日豪戦はオーストラリア優位か。「ジョーカー」としてベンチに控える“天敵”ケーヒル

9月19日(月)10時1分 フットボールチャンネル

ケーヒルの起用法とフォーメーション

いよいよ開幕したW杯最終予選。日本がUAE相手にホームで敗れる中、グループB最大のライバル豪州は連勝スタートとなった。”サッカルーズ”は連勝という結果だけでなく、これまでチームを支えてきたティム・ケーヒルの起用法、マーク・ミリガンのユーティリティ性などの収穫を手にした。10月に迫る日豪戦に向けた充実度では豪州のほうが優位に立っている。(取材・文:植松久隆【ブリスベン】)

—————————— 
 日本がアウェイで何とかタイに勝利を収めた夜、グループBの日本の最大のライバル豪州は、酷暑のアブダビでUAEを”ウノゼロ”で下した。日本を破って意気軒昂の相手からアウェイで貴重な勝ち点3をもぎ取り、勝ち点を6まで積み上げた豪州はグループBの1位となり、長丁場のW杯最終予選で好発進を見せた。

 日本の最終予選の最大のライバルと目される豪州の序盤の戦いぶりを簡単に振り返る。この2連戦で特筆すべきは、来月開幕のAリーグでプロ選手として初めて母国でプレーすることになったティム・ケーヒル(メルボルン・シティ)の起用法。

 ケーヒルはメルボルン・シティの練習で汗を流しており、Aリーグのシーズンに向けて調整のスピードを高めてきているところ。初戦のイラク戦でのベンチスタートにさほどの驚きは無かった。

 それ以上に筆者を含め、サッカルーズを身近に知る人々が驚いたのは、この日のフォーメーション。長く豪州サッカーのトレンドであり、自らのトレードマークともいえる左右のウイングを置いた4-3-3(4-3-2-1と表記することもできる)をアンジ・ポスタコグルー監督が使わなかったのだ。ポスタコグルー監督が採用したのは中盤ダイヤモンドの4-4-2だ。

 しかし、4-4-2の採用もケーヒルの起用法と合わせて考えれば納得がいく。ワントップ向きのケーヒルをスタメンで使わないのであれば、2トップにして4-4-2にすることで、才能ある若手選手が多くいる中盤に一つ多くの駒を割ける。ポスタコグルー監督としては、ケーヒルの起用法と若い才能の共存の可能性を追った結果、最良の選択として4-4-2へのフォーメーション変更で大事な試合に臨んだのだろう。

“ケーヒル依存症”解決の端緒を見せたイラク戦

 実際、豪州と対戦する側にしてみれば、ケーヒルがベンチにいるのは実に不気味で怖い。代表キャリア92試合で48ゴールの決定力を誇る彼が”必殺仕事人”的な役割を担っていることは、心理的な圧迫感として対戦相手に無言のプレッシャーを与える。ポスタコグルー監督もその効果をわかったうえでのケーヒル温存策だったに違いない。

 この試合のメンバーは、守護神マシュー・ライアン(バレンシア)。CBにはトレント・セインスベリー(江蘇蘇寧)とチーム随一のユーティリティで監督の信頼が厚いマーク・ミリガン(バニーヤス)。左SBは、スタメンの座を確保したブラッド・スミス(ボーンマス)。そして、相変わらず試合ごとの交替起用が続く右SBには、クロアチア生まれのセルビア人として経験したユーゴ内戦の難民として幼いころに移民としてやってきた、24歳のミロス・デグネク(1860ミュンヘン)が起用された。

 注目の中盤には、守備的MFにキャプテンのミレ・ジェディナク(アストン・ヴィラ)、攻撃的なポジションの右に25歳のアーロン・ムーイ(ハダーズフィールド・タウン)、左には23歳のマッシモ・ルオンゴ(QPR)と、イングランドで活躍する2人を起用。そして、トップ下にはセルティックでブレイクした23歳のトム・ロギッチ。前線のツートップには、共に25歳のトミ・ユリッチ(ルツェルン)とマシュー・レッキー(インゴルシュタット04)を並べた。

 早くから将来を嘱望され、ポスタコグルー監督が行った世代交代の中で頭角を現してきた若手選手メインで構成される攻撃陣には、サッカルーズの変容と成長の在り様が映し出された。

 ケーヒルをベンチに置き、結果が出なければ困るところだったが、この日は若手が攻守に躍動し、まったく危なげなく2-0と勝利。慣れないフォーメーションも、個々の能力の高さもあって特に大きな問題点は見られなかった。

 むしろ中盤のキャラクターが揃うことで、攻撃のバリエーションが増えているようにも感じられた。大事な最終予選の初戦で宿痾とも言われた”ケーヒル依存症”の克服の端緒を見せたのだから、上出来だ。

酷暑の中のUAE戦。ミリガンのユーティリティ性を生かす

 幸先良いスタートを切ったサッカルーズが次に臨んだ関門はアウェイでのUAE戦。試合当日のアブダビ、ムハンマド・ビン・ザイードスタジアムは蒸し暑く、南半球の涼しい気候からの移動で豪州は少なからずディスアドバンテージを被ることになった。

 UAE戦のスタメンにも、ケーヒルの名前は無かったが、フォーメーションは本来の4-3-3に戻っていた。この日は、キャプテンのジェディナクに代わり、ミリガンをボランチで起用。先の試合でミリガンが入ったCBの一角には、本職のマシュー・スピラノヴィッチが復帰。右SBにこの日はライアン・マクゴーワンを起用。

 前線は攻撃的なポジジョンにムーイとロギッチが入り、ルオンゴが外れた。ウイングには、お馴染みのロビー・クルーズ(レバークーゼン)とレッキーが入り、この日はいつも以上に左右のポジションチェンジを繰り返した。そして、ケーヒルの代わりに先発したのはユリッチという顔ぶれ。

 このメンバー構成には多くの現状の示唆が含まれている。右SBは相変わらず固定されず、デグネク、マクゴーワン、リズドンが競う。現状としては、そのいずれもが抜けた存在になり得ていない。

 中盤の構成に関しては、攻撃的なカードを3枚並べることができたイラク戦から1枚減らさねばならなかった。そこで削られたのがルオンゴ。この起用法により、現状の攻撃的MFの序列はムーイ、ロギッチ、ルオンゴの順にあることが分かった。

まさに千両役者。「ジョーカー」ケーヒル

 もっとも興味深いのは、ユリッチのワントップ起用。初戦のイラク戦では2トップの一角、さらに厳しい戦いとなるUAE戦でもワントップに起用してきたのは、ポスタコグルー監督の彼への期待の表れ。さらに今後もケーヒルを「ジョーカー」として起用するという強い意思を感じた。

 試合は、やはり気候面の影響から、豪州は全体的に動きが重い感じがあった。その中でも、一人だけ運動量の質・量ともに違ったのがミリガン。現在、アブダビ近郊のバニーヤスでプレーする彼は、この暑さにも慣れており、まったくその影響が見えないほどピッチ上で動き回った。

 それでも豪州はポゼッションで圧倒。ムーイの強烈なボレーがゴールポストを叩くなど、決定的なチャンスを幾つも作りながらなかなかゴールを割れない。そのような状況下で、大きな意味を持ったのがベンチに控える「ジョーカー」の存在。試合を見守る誰もが、いつそのカードが切られるのかに注目していた。千両役者にとっては願ったりかなったりの展開だった。

 迎えた71分、満を持してケーヒルが投入される。そのファーストタッチで左SBスミスからの絶妙なクロスに合わせ、値千金のゴールを決めた。まさに千両役者の面目躍如で、試合を決めた。

 豪州にとってこの2試合での収穫は、ここまで触れたケーヒルの起用法とミリガンというユーティリティプレーヤーの戦術的有効性の高さを改めて認識できたことだ。

グループの行方を大きく左右する日豪戦は豪州優位か

 ミリガンのボランチやCBでの起用は大きなオプションになり得るだけでなく、彼の運動量とメンタリティがチームにもたらすメリットは計り知れない。これほど使い勝手の良い選手は世界でもあまり他に例を見ないのではないだろうか。31歳になり、まさに円熟の境地に入りつつあるミリガンの存在は、かつて3シーズンにわたってプレーした日本との大事な試合でも、さらに重要性を増してくるに違いない。

 単純な比較論が意味を持たないのは重々承知だが、「ホームでUAEに負けた日本」と「アウェイでUAEに勝った豪州」を比較すると、メルボルンでの日豪戦を考えるとき、正直日本は勝てるのかという気にさせられる。

 日本のベンチにはケーヒルのような高い決定力を誇る「ジョーカー」はいない。ミリガンのような熱いプレーで複数ポジションを水準以上にこなせる“究極のユーティリティ”もいない。ヴァイッド・ハリホジッチ監督には、ポスタコグルー監督のような戦術的な柔軟性があるのか…

 日本はイラクとのホームを戦ってからメルボルンでの決戦に臨む。一方の豪州は現時点でグループ首位を争うサウジアラビアと酷暑のアウェイ遠征に臨んだ後、とんぼ返りとなる。移動の負担や日程的に恵まれているのは、むしろ日本だ。それでも、今回の日豪戦、現時点での豪州優位との予想は動かないような気がする。

(取材・文:植松久隆【ブリスベン】)

フットボールチャンネル

「W杯」をもっと詳しく

「W杯」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ