大坂なおみ「自分でもよくわからない」。全米OPで突如崩壊、ラケットも投げつけ18歳に逆転負け

9月5日(日)15時20分 Sportiva

 それはあまりに突然の、"崩壊"としか言いようのない敗戦への変調だった。

 全米オープンの3回戦。大坂なおみと対戦するレイラ・フェルナンデス(カナダ)は、"優秀なジュニア"から"期待の若手"への移行期にいる18歳だ。

【写真】2018年にUSオープンで初優勝を果たした大坂なおみ

 まだ面差しに少女のあどけなさを残すが、今季の目標を問われ「トップ10」と即答するほど、上昇志向を細身の体に秘める。アーサーアッシュスタジアムの大舞台にも萎縮せず、羨望のまなざしで追ってきた「目標の選手」に勝てると心から信じ、フェルナンデスは大坂との試合に挑んでいた。


ミスに苛立って大声をあげる大坂なおみ
 その18歳の挑戦を、大坂は正面から受け止める。初戦では攻めに焦りやぎこちなさが見られたが、この試合ではボールを左右のコーナーに打ち分けて、相手の動きを見極める盤石のプレーを披露する。

 なによりこの試合の大坂は、サービスゲームで圧倒的な強さを誇示した。初戦では50%を切ったファーストサービスの確率も60%以上を記録。フェルナンデスも時おりサウスポーの利点を生かすポイント構築で才能の光をほとばしらせるが、単発では大坂を崩すには至らない。

 若き挑戦者が善戦するも、最後は女王が貫録を見せ勝利を得る----。そんな予定調和な余韻をまといながら、大坂が7−5、6−5とリードしたまま、勝利へのサービスゲームに向かった。

 大坂のなかで、突如として歯車が狂いだしたのは、この時である。

 最初の打ち合いで、フォアのショットがワイドに切れていった。続くポイントはバックハンドの強打で奪うも、そこからフォアのショットが続けて大きくベースラインを越えていく。最後も、フォアのクロスが意思なくアウト。

 これまで、相手に一度もブレークポイントすら与えなかった大坂が、あっけなく......あまりにあっけなく、ブレークを献上した。

 そのままもつれ込んだタイブレークでの大坂は、心の乱れを隠しきれない。ミスにラケットを叩きつけそうになり、グッとこらえたのも一度まで。次のポイントも失うと、思わずラケットを投げてしまった。

 時に選手は、苛立ちを放出することで集中力を上げるが、大坂の場合は、ネガティブな感情を増幅させる結果に陥る。最後はフェルナンデスのサービスウイナーで、第2セットは18歳の手に。終わったかに思われた試合が突如、熱を帯びたことに、センターコートの観客は熱狂した。

 両者ともにトイレットブレークを挟み、仕切り直して迎えたファイナルセット。だが、第2セット終盤に生まれた潮流は、その程度の些細な因子では変わらぬ勢いを得ていた。

 いきなりのダブルフォルトで始まった第1ゲームを、立て直すまもなく失う大坂。前年優勝者の内面の変調は、誰の目にも明らかだ。

 こうなると、第2セットではフェルナンデスを後押しした観客の心理にも、再び変化が生じる。熱戦を期待しつつも、最終的にはスター選手の勝ち上がりを望むファンは、大坂の応援に転じはじめたのだ。

 だが、試合前に「観客を味方につけたい」と笑顔で語ったフェルナンデスは、類まれなエンターテイナーの資質をも光らせる。冷静かつ知的にラリーを組み立て、会心のポイントを決めるや両手を振りあげる18歳の胆力に、ニューヨークの観客は驚嘆と共感の歓声を上げる。

 対する大坂は、苛立ちまぎれにボールを客席に打ち込み、自らを一層の窮状に追い込んでいった。

 試合が終盤に向かうにつれて、緊張するかに思われた18歳はむしろ、ファンの歓声を浴び集中力を研ぎ澄ます。勝利へのサービスゲームでは、鋭いストロークで大坂を後方に押し込み、しなやかなドロップショットをネット際に沈めてみせた。

 最後は大坂のフォアがワイドに逸れ、ありふれたシナリオかに思われた一戦は、シンデレラストーリーへと昇華する。勝者が、歓声とスポットライトを浴びるコートに背を向けて、大坂はファンの声にピースサインを控え目にかざすと、静かにコートを後にした。

 試合終了から、約1時間後----。

 会見室の席に腰を沈める大坂は、記者の質問に「自分でもよくわからない」の言葉を繰り返しては、表情に困惑と失意の色を浮かべた。

「今日の試合について、何を言うべきかわからない」

「なぜラケットを投げてしまったのか、自分でもよくわからない」

「本来の私は、困難に立ち向かうのが好き。なのに最近では、物事がよくない方向に向かうと、不安で仕方がない。なぜそんなふうになってしまったのか、自分でもさっぱりわからない」

 司会者により英語の質問がいつもより早めに切り上げられ、日本語のそれに移った直後のことである。

「最近は勝っても、うれしさはなく、安堵する。負けると、悲しくて、仕方ない......。これは正常ではないと思う」

 そこまで言った大坂は、高ぶる感情を押しとどめることがもはやできず、こぼした涙をぬぐった。

 その様子に司会者が「会見はここまで」と終了を宣告するが、彼女は「最後までちゃんと言いたいから」と涙ながらに訴えると、意を決したように言葉をつむいだ。

「正確に伝えるのはすごく難しいことだけれど、今の私は自分が何をしたいのか、答えを見つける時に来たのだと思う。だから......正直に言うと、次に出るテニスの試合がいつになるかわからない」

 再びあふれ出る涙に声を詰まらせ、それでもなんとか「しばらくは、テニスから離れることにします」と言葉を絞り出すと、ぎこちない笑みとともに両手の親指をあげて、彼女は会見室をあとにした。

 彼女の言う「しばらく」がどれほどの期間を指すのか、それはわからない。

 ただ、全仏オープンでの会見拒否発言に端を発した、外界の喧騒と自らの内面に折り合いをつける彼女の孤独な闘争に勝者はなく、解決の糸口すら見えていない。

 ボタンをかけ違えたのは、彼女の心か、ビジネスとして肥大化しすぎたテニス界か、あるいは社会そのものなのか......?

 それらの課題に、大坂自身とあらゆる人々が向き合い優しく時を流した先に、きっと光はあるはずだ。


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