW杯のメンバーにも追加招集され、大会初戦のアルゼンチン戦でなでしこジャパンデビューを飾っている。海外志向が強まったのはこの時期で、特に「U−20W杯での経験が大きかった」と明かす。

 2021年、念願を叶え、アメリカ・NWSLのワシントン・スピリットに移籍するも「サッカーのスタイルや文化も違う中で、自分のプレーを出す難しさを感じた」。それでも、「日々、自分に矢印を向けるという、セレッソ時代に培ってきたことをアメリカでも実行することで、乗り越えることができた」。2022年からはスウェーデン女子1部リーグのリンシェーピングFCへ移籍。「スウェーデンでは最初から自分を出して、試合にかかわっていく」という強い決意で臨むと、「スウェーデンはつなぐサッカーを志向しているので、セレッソで学んできたプレーも生かされている」と充実感を味わっている。

 今回のW杯メンバーからは惜しくも外れたが、「これからもなでしこジャパンにはかかわりたいし、もっともっとレベルアップしたい」と抱負を語る。「一言で表すと家族」というC大阪ヤンマーレディースで過ごした日々を支えに、これからも欧州で奮闘を続けていく。
浜野まいかの軌跡
■鮮烈なインパクトを残し、欧州へ

 2022年のU−20W杯で4ゴール1アシスト、日本の準優勝に貢献して大会MVPに輝いた浜野まいかは、幼少期から将来を嘱望されていた選手だ。大阪府高石市出身、小学4年でC大阪サッカースクールのエリートクラスに合格し、男子と同じチームでプレーすると、中学1年の2017年、セレッソ大阪堺ガールズU−15に加入。2018年には14歳の若さでなでしこリーグ1部デビューを果たした。

 高校1年生で迎えた2度目のなでしこリーグ1部では、リーグ戦全試合に出場。18試合6得点4アシストの活躍を見せた。2021年3月には、なでしこジャパンの候補合宿メンバーにも初招集。当時の経験について、「練習でも細かくルールがあって、それを覚えるのが大変でした(苦笑)。フィジカルや技術だけではなく、サッカー脳をもっと鍛えないといけないと感じました」と語っている。

 この年、9月のWEリーグ開幕を前にINAC神戸レオネッサへ完全移籍。同クラブ史上最年少のプロ契約選手となった。このシーズンは開幕戦で2得点。WEリーグ初代女王に輝いたチームにあって、優勝決定の瞬間もピッチで迎えた。今年1月にはイングランド・ウィメンズ・スーパーリーグのチェルシーFCと4年半の契約を結び、現在はスウェーデン女子1部リーグのハンマルビーIFへ期限付き移籍。カップ戦でタイトル獲得に貢献するなど欧州1年目から目覚ましい活躍を見せている。

 中学2年生の14歳でなでしこリーグ1部デビューを果たした実績が物語るとおり、当時からスピードや技術は卓越しており、年齢を重ねるごとにフィジカル能力も上がり、決定力も増した。当時からスタッフが止めるまで全体練習後もボールを蹴るなど練習熱心な選手でもあった。世界へ羽ばたくのは必然とも言えるプレーをC大阪ヤンマーレディース在籍時から発揮していた。主力選手が抜けた21シーズンの開幕時には、「チームが苦しい時こそ得点して、貢献したい。守備でも、みんなを背中で引っ張っていけるように、前からしっかりプレーしたい」と高校生ながら熱い言葉を残すなど、リーダーシップも兼ね備えている。最終的にどこまで成長を遂げるか、底が知れない19歳。なでしこジャパン、欧州でのさらなる活躍に期待は高まる。
■チームには有望な若手がひしめく

 現在のチームにも、2022年のU−20W杯準優勝メンバーであり、2022年9月になでしこジャパンに初選出された小山史乃観ら将来を嘱望される若手選手が多数、在籍している。7月のU−19日本女子代表候補トレーニングキャンプには、その小山をはじめ、米田博美、中谷莉奈、白垣うの、栗本悠加(※中谷、白垣、栗本はセレッソ大阪ヤンマーガールズU−18所属)と5選手が選出された。

 C大阪のアカデミー年代での指導経験も豊富な鳥居塚伸人監督は、初のWEリーグを戦うにあたり、「チームとして勝利を目指すとともに、個人としても成長し、世界を目指せる選手を育成したい」。このように抱負を述べる。“育成のセレッソ”を謳うチームにおいて、日常的にレベルの高い環境で揉まれることで成長を加速させ、世界へ羽ばたく選手が今後も出てくることを期待したい。

取材・文=小田尚史

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