「50トンくらい載ってた肩の荷が降りた」SUBARU BRZ。流れを変えた“ふたつの決断”【GT300決勝あと読み】

2021年9月13日(月)7時10分 AUTOSPORT web

 きっかけは、金曜日のチームミーティングでの山内英輝のひとことだった。


「最近、卓ちゃん(井口卓人)が決勝の後半でキツい状況を走ってくれることが多いので、卓ちゃんがスタートで僕が後半行ってもいいんじゃないですか」


 前戦鈴鹿、SUBARU BRZ R&D SPORTはポールポジションを獲得したものの、レース序盤にしてタイヤのドロップが始まり、スタート担当の山内は早々にピットイン。2輪交換で後半のロングスティントに出て行った井口は、ハンドリングが悪化するマシンと格闘し、腕がパンパンになってしまったという。


 井口が置かれた状況に、山内は申し訳なさを感じていた。自分も、長いスティントで力走することが必要なのではないか。そう考えた末の提案だった。


 もっとも、そう提案した山内もそれを聞いていた井口も、さっそくこのSUGO戦でチームがそれを受け入れるとは思わなかったという。


「僕は『やっぱり山内がスタートじゃなきゃダメだろう』って言ってくれるかなと思ったんですが、『じゃあ今回、井口が前半行くか』とすんなり採用されてしまい、『あ、受け入れてくれるんだ……』って(笑)」(山内)


 山内の躊躇は、自身が「前半スティントをピットで待っているのが苦手。早く終わらせたいタイプ」であることに由来する。しかし、それを超える勝利への思い、そして井口への“相方愛”があったということだろう。


 チームとしても、「どちらがスタートしても戦略が変わるわけではないですし、ここ最近の流れを変えたいというのもありました」(澤田稔テクニカルコーディネーター)。こうして、今週末を決める第1の決断は、金曜日に下されていた。


 同時にチームは、鈴鹿戦までの反省を活かす形で、オートポリスのテスト、そしてSUGO戦の週末を通じて車両セットアップの改善に取り組んできたのは既報のとおり。ダンロップタイヤの一発の良さを活かしながら、決勝でもその良さを引き出すべく、車両側での合わせ込みを模索していた。


 これまで続いていたロングランでのリヤのグリップダウンを食い止める施策と同時に、予選日にはフロントタイヤもケアする必要があることが露わになった。相反する要素を、どうまとめあげるのか。最終的には決勝前の20分間のウォームアップ走行がカギになった。


 正直、フロントもリヤも厳しくなりそうな予兆はあったという。だが、ドライバーふたりがフロントが先に厳しくなりそうだと感じたこと、そしてフロントの方がタイムダウンに直結することから、「フロントを守るというか、旋回を良くする方向で」(澤田氏)セットアップに調整を加えた。これが第2の決断となった。


 久々にも関わらず難なくスタートを決めた井口は、感触の良かったソフトタイヤを後半の山内にも履かせるべく、若干のペースダウンと戦い、そしてARTA NSX GT3に迫られながらもスティントを引き伸ばした。


 ピット作業も早く、実質トップかつギャップを築いた状態で後半スティントに入る様を見届けた井口は、ほっと一息ついた。井口のリヤタイヤの摩耗は想定の範囲内。左フロントは「結構キツい状態でした」(澤田氏)という。決勝前に変更を加えていなかったら、スティント終盤にはもっと大きなドロップに見舞われていたかもしれない。


 決勝中、唯一のピンチは後半になって導入されたセーフティカーだった。後続との差が一気に縮まったうえに、リスタートではまだピットインを済ませていない4台のマシンが山内の行く手をふさいだ。


 チャンスとばかりに背後に迫ったARTA NSX GT3にストレートで追突された山内は一瞬、頭に血が上ったという。


「逆に、あれでスイッチが入りましたね」(山内)


 怒りの感情をうまくコントロールした山内は、そこからは再び後続を引き離す力強さを見せた。フィニッシュラインでの2位との差は11秒。前戦までの「決勝に弱い」というキャラクターを、完全に克服することに成功した。


「50トンくらい載ってた肩の荷が降りました」とゴール後に笑顔を見せた井口。これでランキングではトップに立ち、セットアップの最適解も見えた。残り3戦、混戦となっているGT300のタイトル争いをリードしていく存在となりそうだ。

3年ぶりに表彰台の頂点に上がった井口卓人/山内英輝(SUBARU BRZ R&D SPORT)

AUTOSPORT web

「SUBARU」をもっと詳しく

「SUBARU」のニュース

「SUBARU」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ