トヨタGR86&スバルBRZのサーキット試乗。ドリフト走行で見えた新型の変化と進化【大谷達也のモータースポーツ時評:番外編】
2021年9月10日(金)13時50分 AUTOSPORT web
モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。
今回は、番外編として新型トヨタGR86&スバルBRZのインプレッションをお届けします。新型BRZは、今シーズンからスーパーGT300クラスで活躍を見せており、86は今回から“GR”の冠がつくなど、“走り”へのこだわりがひと際強く感じられます。この2台をサーキットでドリフトしてみると、その進化のほどと両車のキャラクターの違いが鮮明に伝わってきました。
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新型のトヨタGR86やスバルBRZを買おうと思っている人なら、この2台でドリフトができるかどうか……ここにきっと関心をお持ちのことだろう。先にその答えをお知らせすると、新型もしっかりとドリフトできる。
しかも、先代よりもはるかにコントロール性は良好だ。なぜ、私がそんなことをいえるかといえば、袖ヶ浦フォレストレースウェイでGR86とBRZのプロトタイプを試乗したからだ。まずは、新型のドリフト・コントロール性が向上した理由について、ご説明しよう。
理由のひとつとして、エンジン排気量が2.0リッターから2.4リッターに拡大された影響が大きい。この新しいエンジンは、排気量が拡大されただけあって、低回転域から分厚いトルクを発揮してくれる。しかも、トルク特性がフラットなうえ、レスポンスも良好で、扱いやすい。
おかげで「ここでテールを振り出したい!」と思ったときに、リヤタイヤのグリップを打ち負かすのに充分なトルクを簡単に引き出すことができる。回転域によってはトルクが不足気味だった先代とは、この点が大きく異なっている。
ふたつ目の理由は、ボディとシャシーが一段と進化したことが挙げられる。たとえば、ボディはフロントの横曲げ剛性が約60%、捻り剛性が約50%も向上した。この結果、ステアリング操作がレスポンスよく正確に前輪の動きへと反映され、ドリフト導入時の繊細なコントロールがより容易になった。
ルーフ、フード、フロントフェンダーをアルミ製として軽量化し、これによってヨーモーメントを減少できたことも、クルマの姿勢を意のままに整えるうえで大きく役立っている。
さらにボディ剛性の強化は、ステアリングフィールから雑音成分を取り除き、本当に重要な情報をドライバーにより忠実に伝えることにも結びついた。これも新型のドリフト・コントロール性が上がった理由のひとつといっていい。
結果として新しいGR86とBRZは、ドリフトを始めるタイミング、ドリフト・アングル、そしてドリフトしている時間の長さなどが、これまでに以上に思いのままにコントロールできるようになったのである。
ただし、ハンドリングのキャラクターは、GR86とBRZでいくぶん異なる。端的にいって、GR86は、ちょっとしたことをきっかけにしてドリフトモードに入りやすい。また、一旦滑り始めると、BRZよりも大きなドリフトアングルとするのがより容易に感じられる。
■2台の違い。刺激重視のGR86と安定感に優れたBRZ
いっぽうのBRZは、GR86よりももう少しリヤが粘るし、ドリフトアングルもGR86に比べると少なめ。つまり、GR86のほうがよりテールハッピーで、BRZはよりスタビリティ重視といえる。
こうしたキャラクターの違いは、GRとスバルのキャラクターの差を反映したものだ。実は、試作段階のGR86に試乗したトヨタの豊田章男社長は「このままでは物足りない。もっとキビキビとして、ダイレクト感の強いハンドリングのほうがGRには相応しい」という趣旨の言葉を開発担当者に投げかけたらしい。
この段階のGR86は、サスペンションのスプリングやダンパーの設定がBRZと多少異なっているだけで、それ以外の成り立ちは基本的に同じだった。しかし、豊田社長の言葉を受けて、フロントサスペンションのナックルアームをそれまでのアルミ製から鋳鉄製に変更した。
さらにフロントスタビライザーを中空式(パイプのように中身をくり抜いた設計)から中実式(中身が詰まった設計)に改めたほか、リヤスタビライザーの取り付けも、GR86はブラケットを介してサブフレームに取り付けられているのに対し、BRZはボディに直づけされ、リヤサポートサブフレームという補強部品も追加されている。
こうしたGR86独自の変更は、いずれもダイレクト感を強めるためのもの。そのほかにも、GR86のサスペンションスプリングはフロント:柔らかめ、リヤ:硬めなのに対して、BRZは前後のスプリングレートが似通っていることや、GR86はBRZに比べてスロットルペダルを少し早めに開ける傾向がある点も、GR86のレスポンス感を早めるのに効果があるはず。つまり、GR86は刺激重視でBRZはより穏やかでマイルドな設定といえるだろう。
ここまで聞くと、なんとなくGR86のほうがスポーツ・ドライビング派には向いているように思えるかもしれないが、反応が穏やかでリニアリティの高いBRZのほうが繊細なコントロールはしやすいとも考えられる。
GR86がレスポンスならびに刺激重視にしたのが豊田社長の意向だったことは先に述べたが、スバルの穏やかな反応はスバル・ブランドの伝統に根ざしているといっていい。
4WDモデルを数多く生産し、雪国でも広く愛されているスバルにとってはトラクション性能やスタビリティがなによりも重要。そういった考え方が、スポーツカーのBRZにも反映されているのだ。
このため、GR86のほうがコーナーの早い段階で大きくテールを振り出す派手なドリフト走行をするのに向いているのに対し、BRZはドリフトさせるかどうかの微妙な姿勢を保ちつつ、たとえテールがスライドしてもそれを最小限に留めて効率よくコーナリングするというドライビングを得意としている。
もっとも、前述したボディやシャシーの進化によってGR86とBRZは、ドライビング・ダイナミクス全般が進化しているので、GR86でもギリギリでニュートラルステアを保つ繊細なドライビングができるし、BRZでも大きなドリフトアングルを長々と保つ派手なアクションを披露できる。
両メーカーのエンジニアに訊ねると、「新型は先代よりも2モデルのキャラクターの違いが際立った」という答えが返ってくるが、個人的にはシャシーのポテンシャルが向上して守備範囲が広がった結果、むしろ似たようなドライビングができる領域、つまりキャラクター的に重なり合っている部分は増えたような気がしている。
そしてもうひとつ、新型のGR86とBRZについて報告しておきたいのが、スポーツカーとしてのパフォーマンスとクォリティが一段と磨き上げられた結果、社外品のチューニングパーツなどを買ってくることなく、いわば吊しの状態で乗ってもあまり不満は覚えないだろうという点にある。
つまり、新型GR86と新型BRZの完成度は、それほど高いといえるわけだ。車両価格は特にベースグレードでいくぶん高くなったものの、エンジンの排気量拡大やボディならびに足まわりの熟成度が大きく向上したことを考えれば、新型はむしろ割安と評価してもいいような気がする。