錦織圭、少年時代の純粋な情熱は変わらず。10度目の全米OPへ

8月26日(月)6時37分 Sportiva

 20代最後のグランドスラムですが、特別な思いは——?

 向けられたその問いが終わるより先に、錦織圭は困惑の色がにじむ笑みをこぼした。

「それ、一番苦手な質問です。何が正解なのかわからないですから、20代最後って」


20代最後のグランドスラムに挑む錦織圭

 USオープン開幕を3日後に控えた、囲み会見での一幕。さらには同日の夕方に、滞在先のキタノホテルで行なわれた会見でも同じ質問を受けた錦織の顔には、聞くが早いか、苦笑いが広がった。

「とくに意識していなくて。例年どおりです」

 そう、ほがらかに応じるものの、同じ問いを繰り返し受けているうちに、彼の胸にはいつしか自然と、経てきた年月や重ねてきた経験が実感として染み込んでいったことだろう。

 初めてUSオープンの本戦に出場した時、彼はまだ18歳だった。

 同年2月にツアー初優勝を果たし、テニス界の表舞台に踊り出ていた錦織は、まるで品定めするかのような周囲の視線も受けながら、3回戦で当時世界ランク4位のダビド・フェレール(スペイン)をフルセットの死闘の末に撃破する。そのフェレールが昨年のこの時期に引退の意志を表明した時、錦織は「ここ最近で一番ショックなニュース。彼には、育ててもらったようなところがある」と悲しみを隠さなかった。

 さらに今年は、過去5戦全敗のヤンコ・ティプサレビッチ(セルビア)がUSオープン前に今季限りの引退を表明。そのニュースには、「すごくケガが多く、苦労してきた選手。そういう選手が辞めていくのは、切ないと同時に、自分も年を重ねているんだなって感じます」と、言葉に哀愁の音色を響かせた。

 それら、重ねた年月と実績に応じて高まる知名度や人気に、「なんで、こんなに有名になってしまったんだろう?」と戸惑うことは、一度や二度ではないという。それでも最近では、自分の立場を諦念とともに受け入れ、「責任感や正義感は確実に昔より増えている。あとの世代に自分ができることを探していかなくては、というのは常に考えている」と、まっすぐに明言した。

 追いかけた先達たちの、コートを去る背を幾度も見届け、そのたびに、あとに続く者への責務を背おう——。それらの思いをモチベーションとする彼は、同時に、「強い者と戦いたい」という少年時代と変わらぬ無垢さを、今も心に灯している。

 そんな彼の性向を最も端的に表わすのが、ロジャー・フェデラー(スイス)への思いだ。

「フェデラーだけは、ずっとやっていてほしいな、というのはあります。昔から自分のアイドルだし、今も目指している選手。いつでも試合をやりたいなと思っている」

 それほどまでに「アイドル」との対戦を切望する彼は、先のウインブルドン準々決勝でフェデラーと対戦した際には、「ロッカーからセンターコートに入る道の途中で、泣きそうになるくらいエモーショナルになっていた」と明かす。

 ワクワクした気持ちと、彼とウインブルドンで試合ができる高揚感——。それが、錦織の気持ちを「涙が出そう」なほどに高ぶらせた要因だ。

 そのような対戦相手への純粋な敬意と、好勝負そのものへの渇望は、年長者のみに向けられるものではない。現に錦織は、「今、一番試合したいのは、よっしーですね」と、誰に水を向けられるでもなく言った。錦織がここで言う「よっしー」とは、フロリダのIMGアカデミーの後輩であり、1週間前のシンシナティ・マスターズで敗れた23歳の西岡良仁。

「けっこうコテンパンにやられたので、リベンジしたいです」

 西岡の成長を肌身で感じ、その事実を喜ばしく思うからこそ、万全な状態で再戦したいとの想いは何にも増して強いのだろう。

 その西岡との対戦時、試合中にドクターを呼び、「思うように呼吸できない」と訴えていた錦織だが、懸念された体調面は「もう大丈夫」だと断言した。詳細は明かさなかったが原因も判明し、シンシナティ後の1週間、高温多湿のフロリダで濃密な練習を積めてきたと、表情に明るい色を灯す。

 もちろん、試合勘欠如への不安は残るが、それは1〜2回戦で戦いながら取り戻していく心づもり。その意味でも、初戦で当たるストローカーのマルコ・トルンゲリティ(アルゼンチン)は、「いい相手」だと錦織は言った。

 20代最後のグランドスラムであることに、特別な意味や、正解の答えもないだろう。

 ただ、確かなのは、10度目のUSオープンを迎える彼には、築き上げてきた実績に依拠する、揺るぎなき自信と経験則があること。そして年月を重ねても薄れることのない……いや、むしろ深みを増す、テニスへの向上心と、勝負への純粋な情熱があることだ。

Sportiva

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