スーパーフォーミュラ第5戦:多彩な戦略と驚きの連続。ガスリー2勝目&ルマンがソフトで50周走破
2017年9月10日(日)18時32分 AUTOSPORT web
全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦オートポリスの決勝レースが周回数54周で行われ、ピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)が2戦連続の優勝を飾った。
昨日に引き続き晴天に恵まれたオートポリス。スタート直前のコンディションはモニター上は気温25度、路面温度33度ながら、スタート直前には気温29度、路面温度35度まで上昇。それでも土曜日の路面30度、路面40度よりも若干低めの状況となった。
午前中のフリー走行の結果から、ソフトタイヤのライフは12周は保つことが分かっていたが、その先は未知数。また、燃料面ではレースを走り切るには約5、6周分の燃料が足りない計算が出ており、どのような戦略が見られるのか訊ねても、ドライバー、エンジニアとも誰もが「走ってみないとわからない」と口を揃えている状態だった。
レース前の8分間の試走では各チームの装着タイヤはソフト、ミディアム入り乱れての展開に、グリッドへの試走も同様に分かれていた。
グリッド上でも若干ミディアム装着のマシンが多いものの、割合はほぼ半々。グリッド上位陣ではポールポジションの野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)はミディアム、2番手の国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)はソフトからミディアムにグリッドで履き替え、3番手の小林可夢偉(KCMG)も国本同様グリッド上でミディアムに、5番手グリッドのガスリーも直前にミディアムからソフトに履き替えていた。
2年ぶりのオートポリスでのスーパーフォーミュラ選手権、いつものように赤ライトが点灯しブラックアウト。野尻は何なくスタートを決め先頭で1コーナーに。しかし、国本は出遅れ、代わりにガスリーがロケットスタートを決め2番手に浮上した。1コーナーでは野尻、ガスリー、国本、可夢偉の順に。4番手スタートのアンドレ・ロッテラースタートを大きく出遅れ、その後接触があったようで左フロントのサスペンションが折れ、わずか1周でピットイン、そのままステアリングを外しリタイヤとなった。
その後ろではITOCHU ENEX TEAM IMPALの2台、関口雄飛とヤン・マーデンボロー、そして塚越広大(REAL RACING)がソフトタイヤを装着し、さらに軽い燃料と想定される速さで順位を上げていく。
すると、4周終了時点の5周目にフェリックス・ローゼンクビスト(SUNOCO TEAM LEMANS)は早々にピットイン。ミディアムからソフトに交換しており、この時点では2ピット作戦かと予想されていた。
11番手スタートの関口は1周完了時には6番手に、14番手スタートのマーデンボローは8番手と大幅ジャンプアップを成功させ、その後も周回ごとに順位を上げ、関口は5周目の1コーナーで国本を捕らえ3番手に、マーデンボローも6番手でまで順位を上げ、レース序盤の要注目ドライバーに名乗り出た。
9周目あたりでトップのミディアム装着の野尻とソフト装着の2番手ガスリーのタイム差が拮抗してくる。ミディアムのタイムが思ったよりも上がらないのか、ソフトがあまり落ちないのか、結論は見えぬコンマ5秒から6秒の差で周回を重ねていく。
11周目、関口がピットイン。ソフトからソフトに交換し、2ピット作戦が確定し山本尚貴(TEAM MUGEN)の後ろとなる13番手でコースへと戻った。マーデンボローは13周目ピットイン。ソフトからミディアム、しかし給油時間が短く、2ピットなのか1ピットなのか戦略は未だ見えない。
17周目、2つポジションを落としていた5番手の可夢偉が動き、ミディアムからソフトに交換。1ピット作戦の可能性もあるが残り周回を全てソフトタイヤで走り切れるのか、こちらも戦略はわからないままコースへと戻っていく。
20周を経過したあたりでトップの野尻とガスリーの差は0.816。当初の想定以上にソフトのガスリーがタイムを落とすことなく安定したタイムを出し続けていく。その後約16秒後ろを国本が差を縮めながらじわりと追い上げやや差はあるもののトップは3台の争いかと思われる展開に。
トップ3台で最初に動いたのはガスリーで23周目。ミディアムに交換し給油を合わせて12.4秒と短いピットタイムで8番手の位置でコースへと戻る。ここでトップの野尻も合わせてピットかと思われたが、チームと野尻は動かずステイ。この判断が後々、野尻陣営の状況を苦しめることに。
26周完了時の順位は野尻、国本、一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)、山下健太(KONDO RACING)のミディアムタイヤ装着ピットイン未消化組のあとにマーデンボロー、ガスリーの1ピット消化済みミディアム装着組、そのあとが10番手スタートのローゼンクビストが続く。
レースの半分を消化したあたりから3番手の一貴が自己ベストタイムを連続で出し、他車が1分33秒台中盤の中、1分32秒後半とわずかながらもタイムを削って前の2台との差を序々に詰め始める。
32周目、野尻と国本の差は2.094まで縮まっていた。そのあと、ベストタイムを更新し続けていた一貴が34周目にピットイン、山本尚貴(TEAM MUGEN)の後ろ10番手で戻る。ソフトタイヤを装着し、わずかアウトラップ1周目で山本、塚越をパスして8番手まで順位を取り戻していった。4番手まで順位を上げていた山下はピットイン後の再スタートでストール、上位争いから脱落している。
38周目、先頭の野尻がようやく動きピットへ。ミスなくソフトタイヤに履き替たものの給油が長引き、モニター上の制止時間約16秒でコースへと戻る。翌周には野尻の動きに合わせて国本がピットイン。国本のピットタイムは14.7秒と一貴の前へ。この給油時間の違いは、トヨタエンジンとホンダエンジンの燃費の違いも影響しているのかもしれない。
ピットストップで国本に対してタイムロスした野尻はアウトラップ勝負となったところ、1コーナーで前を走る可夢偉と接触。野尻はフロントウイングを失いグラベルへと飛び出してしまう。その後、スロー走行でなんとかピットへと戻ったが、野尻は優勝のみならず上位争いからも消えてしまった。
この時点でトップはガスリー、2番手にローゼンクビスト、そして大嶋和也(SUNOCO TEAM LEMANS)が続く。大嶋もローゼンクビスト同様、6周目と早い段階でピットイン。そしてソフトタイヤを履いており、チームルマンの2台はもう一度ピットに入るものだと予想されていた。
トップのガスリーのみミディアムタイヤを履き、以下、ローゼンクビスト、大嶋、石浦、国本、可夢偉、一貴と続く7台がソフトタイヤを装着。ソフト組がどこまでガスリーに追いつけるのかという展開に。
ソフトタイヤを装着したばかりの国本はペースが速く、ブロックのうまい可夢偉をなんとかオーバーテイクした後、5番手に浮上してチームメイトの石浦を狙うも石浦もチャンピオンシップが掛かっており、懸命にブロック。そのセルモの2台の争いの後ろで一貴も虎視眈々とオーバーテイクを狙っていたがこちらも石浦が抑え込み、順位に動きはなし。残り周回も10周を切っており、この3台が自力で表彰台へたどり着くのは厳しいという状況が見えてきた。
となると、表彰台争いの注目は、誰もが2ピットだと思い上位を走りながらもノーマークだったチームルマンの2台へ。
燃料が足りずスプラッシュでピットに入ってしまうのか、そしてソフトタイヤが保つのか、はたまた最後まで走り切ってしまうのか、最後まで分からないまま残り周回数は減り、トップのガスリーとローゼンクビストとの差は約2秒。その差は結局変わらず、ガスリーが先頭を走りながらオーバーテイクボタンを押す余裕の走りでトップチェッカー。スーパーフォーミュラ2連勝を飾った。
そして、チームルマンの2台はともにソフトタイヤで約50周を走り切り表彰台を獲得。大嶋は2012年以来第4戦以来、5年ぶりのスーパーフォーミュラでの表彰台獲得。ローゼンクビストは3戦連続表彰台の2位表彰台。ライフとパフォーマンスが不透明な2スペックのソフトタイヤを導入したこの2戦、ガスリーとローゼンクビストという、世界の実力者が上位に来たのも、偶然ではないだろう。
ソフトタイヤの出来やその運用方法についてはさまざまな意見があり、もてぎ戦とオートポリス戦の間で急きょ特別規則が発令されて現場が混乱し、レースでもギャンブル性の高い、出たトコ勝負のような展開になったが、今までのスーパーフォーミュラのイメージを覆すようなオーバーテイクの連続、そして先行きの見えないハラハラと驚きの連続する展開だったことは間違いない。