山本尚貴に石浦宏明、ともに国内で戦った現役ドライバー、エンジニアはガスリーのF1初優勝レースをどう見ていたのか

2020年9月11日(金)19時30分 AUTOSPORT web

 F1第8戦イタリアGPでピエール・ガスリーが挙げた勝利は同じレースに出ているライバルたちや歴代のF1ドライバー、そしてフランス大統領に渡るまで多くの人が祝福したものになった。


 今週末、スーパーGT第4戦が行われるツインリンクもてぎでガスリーにゆかりのある人物たちに話を聞くと、かつて一緒に戦った仲間やライバルにとっても、今回の優勝は意味のあるものだったことが分かる。


 2016年にGP2でチャンピオンを獲得したガスリーは翌年、全日本スーパーフォーミュラ選手権にチーム無限から参戦し、惜しくもチャンピオンシップは2位に終わったが、最終戦までタイトルを争った。


 当時、ガスリーのチームメイトであり、その強さと人間性を一番身近で感じ、衝撃と刺激を味わった山本尚貴はガスリーの勝利を「誇らしい」と言う。


「ああいう誰が見ても緊迫した状況のレースは本当に久しぶりに見た気がしました。まさしくレースだなと。DRS圏内に入られないように走るガスリー選手に、なんとか近づこうと追う(カルロス)サインツJr.選手、お互いが全力を出し切っているのが分かるレースはあるようでないんですよ。DRS圏内に入られないように要所、要所できちんと抑えていましたが、エネルギーマネジメントを考えながらやらないといけないので、ドライバーはもちろんチームの力もあると思います」

2019年F1日本GPでFP1を走行した山本尚貴。初めてF1を走らせる山本にガスリーは「アドバイスをくれた」という。


 山本尚貴は昨年のF1日本GPでトロロッソ(現アルファタウリ)・ホンダのマシンをFP1でドライブ。今回のイタリアGPからエンジンマッピングの変更ができなくなったとはいえ、1年前のマシンの感触、走行中のさまざまな作業を体感している唯一の日本人ドライバーでもある。


「僕は昨年のF1日本GPのときに彼のマシンでF1を走らせてもらいました。ルールは多少変わったかもしれませんが、いまのF1は走りながらステアリングも操作して、ミラーを見ながら後ろとの間隔も見るなどいろいろなところにセンサーを行き届かせないといけない。乗せてもらったからこそ分かることですが、あの緊張感の高いトップ争いの状況でミスなくああいう走りができて、優勝できたことは本当にすごいと思います」


「サインツJr.選手も最後は追いつけませんでしたが、F1もいまのスーパーフォーミュラと同じでダウンフォースに頼っている部分が大きいと思います。そうなるとやはりある一定のところまでは前のマシンに追いつけても、そこから先はなかなか詰まらない。しかも前にガスリーのマシンがあって綺麗な空気が当たらないなか、コーナーなどは特に大変だったと思います。そのなかでもジワジワと詰めて行ったという意味では彼の頑張りもすごかったですよね」


「僕は日本人としてはどのドライバーよりも一緒にレースを戦ったチームメイトなので、ガスリー選手のすごさは2017年に肌で感じました。彼の人柄もよく知っているので、勝ってくれたことは僕も誇らしい気持ちになります。いま戦っているフィールドは違いますが、僕も負けていられないなと思うと同時に、彼のように同業者から見てもすごいと思わせるレースを自分もしたいと思うほど、刺激をもらいましたね」

2017年、チーム無限よりスーパーフォーミュラデビューを果たしたピエール・ガスリー。


■「ガスリー君、おめでとう」に対する返事は「まだきていません(笑)」


 もうひとり、スーパーフォーミュラに参戦していたガスリーを側で見続けた人物がいる。当時ガスリーの担当エンジニアを務めていた星学文氏だ。ガスリーとともに日本での苦楽をともにした星エンジニアは、F1で苦労していたガスリーの様子を見ていたため、勝利の瞬間は「ほっとした」と話した。


「レースの最後、後ろから(サインツJr.が)迫ってくるなかで、よく抑えたなと。頑張ったなと思いました。今回も『おめでとう、よくやった』とメッセージは送りましたよ。忙しそうですけどね(苦笑)」


「昨年のレッドブルに乗っていたときよりも今年のアルファタウリの方がクルマが合っている気がします。スーパーフォーミュラのときもそうでしたが、(山本)尚貴は回頭性と求めるタイプ、ピエールはリヤ(の安定感)を求めるタイプだった。レッドブルのマシン特性は(マックス)フェスルタッペン向きに見えましたし、ピエールの走らせ方には合っていないように感じていました。その点、今年はちゃんとタイヤも使えていて、レースペースも良さそうだと思っていたので、アルファタウリのマシンは合っているのだと思います」


 その星エンジニアに、改めてガスリーというドライバーの長所を聞いた。

初めて経験する日本のサーキットに戸惑う様子も見られていたが、徐々に習得し第4戦もてぎラウンドで初勝利を挙げた。


「チーム無限の15号車はピエールが乗って以降、多くの外国人ドライバーを乗せていますが、彼が一番貪欲だったと思います。なんとしてもスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲るんだという気持ちが最初からすごく強かった。彼は調子が悪いときでもちゃんと受け止めて、次の日には切り替えができていた。気持ちの持って行き方がすごく上手だったと思います。昨年、レッドブルから左遷みたいな形になってしまったときも、きっとふてくされずに頑張ったんじゃないですかね。今回の優勝はその結果だと思います」


 星エンジニアは一昨年、そして昨年のF1日本GPの鈴鹿へ足を運び、ガスリーを訪問するなど、チーム無限とガスリーの関係はまだまだ続いているようだ。

2017年の全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦していたガスリー。序盤は苦労する様子も見せていたが、最終的にはタイトルを争う姿を見せた。


 そして、2017年のスーパーフォーミュラでガスリーのチャンピオンを阻止してタイトルを獲得した石浦宏明もまた、F1イタリアGPのレースを見逃さなかったひとりだ。


ガスリーの勝利に石浦はまずは「うれしい」と笑みをこぼす。実は石浦とガスリーはSNSで今でもお互いつながっている仲だという。


石浦はガスリーが勝利した翌日、自身のTwitterで「日本語のツイート分からないだろうな」と前置きしつつ、「ガスリー君、おめでとう」と祝福のメッセージを投稿していた。




「(ガスリー君からは)まだ返事きてないですね。実はしょっちゅう僕のインスタグラムとか、Twitterの投稿に「イイね!」をしてくれるんですよ。フォローしてくれているのは知っていますが、『俺のSNS見てくれているのかよ!』と(笑)」、突っ込む石浦。


「イタリアGPのレースを見ていたときは完全に応援モードで、『あと1周あったら危なかったね。よかった、よかった』と思いながら見ました(苦笑)」と、まずはファン視点で見ていた感想を話すが、もちろん、現役ドライバーとして、トップ争いの勝負どころにも注目して見ていた。


「ラストの5周の集中力はすごかったですね。ああいう風にトップを走っているときって、どこまでブレーキを突っ込むかで状況が一瞬で変わるんですよ。その一撃をしくじったらそこで終わりですからね。あのプレッシャーのなかで維持できるのはさすがですよ」


「特にモンツァだとDRSが効くので1秒以内に入ったら、前を走っているドライバーはディフェンスは何もできないですよね。言い換えれば1秒以内に入るかどうかの戦いだと思うんです。そこでガスリーがギリギリ、サインツJr.とのギャップを1.3秒差のところで耐えたことが、あのレースのすべてだったと思います」

最終戦は台風の影響により、予選Q1を持って終了。石浦宏明がチャンピオンを獲得。ガスリーは0.5ポイント差でタイトルを逃した。


 今シーズンは国内のカテゴリーも変則的なスケジュールが組まれ、ドライバーやチーム関係者も忙しい日々を送っている。それでもかつて一緒に戦った仲間のレースをそれぞれがいろんな思いを抱えて見ていた。


 そして、山本が話すように「フィールドは違えど、負けていられない」と、ガスリーの勝利は国内のトップドライバーたちに大きな刺激を与えたことは間違いない。

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