欧州5大リーグ夏の移籍市場の勝者と敗者【2024/25】
2024年9月13日(金)18時0分 FOOTBALL TRIBE
2024/25シーズン、欧州5大リーグ(プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガ、リーグ・アン)における夏の移籍市場(現地時間6月14日から8月30日)で、補強の成功を挙げたクラブはどこか?対照的に思うような補強ができず、ファンやメディアの不評にさらされているクラブは?
近年のサウジアラビアリーグの投資の状況も手伝い金満クラブを新天地に選んだ者もいれば、未だチームが決まらないトッププレイヤーがいるのも事実だ。この夏の移籍市場で注目されたクラブの勝者と敗者、そしてその中間も含めて整理してみたい。
勝者:アトレティコ・マドリード(ラ・リーガ)
まずこの夏の市場で最も印象的だったクラブといえば、誰もがアトレティコ・マドリードを思い浮かべるはずだ。
アトレティコはこの夏、1億8000万ユーロ(約281億円)を投じて4人の主力選手、FWフリアン・アルバレス(7500万ユーロ/約117億円)、MFコナー・ギャラガー(4200万ユーロ/約65億円)、DFロビン・ル・ノルマン(3450万ユーロ/約54億円)、FWアレクサンダー・セルロート(3200万ユーロ/約50億円)と、他数人の選手を獲得した。
また最終的に、FWジョアン・フェリックスを5200万ユーロ(約81億円)でチェルシーに移籍させ、FWサムエル・オモロディオン(1500万ユーロ/約23億円)とFWアルバロ・モラタ(1300万ユーロ/約20億円)をそれぞれポルトとミランに、またMFサウール・ニゲスを再びセビージャにレンタルし、別れを告げた。
勝者:アーセナル(プレミアリーグ)
プレミアリーグで2シーズン続けて2位の座に甘んじ、優勝を逃しているアーセナル。日本代表DF冨安健洋も在籍するこのチームは、守備のカバーが必要だったのは明らかであった。
そんなアーセナルはこの夏、4500万ユーロ(約70億円)を投じてDFリッカルド・カラフィオーリを獲得。さらに中盤にはレアル・ソシエダからユーロ2024でブレイクしたMFミケル・メリノを適正価格(3300万ユーロ/約51億円)で獲得。また、2023/24シーズンはブレントフォードからのレンタル移籍だったGKダビド・ラヤを3000万ユーロ(約47億円)で遂に完全移籍で迎え入れた。
そして市場閉幕最終日には、チェルシーのFWラヒーム・スターリングがレンタル移籍にサインし、攻撃陣の選手層を厚くした。
また、FWエディ・エンケティア、MFエミール・スミス=ロウ、GKアーロン・ラムズデールの移籍で8000万ユーロ(約125億円)以上を稼ぎ出し、批判されていた資金調達も効果的に行ったアーセナル。多くのファンが望んでいたストライカー獲得への投資は控え、メリノも移籍早々怪我をしたが、それでもこの夏の移籍市場での勝者であることに疑問を持つものは少ないのではないだろうか。
勝者:パリ・サンジェルマン(リーグ・アン)
今夏、FWキリアン・エムバペをレアル・マドリードに奪われたパリ・サンジェルマン(PSG)は、マーケットでは意外にも冷静さを保ったように映った。
スター選手の後釜確保に奔走するかと思いきや、MFジョアン・ネヴェス(7000万ユーロ/ 約109億円)、MFデジレ・ドゥエ(5000万ユーロ/約78億円)、DFウィリアン・パチョ(4000万ユーロ/約62億円)といった非常に優秀な若手選手に投資した。
また、ルイス・エンリケ監督のスタイルに合わないMFマヌエル・ウガルテを5000万ユーロ(約78億円)でマンチェスター・ユナイテッドに移籍させた。エムバペが去ってチームのイメージが変化する中、移籍戦略においてもPSGの新たな時代が訪れたといえよう。
勝者:ユベントス(セリエA)
ユベントスはこの夏、チアゴ・モッタ新監督を迎え完全にチームを一新した。DFリッカルド・カラフィオーリ(アーセナル)を逃したことを除けば、補強は順調だったのではないだろうか。
アストン・ビラからMFドウグラス・ルイス、アタランタからMFトゥーン・コープマイネルス、ニースからMFケフレン・テュラムを迎え中盤をテコ入れ。また特筆すべきはモンツァから獲得したGKミケーレ・ディ・グレゴーリオだ。戦略家として知られるモッタ監督の「モダンで手堅い」戦術には欠かせない足元でのボール扱いを得意とする選手であり、ユベントスでどこまで通用するのか、活躍に期待が集まっている。
攻撃陣には、両サイドのウイングからセンターフォワードまでこなす万能アタッカーFWニコラス・ゴンザレスと、2017年から今年6月までポルトを指揮したセルジオ・コンセイソン監督の息子FWフランシスコ・コンセイソンがレンタル移籍で加わり、新風を吹きこんでくれるに違いない。
勝者:サウジ・プロフェッショナルリーグ(番外編)
番外編として、サウジ・プロフェッショナルリーグを勝者として捉えるかどうかは意見が分かれるかもしれないが、欧州5大リーグの移籍市場において偉大な役割を果たしていることは否めない。
同リーグを代表するアル・ヒラルは、ブレントフォードからFWイバン・トニーを4750万ユーロ(約74億円)で獲得。FWクリスティアーノ・ロナウドを擁するアル・ナスルは、RBライプツィヒから期待のDFモハメド・シマカンをお買い得な移籍金(4500万ユーロ/約70億円)で獲得した。
また、マンチェスター・シティからDFジョアン・カンセロが、2,500万ユーロ(約40億円)でこちらもアル・ヒラルに移籍。そしてアストン・ビラからは、25歳のウインガーFWムサ・ディアビが、アル・イテハドに加入した。
将来を期待される若手や伸び盛りの中堅層が移籍することが増え、サウジアラビアの移籍市場の戦略は変わってきたと捉えられている。この傾向はリーグ全体の発展に間違いなく影響を及ぼしており、今後サウジリーグが欧州5大リーグと肩を並べる日がくる可能性も否定はできないだろう。
中間:マンチェスター・ユナイテッド(プレミアリーグ)
ネームバリューのある経験豊富な選手を獲得してチームを強化する方法に見切りをつけたのか、今夏マンチェスター・ユナイテッドが獲得した選手を見てみると、ポジションごとに複数のターゲットに狙いを定めている感がある。
リールから若手DFレニー・ヨロ(6200万ユーロ/約97億円)、PSGからMFウガルテ、ボローニャからFWジョシュア・ザークツィー(4250万ユーロ/約66億円)、バイエルン・ミュンヘンからは、日本代表DF伊藤洋輝に押し出される形でマタイス・デ・リフト(4500万ユーロ/約70億円)とDFヌセール・マズラウイ(1500万ユーロ/約23億円)を獲得した。
新戦力の半数が、エリック・テン・ハフ監督とオランダ1部のアヤックス・アムステルダムで成功を得ていた選手だ。また、DFラファエル・ヴァラン(コモ)やFWアントニー・マルシャルといった、高額な給与に伴った働きをしなかった選手たちは退団していった。以前のクラブの姿からほど遠いのが現状だが、これは未来の成功への布石と捉えたい。
中間:リバプール(プレミアリーグ)
日本代表キャプテンMF遠藤航も放出されるのではないかと噂の絶えなかったリバプールの移籍市場は、ほとんど動きを見せなかった。
前ユルゲン・クロップ監督が去った中、ファンは補強がうまくいかずイライラと不安を抱きながら新シーズンを迎えたが、目下絶好調であり既存戦力の厚みをまざまざと見せつけられた格好だ。レアル・ソシエダのMFマルティン・ズビメンディに移籍を拒否されたことで、昨年から囁かれている6番のポジションの強化を果たせなかったことは悔やまれる。
しかし、世界最高の若手GKとして期待の高いGKギオルギ・ママルダシュヴィリを、来夏加入という条件付きで獲得した。またユベントスから、怪我が多いとはいえイタリア代表のFWフェデリコ・キエーザをわずか1300万ユーロ(約20億円)というバーゲン価格で獲得したことは、評価に値するのではないだろうか。
DFフィルジル・ファン・ダイク、DFトレント・アレクサンダー=アーノルド、FWモハメド・サラーの去就も気になるが、冬の移籍市場もしくは来夏の移籍市場で大きな動きが出てくることが予想される。
敗者:チェルシー(プレミアリーグ)
多数の選手が入団と退団をする慌ただしい夏を過ごしたチェルシー。MFコナー・ギャラガー(アトレティコ・マドリード)やDFトレヴォ・チャロバー(クリスタル・パレス)といったい同クラブ出身の選手を放出し、経験豊富なFWラヒーム・スターリングはアーセナルへレンタル移籍させるという奇妙な行動をとった。
クラブはFWロメル・ルカク(ナポリ)、DFルイス・ホール(ニューカッスル・ユナイテッド)など多くの選手を放出して、約1億8890万ポンド(約350億円)の売却金を手にしている。しかし、DFベン・チルウェル、FWダトロ・フォファナ等は移籍先が決まらず、飼い殺しの状態になりそうだ。
移籍市場の後半にFWジェイドン・サンチョとFWジョアン・フェリックスを獲得したことを忘れてはならないが、クラブの共同オーナーが互いの買収を検討しているなど上層部の内紛が発覚し、厳しい批判を浴び続けている。
敗者:バルセロナ(ラ・リーガ)
アスレティック・ビルバオのFWニコ・ウイリアムズの獲得に失敗し、6,000万ユーロ(約93億円)で獲得したFWダニ・オルモの登録のために必死でコスト削減に努めるなど、別の意味で市場を賑わしたバルセロナ。
DFジュリアン・アラウージョ(ボーンマス)が退団。DFクレマン・ラングレ(アトレティコ・マドリード)、FWビトール・ロケ(レアル・べティス)、MFオリオール・ロメウ(ジローナ)はローン移籍。放出に伴う収入が少ないことが指摘されており、金策がここ数年の課題なのはいうまでもない。しかし、FWパウ・ビクトルを獲得したことは評価されている。
また、オルモの獲得で犠牲になったMFイルカイ・ギュンドアンが、わずか1年でマンチェスター・シティになんと移籍金なしで帰還するなど、金銭面の課題が散見され移籍市場で完全な負け組だといわざるを得ない。
敗者:ニューカッスル・ユナイテッド(プレミアリーグ)
ニューカッスル・ユナイテッドは、残念なことに新戦力の加入はなかった。クリスタル・パレスのDFマーク・グエーイの獲得は失敗に終わり、他の選手との契約のニュースは入ってこなかった。
獲得に本腰だったイングランド2部バーンリーのGKジェームス・トラフォードも空振りに終わり、ノッティンガム・フォレストのFWアントニー・エランガの獲得も失敗に終わった。さらに、売りに出したMFミゲル・アルミロンも買い手が見つからなかった。
同クラブは2年前にFWアレクサンデル・イサクとMFブルーノ・ギマランイスを獲得してトップクラブへの道を模索したが、それ以降に目立った移籍は完了せず、今冬以降の巻き返しに期待したい。