米記者たちも期待する井上尚弥の“夢のシナリオ” ラスベガスで感じた日本人戦士による「凄い時代」の到来【現地発】

2024年9月21日(土)7時0分 ココカラネクスト

“巨躯”のドヘニーも寄せ付けず、圧勝した。そんな井上の敵なしの強さは米国でも轟いている。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

「イノウエの試合がまたアメリカで見られるなら楽しみだな」

 ラスベガスに集まった多くのボクシング関係者から頻繁にそう声をかけられるようになった。その事実は軽量級の最強王者・井上尚弥(大橋)の知名度の高まりを示しているのだろう。

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 ボクシング界は、毎年、メキシコ独立記念日にあたる9月16日の前後に大イベントが挙行されるのだが、今年は14日に米ラスベガス州のT-モバイルアリーナでサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)対エドガー・ベルランガ(プエルトリコ)戦をメインに据えた興行が開催された。その週は米国内のボクシングの主要関係者が一堂に会するのも通例。そこでどれだけ話題になるかは、選手のステータスを推し量る一つのバロメーターでもある。

 そうした中で、井上の名は小さくない話題となった。

 去る9月3日のテレンス・ジョン・ドヘニー(豪州)戦後、米興行大手『Top Rank』の御大でもあるボブ・アラム会長が来春に井上が久々に渡米戦を行う可能性について明言した。重鎮の放った言葉は米国内に届いており、もちろんいまだ具体化はしていないが、そんなシナリオが本当に実現すればボクシング関係者を騒がせるイベントになりそうという機運は高まっている。

「イノウエはまだ世界最高レベルの力を保っていて、次にアメリカに来て試合をしたらもっと盛り上がると思う。前回はまだ知名度が低く、ラスベガス進出時もコロナ渦もあってそこまでのイベントにはならなかった。ただ、今では多くのファン、関係者が井上の強さを認識している。渡米すればYouTube系メディアも大騒ぎするはずだ」

 そう熱っぽく語る米メディア『Fightnews.com』のミゲール・マラビジャ記者もまた“モンスター再襲来”を楽しみにする米メディアの1人だ。

 井上は2020〜21年にラスベガスで2度、2017年にカリフォルニア州カーソンで1度、渡米しての試合開催を実現させている。ただ、2017年のアントニオ・ニエベス(米国)戦はアンダーカードの一角。さらにラスベガスでのジェイソン・モロニー(豪州)戦、マイケル・ダスマリナス(フィリピン)戦は、いまだ新型コロナによるパンデミックの渦中であり、プロモーションは不十分。ゆえに井上の知名度もコアなファン限定と言える範囲であり、業界内の評価に追い付いているとは言えなかった。おかげで彼の米進出はマニアックな出来事に止まった印象だった。

 ただ、最近は毎試合がアメリカでもライブ配信されるようになり、視聴は容易になっている。リングマガジンのパウンド・フォー・パウンド(PFP)で一時1位に浮上、2階級での4団体制覇、アメリカ人の世界王者だったスティーブン・フルトンへの圧勝、東京ドーム興行の成功といった華々しい活躍もあって、日本が産んだモンスターの名は世界のボクシング界に完全に轟いた感がある。

井上が米国進出となれば、2021年9月のダスマリナス戦以来となる。(C)Getty Images

井上尚弥vs中谷潤人への期待も膨らむ

「アメリカで試合するとなれば、Top Rankは適切な相手を選ばなければならない。マニー・パッキャオがメキシコのレジェンドたちと戦って名を挙げたように、メキシカンが望ましい。そのためにはフェザー級に上げる方がベターだけど、スーパーバンタム級に残るとすれば相手探しは難しくなる。ウズベキスタン出身のムロジョン・アフマダリエフは実力があるけれど、アメリカにファンベースはないからね」

 マラビジャ記者のそんな見方通り、現階級で井上の“ダンスパートナー探し”が難しくなるのは事実だろう。

 メキシコ人のラファエル・エスピノサ、レイ・バルガス、メキシコ系アメリカ人のアンジェロ・レオ、ブランドン・フィゲロアら実力派が王座に居座るフェザー級進出後の方が魅力的な選択肢は増える。とはいえ、今の井上なら強豪と対戦であれば、どんな相手でも一定以上の盛り上がりが期待できそうではある。

 すべては仮定の話だが、MGM系列の中〜大規模の会場での興行となれば全米から多くのメディアが集まるはず。今年5月の東京ドーム決戦に続き、アメリカ再進出は井上のキャリアでもハイライトの1つとして刻まれるイベントになるに違いない。

 その先には、さらに重要なイベントも視界に入ってきている。

 昨今、米リングで高い評価を集めている日本人ボクサーは実は井上だけではない。26歳にして3階級を制し、現在はWBC世界バンタム級王者となった中谷潤人(MT)も実力を認められてきている。米老舗誌『The Ring Magazine』のPFPランキングでも9位にランクインした彼も近い将来に井上との決戦がドリームファイトの1つとして語られるようになっているのだ。

 実は中谷を「かなり前から知っていた」というマラビジャ記者も、目を輝かせながら“ネクスト・モンスター”への期待感を語ってくれた。井上対中谷は交渉が具体化しているわけではなく、あり得るとしても1年は先であるにもかかわらず、希望を隠しきれないようだった。

「私はナカタニがまだ14、15歳の時にアメリカでのアマチュアの試合を観たことがあって、その当時から感心させられてきた。名トレーナーのルディ・ヘルナンデスがセコンドについているのを見て、それだけの選手だなと思ったものだ。

 ナカタニはイノウエよりも身長、リーチに恵まれている。彼らの試合が実現すれば面白いカードになる。日本のスーパーファイトであり、アメリカのボクシングファンの間でも注目されるに違いない。海外のメディアも日本で取材したいと感じるカードになるだろう」

 今さらながら、すごい時代が来たものだと改めて感じずにはいられない。アメリカに本拠を置くベテランライターが、日本人ボクサーの活躍を嬉々として語り、日本のエースの渡米を心の底から待望。そして日本人ボクサー同士の対戦を必見ファイトとして認識しているのだ。

 実際、言葉だけではなく、井上対中谷戦が成立するようなことがあれば、少なくない海外記者が現場取材を果たそうとするはずだ。筆者も心を揺さぶられるクライマックスの訪れを願いつつ、激動となりそうな今後1年間の日本人ボクサーたちの活躍を楽しみに見守っていきたいところだ。

[取材・文:杉浦大介]

ココカラネクスト

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