大波乱のGT300。スーパーGT第3戦鈴鹿のあれこれ一気掲載《第3戦GT300決勝あと読み》

2020年8月24日(月)17時1分 AUTOSPORT web

 合計3回のセーフティカー。終盤に至るまでギリギリのバトル、接触……。スーパーGT第3戦鈴鹿は、GT500もGT300も大波乱のレースになったと言えるだろう。GT300クラスのレースのなかで起きた事柄について、すべてではないが何が起きていたのかご紹介しよう。


■SC中のピットイン+2回ストップのHOPPY Porsche


 今回、3回のセーフティカーがコースに入ったが、GT300ではやはりピットインのタイミングが勝敗を分けたと言っていい。GT500が17周目に入った段階で、リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rのフロントカウルがコース上に脱落したことから2回目のセーフティカーが入ったが、GT300では21周を終えた段階でSCが解除され、この時点で多くのマシンがピットインしている。


 ただその後、たかのこの湯 RC F GT3とHitotsuyama Audi R8 LMSが2コーナー立ち上がりで接触し、Hitotsuyama Audi R8 LMSがグラベルにストップしたことから3回目のSCが入るが、この直前がタイミングとしてはベスト。隣のピットのタイミングや、混雑を避けるなどさまざまなストラテジーがあるが、最終的に優勝したGAINER TANAX GT-R、2位のUPGARAGE NSX GT3は24周でピットに入っている。また、大きく順位を上げたSUBARU BRZ R&D SPORTやTANAX ITOCHU ENEX with IMPUL GT-Rなど、23〜24周でピットに入っている。


 一方でModulo KENWOOD NSX GT3など、セーフティカー導入で損をしたマシンも多く、今回土曜の公式練習後にテストも行ったが、フルコースイエロー(FCY)の導入が待たれるところだ。


 そんななかで、これまでにない作戦を採り順位を上げたのはHOPPY Porscheだ。序盤は23番手を走っていたが、SC中にピットインしタイヤ交換のみを行い、さらに26周を終え再度ピットに入り、今度は給油とドライバー交代を行った。


 これは2019年まで、セーフティカー中はピットインがすべて禁じられていたが、今季から「先頭車両がSCの後方につき、残りの全車両がさらにその後方に整列しモニター上に『ピットレーンオープン』のメッセージが表示された周回からピットインができる。この際ドライバー交代を除くピット作業が許される」という条文がレギュレーションに追加されており、これを活用したものだ。


 26周のピットインのタイミングが良かったこともあり、HOPPY Porscheは他車がピットインを終えると、一気に5番手まで浮上していた。その後は松井孝允が苦戦を強いられ順位を落としてしまったが、「もちろん他にも準備していたチームもあると思いますが、このルールになってからはずっと準備していました」というのは土屋武士監督。


「単純に、タイヤ交換を14秒と仮定すると、14秒止まっている時間をSC中に消化できる。23番手だったのが28番手くらいになるけれど、そこのロスを考えてゲインがあるだろうなと。そこで次の周に入っても良かったけど、混雑もしているし、たかのこの湯 RC F GT3のピットもあるので遅らせました」


 これが奏功したかたちだが、土屋監督は「うしろを走っているからできる作戦で、鈴鹿というコース長のサーキットだからできるもの」だという。また「上位を走っている人はやりづらい」とも。これは他エンジニアも「もちろん考えていたけれど、後方を走っていないとできないし、リスクが大きい」という。また実行するにはさまざまな条件も必要だという。


「“奇策”ではないですね。準備していたものをやっただけ。そしてやるには勇気がいる」と土屋監督。今後、セーフティカーが導入された際には他チームも選択する作戦になるかもしれない。


■密集のなかでのアクシデント


 今回、鈴鹿というコースレイアウトならではと言える密集したバトルがあちこちで展開されたが、そのなかでは少し危険とも思えるようなシーンもあった。スローダウンしていたマッハ車検 GTNET MC86 マッハ号が日立オートモティブシステムズシケインに差しかかった際、K-tunes RC F GT3をドライブしていた阪口晴南がアウト側のスポンジバリアに接触してしまった。


「同じペースのマシンと競っていて、ケイ(コッツォリーノ)さんのPACIFIC NAC D’station Vantage GT3が前にいて、うしろに(小高)一斗のADVICS muta 86MC、青木(孝行)さんのRUNUP RIVAUX GT-Rがいました。そこでみんながインにいっていたので、抜かれまいとアウトからいこうとしたら、スロー走行していた5号車がいたんです」と阪口。


「追突しそうになってしまい、アウト側に避けたのですが、グリーンで止まれれば良かったですが、バリアを引っかけるかたちになってしまいました。かなり驚きましたし、あのタイミングでは仕方ないとは思いつつも、自分のミスだと思います。切り替えていきます」


 この状況はGT500のバトルも絡んでおり、かなり難しいシチュエーションだったのは間違いない。スピード域も高い部分で、少々ヒヤリとするアクシデントだった。また阪口にとっても悔しいアクシデントとなってしまった。


■意地のバトルが望まぬ接触に


 3回目のセーフティカー導入のきっかけとなったのは、ピットインを終え争っていたたかのこの湯 RC F GT3とHitotsuyama Audi R8 LMSのバトルからのHitotsuyama Audi R8 LMSのストップだ。「タイヤが温まってきて、前を追おうと思いましたが、ストレートに向けてアウディにスリップに入られてしまいました。インに入られましたが、アウトで粘れると思っていました」というのは、たかのこの湯 RC F GT3の久保凛太郎。


「1コーナーのクリップ立ち上がりくらいまで粘っていましたが、一度接触があり縁石の方まで押し出され、コースに戻りたいのでステアリングを右に切ったタイミングと向こうが寄せたタイミングが重なってしまったかもしれませんね。あそこで接触しているようではダメです」と久保。「戻り方が急だったようです」とペナルティが課されてしまった。


 一方川端は「ピットに入って2〜3周後くらいですが、RC Fと近いまま1周走り、ストレートでスリップに入りインに入っていきました。映像でも僕の方が少し前にいましたが、ずっと『来てるな』と思いながら、そのまま……という感じでした」という。


「(久保も)テンションが上がっていたと思いますし、僕も熱くはなっていましたけど、逆の立場なら引いていたかな………という気持ちもあります。残念ではありますね。UPGARAGE NSX GT3の前にはいたので」


 どちらも好走をみせていただけに、悔しい結果になってしまったのは間違いない。また両ドライバーとも今季チームに加わっていただけに、結果が何より欲しかったはずだ。最終的に久保のペナルティにはなったが、次戦の両者の巻き返しを期待したい。


■オリベイラが必死の奮闘も、結果は残らず


 終盤、激しいドッグファイトが展開されたのが、リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rを駆るジョアオ・パオロ・デ・オリベイラを先頭としたバトルだ。21周を終え交代したリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは、GAINER TANAX GT-Rに次ぐ2番手を走っていたが、終盤GAINERに離されていってしまう。


「残り10周くらいは、完全にリヤがなくなっていて、本当に苦しかった。オーバーステアでバイブレーションもあったし、なんとか順位を守りフィニッシュしようと思っていたんだ」とオリベイラ。


 そんななか、ペースに優るARTA NSX GT3の大湯都史樹、さらにUPGARAGE NSX GT3の松浦孝亮がオリベイラに急接近し、3台のバトルが展開された。しかし、デグナーで大湯がオリベイラにヒット。2台はコースを外れてしまった。


「後方からペースが速いARTA NSX GT3が近づいてきたけど、デグナーのひとつめでヒットされてしまったんだ。大湯選手はレース後謝りにきてくれたけれど、あれからさらにオーバーステアがひどくなった」とオリベイラは状況を語る。


 一方大湯は「トップ2台のGT-Rよりペースは良かったのですが、前に出られてしまうとダウンフォースが減ってしまい、なかなか抜けなかったです。最後、2位までは届きそうだったのですが、オリベイラ選手の巧みな駆け引きで抜くのが困難だったのと、僕も無理してしまったところがありました。反省が多いレースになってしまいました」と悔しがった。大湯にはレース後ペナルティも課されている。


 さらに、今度はSUBARU BRZ R&D SPORT、LEON PYRAMID AMGがオリベイラの背後に迫る。3台はダンロップカーブで三つ巴となるが、そのなかで蒲生尚弥のLEON PYRAMID AMGがスピンを喫する。


「セーフティカーで詰まったぶん、前にいくことができました。GT-Rがペースが鈍っていて、61号車とどこで抜くか……という状況でしたが、僕のミスです。スライドしてしまって、61号車に当たってしまいました」と蒲生。


「完走できたのが奇跡みたいな状況でしたね。エンジン等はまったく大丈夫でしたが……。ポイントを獲れたのが不幸中の幸いなので、切り替えて頑張ります」


 一方オリベイラは、残り2周でSUBARU BRZ R&D SPORTや後方からハイペースで追い上げてきたシンティアム・アップル・ロータスの先行を許したものの、なんとかチェッカーを受けたかと思われた。しかしなんらかの行き違いがあったようで、「もう1周あるよ!」と無線が飛ぶ。なんとかプッシュしたものの、最後はTANAX ITOCHU ENEX with IMPUL GT-Rと接触し、ストップしてしまう。


「表彰台でレースを終えたかったし、最低でもフィニッシュしたかった。でもこれもレースだよ」とオリベイラは寂しげな表情を浮かべた。


■松浦らしいレース運び。ベテランの読み光る


 そんな2番手争いを勝ち抜き、2位でフィニッシュしたのは小林崇志/松浦孝亮組UPGARAGE NSX GT3だ。ホンダNSX GT3にスイッチして初めてとなる嬉しい表彰台を獲得した。


「今日は楽しかったです。ピットのタイミングも最高でしたし、ピット作業がもうメチャクチャ速くて! メカニックのみんなが最高の仕事をしてくれました」と松浦。


「その後のペースも、タイヤが活きているうちは少し負けていましたが、後半タレなかったのがすごく良かったです。きちんとペースをコントロールして、残り10周でプッシュしたときが速かったですね」


 また松浦は、こうしてチーム体制を構築してくれたTEAM UPGARAGEの石田誠監督に感謝を述べた。「僕と小林が乗るので石田監督がNSX GT3にスイッチしてくれましたし、ARTAの鈴木亜久里代表が、チャンピオンエンジニアの一瀬俊浩エンジニアが移籍するのを許してくれた。結果を出したかったし、今回の2位で亜久里さんも喜んでくれました。いろんな人に感謝です」


 そして最後にしっかり結果をもっていくのは、これまでのレースを振り返ってもなんとも松浦らしい。「ごっつぁん大将ですよ(笑)」と笑顔をみせた。「“ごっつぁん”でいかないと、JP(オリベイラ)を相手にするのはメチャクチャ難しいですよ。想定して走ってました」という。


 ちなみに、今回スルスルと抜けだした松浦も、同じくバトルを利用し3位に入ったシンティアム・アップル・ロータスの柳田真孝も、同じ1979年生まれ。ベテランならではのレースの展開、相手を読む戦いが功を奏した結果だろう。

松浦孝亮と小林崇志(UPGARAGE NSX GT3)

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