ニッサン、早くも2022年から新型フェアレディZをGT500に投入か。カギはライバル勢の空力開発許可

2021年9月17日(金)12時5分 AUTOSPORT web

 8月18日、待ちに待った新型Zが米国ニューヨークで世界初公開された。プロトタイプがお披露目されて以来、世界中のクルマ好きに注目され続けていたが、正式発表後もいっそうの熱視線が注がれている。日本国内の発表予定は『2021年の冬』。当初、記念すべき“23回目”のニスモフェスティバルでの発表と予想されていたが、今年の開催は見送られてしまった。いったいどうなるのだろうか?


 その新型Zは先代『Z34』の後継機種にあたり、通常の流れに沿えば『Z35』になると考えられていた。ところが、新型Zの型式は『Z34』のままだ。


 自動車メーカーが新たに型式を取得する場合、近年厳しくなっている環境性能や衝突安全性など、国土交通省によって定められたさまざまな課題・基準をクリアする必要に迫られる。それらに対応しようとすると開発コストが増し、車両価格は高騰してしまうのが一般的だ。また、車両の構造や装備の面では、車両重量が増えてしまう傾向にある。スポーツカーにとって軽さは武器のはずだが、モデルチェンジを繰り返すごとに車重が増し、走りの楽しさがスポイルされてしまうのは、こうした事情がある。


 新型Zが『Z35』を名乗ることをせず、『Z34』のままとするのは、まさにこうしたことへの対応と考えられる。走りの気持ち良さを失うことなく、身近で手が届くスポーツカーであり続けるために、あえて新たな型式を取得しなかった──そんなクルマ好き・走り好きの気持ちに寄り添った姿勢が共感を呼び、新型Zへの期待につながっているのかもしれない。

8月18日に発表された新型フェアレディZのアメリカ向けモデル『Z』


 さて、レースファンが知りたいのは、この新型Zをいつ、どのレースで見られるかだ。現在、ニッサンのワークス活動はABB FIAフォーミュラE世界選手権とスーパーGTの二本柱だが、本誌既報(No.1538/2020年10月2日発売号)のとおり、量産車のプロモーションという観点から推測すれば、新型Zが投入されるのはGT500と考えてまず間違いない。もちろん、世界の潮流から見てカスタマーレーシングのGT3やGT4車両に使用される可能性も濃厚だが、ここではひとまずGT500にフォーカスしていこう。


 燃料流量を規制したニッポン・レース・エンジン(NRE)の導入とともに、DTMとの共通パーツ化などが推し進められてきた現在のGT500は2014年から始まった。それ以降2017年、2020年を大きな節目とした“3年周期”を基本として、コストダウンを目的に車両開発の年次改良を制限したり、部分的に許可したりなどを繰り返してきた。


 ただし、新型コロナの影響を鑑みて次の新規定導入は2023年ではなく、2024年になることがすでにGTAからアナウンスされている。つまり、ニッサン/ニスモが来年から新型Zを投入すれば、その“2022年スペック”で2シーズンを戦えることになる。仮に来年の開幕戦から投入されるのであれば、車両開発はいままさにクライマックスを迎えているころだろう。CFDや風洞実験によって導き出された空力パーツが狙いどおり機能しているか否か、実走テストでの確認段階にあるはずだ。つまり、秘密裏のうちに、もうすでにどこかのサーキットで走っている可能性が高いことになる。


 では、その戦闘力がいったいどれほどのものなのか。残念ながら現段階では知る由もないが、ここ数年、苦戦を強いられているニッサン陣営の立場に立てば、おぼろげながら見えてくることもある。現在のGT-Rは他車と比べて相対的に高いダウンフォース量を得ている代償に、ドラッグの大きさがネックとなっている。このあたりのバランスは間違いなく見直されるはずで『もう少し富士で戦える方向』にシフトしてくるものと考えられる。


 しかし、問題は“このタイミング”で車両の変更が認められるかだ。過去の例を見ても、空力においては開発凍結とされることが多く、認められてもフリックボックス周辺の細かな変更のみ。ベース車両が変わるということは、その協定が破られることになる。だが、GTAは「トヨタ、ニッサン、ホンダありきのGT500」と公言している。現在の二強一弱という状況は、興行として考えても理想のかたちではない。


 サクセスウエイトがあるからこそ鈴鹿戦で“軽い”GT-Rが表彰台を独占し、見た目には『3社がバランスよく勝っている』ように映るが、ニッサン陣営が戦闘力で劣勢にあるのは否めない。パフォーマンスの均衡を図るために新型Zの投入を認めつつ、NSXとGRスープラの空力開発も認める方向で来季を迎えることになると予想する。


 その際、NSXは8月30日に発表したタイプSのエアロをベースとする可能性が高い。NSXは2022年限りでの生産終了を公表しており、タイプSはその集大成となる最終モデルだ。当然、空力における進化も果たされている。一方、GRスープラはどうか。こちらは2025年に生産終了、そのファイナルエディションとして2023年にGRMNモデルが登場するという噂も聞こえてくるが、果たして──。

『2代目NSXの集大成』と謳われるホンダNSX“タイプS”


 ただ、ニッサン陣営にとって、空力以上に深刻なのはやはりエンジンだ。出力、ドライバビリティ、そして回転数が落ち込んだところからのピックアップなど、あらゆる面でホンダとトヨタに水をあけられている現状を打破できるかどうか。「敵が増えてしまうのは困るから、あえて公の場での発言を控えているけど、開幕戦など同条件で走っているときのGT-Rを見ていると、正直、ニッサン陣営のドライバーは気の毒だと感じます」というライバル陣営のドライバーの声も耳にする。言い換えれば、新型Zの戦闘力はエンジン開発陣の双肩にかかっているといっても過言ではないかもしれない。


“ライバルが重たくなった鈴鹿”ではなく、ノーウエイトの開幕戦や最終戦で、新型ZがNSXやGRスープラと互角に渡り合う姿が見られることを、ファンは待ち望んでいる。


※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1560(2021年9月17日発売号)からの転載です。

2007年のスーパーGT GT500クラスに参戦したザナヴィニスモZ
2021スーパーGT第3戦鈴鹿で表彰台を独占したニッサンGT-R
autosport No.1560の詳細はこちら


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