まだまだわからないチャンピオン争いの行方。ヤマハV4エンジン投入の可能性は?/MotoGPの御意見番に聞くエミリア・ロマーニャGP

2024年9月26日(木)13時18分 AUTOSPORT web

 9月20日から9月22日、2024年MotoGP第14戦エミリア・ロマーニャGPが行われました。サンマリノGPから2週間後、ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリでの連戦は、スプリントでは、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が勝利。決勝ではエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ・レノボ・チーム)が地元で意地をみせ、ドゥカティのMotoGP100勝目となる記念すべき勝利を獲得しました。


 ここから8週間で6戦の終盤戦を迎える2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第39回目となります。


* * * * * *


–いやはや、今回のレースも別な意味でエキサイティングでしたね。まさかあそこで(フランセスコ・)バニャイア選手がクラッシュするとは思いませんでした……。


 プラクティス、Q2、スプリントとトップで来たから調子は良かったと思うんだよね。ドゥカティのMotoGPクラス100勝目、自身の100戦目という節目の記録が絡んでいたので余計な力がはいってしまったのかな。


 とは言っても、本人が言っているように明らかにリヤタイヤが何かがおかしくて前半はタイムが出せず、リヤのグリップが戻ってタイムが上がって来たところで今度はブレーキングでリヤが浮いて接地した直後にフロントがグリップを失ってしまった。


 特別強いブレーキングにも見えなかったし、本人としては納得いかないだろうね。これでチャンピオンシップの行方もわからなくなってきたね、残り6戦を少ないと考えるか多いと考えるかにもよるけどさ。

ハイペースで前の2台を追いかけるもクラッシュを喫したフランセスコ・バニャイア


–確かに最大で222ポイント有るわけですから、今回のようなケースが(ホルへ・)マルティン選手にも起こり得るわけですし、まだまだ先の事はわかりませんね。


 昨シーズンのアジアラウンドの成績を振り返ると、大きな取りこぼしがあるけれどポイント獲得数ではマルティン選手がバニャイア選手を上回っているんだね。今シーズンはその大きな取りこぼしの部分を修正してきているから、バニャイア選手としてはコンスタントに表彰台獲得だけでは逆転は難しいのかもしれないよ。


 それとアジアラウンドは天候が不安定だから、前回のサンマリノGPみたいな展開になると、ふたりだけの闘いという構図ではなくなりそうで怖いね(笑)。


–(マルク・)マルケス選手ですね。弟君もそうでしたけど、今回はそんなに目立つ存在ではなかった。FP1はさすがの一番時計でしたけど、Q2での転倒が響いたんですかね。今回は4位狙い、みたいなちょっと弱気なコメントもしていましたけど……。


 やっばりスプリントの結果を突きつけられると、現在のトップ3の連中との差は歴然なので雨でも降らない限り勝ち目はないという事を認めたようだね。トップ3は最新型に乗ってるからという言い訳もあるので、それほどプライドは傷つかないだろうしね。


 それでも欲をかかずに4位狙いで走行していたら、血気盛んな若造君は早々に自滅して狙い通りに4位に繰り上がり。よしよし今日は目標達成と思っていたらバニャイア選手のクラッシュで3位表彰台獲得とか、やっぱり「持っている」のは間違いないね(笑)。

3位表彰台を獲得したマルク・マルケス


–という事は、次のアジアラウンドではチャンピオン争いに与える影響が大きそうですね。ひよっとしてチャンピオン争いに加わる可能性もありですかね?


 それは今回優勝した(エネア・)バスティアニーニ選手も含めて可能性は0ではないよね。なにしろまだ222ポイントも取り代が有るわけだから。


–最終ラップのバスティアニーニ選手のオーバーテイクは軽く接触もあったのでちょっとヒヤッとしましたが、やはり地元で勝ちたいという思いが強かったという事でしょうか?


 地元も地元、Riminiの出身だからミサノサーキットは自分の庭みたいなもんだろ。そこで「スペイン人に負けるわけにはいかない」と思ったかどうかは知らないけれど、マルティン選手がしっかりインを閉じなかったから本能的に飛び込んだって感じかな。


 古い話になるけど2005年の開幕戦、あれはスペインのへレスサーキットだったかな。(バレンティーノ・)ロッシ選手が最終ラップの最終コーナーで(セテ・)ジベルノ選手のインに強引に飛び込んだ結果、ジベルノ選手がコースアウトして勝負が決まったのを思い出したよ。その時も接触はしていたけどお咎めは無しだったね。まぁロッシ選手だからって忖度が有ったのかもしれないど(笑)。

マルティンの隙を狙うエネア・バスティアニーニ


–結果的にエースライダーがリタイアしてもセカンドライダーが優勝するという、ドゥカティファクトリーとしては理想的な結果になったわけですけど、こんな凄いライダーを手放すのはつくづくもったいないと思いますよね。


 それについてはまったく同感だね。イタリア人同士と言うことでバニャイア選手ともうまくやっているようだし、今回も結果的にマルティン選手のポイントを少し削ってバニャイア選手をサポートして、ドゥカティファクトリーの面子も保ってくれたしね。


 まぁ今更言ってもしかたないけれど、今回のレースの1、2位が揃って他メーカーに移籍するのは、結果的に有力ライダーが分散されてレースは面白くなるとしても、ちょっと釈然としない部分は有るね。


勝利の雄叫びを上げるエネア・バスティアニーニ

–ところでF1の世界では、あれほど無敵を誇っていたレッドブルがこのところまったく優勝から遠ざかっていますが、MotoGPでは他の欧州勢の勢いが減速している中で、ドゥカティの一強体制が更に強固になって来たような気がします。近い将来にはF1のような下剋上が起きる可能性はあるんでしょうか?


 たしかにアプリリアにしてもKTMにしてもそういう感じは否めないけれど、現実的な話としてドゥカティのマシンの完成度と、それを操る8人のライダーのレベルを考えると、それらに割って入るのはそもそも厳しいんだよね。言い換えるとその8人の好・不調の結果次第で他のライダーの成績も影響を受けるってことじゃないのかな。


 コンセッションルールによると、ドゥカティと他の欧州メーカーの差はテストに使うタイヤ本数と、ワイルドカード参戦数位だからシーズン中の開発でそれほど差が付くとは考えにくいんだよね。いずれにせよ、2027年に向けてエンジン仕様は凍結される方向なので、コンセッションA〜Cランクのメーカーはエンジン開発が出来ないわけで、そう考えると下剋上は必然的にDランクのホンダとヤマハから起きるんじゃないかと思うよ。


–そういえば、パドックではヤマハがV4エンジンの開発に着手したという話でもちきりですが、来シーズンに投入してくる可能性はあるんでしょうか?


 YMRのリン・ジャービスがオフィシャルにコメントしているからホントなんだろうね。僕的には「やっとかい!?」って感じなんだけど……。それにしても20年間もクロスプレーン一筋でよく頑張って来たよねって、褒めてあげたいところでもあって複雑な心境なんだよ(笑)。


–(ファビオ・)クアルタラロ選手はそれに対して、「ホンダもV4使っているし……」みたいな、わりと醒めたコメントしてますね。
 
 確かにそれも事実なんだよねえ。現時点でトップに君臨するドゥカティと下位に低迷するホンダのエンジンを比較すると、仕様的には殆ど同じなんだよ。


 まずロス馬力が増えるのに敢えて逆回転クランクを採用しているし、おそらく位相クランクシャフトでいわゆる「位相同爆」にしているところも基本的には同じ。


 大きな違いは動弁系で、ドゥカティがデスモドロミックでホンダがニューマチックを採用しているね。ここは性能面では差が出るところかもしれないけれど、どちらにしてもカムでバルブを動かしている限りは物理的な制約があって、あまり極端な仕様ではバルブの負荷が厳しいから自ずと似たようなリフト量とプロファイルに落ち着くんじゃないかな。


–でもクロスプレーンクランクの直4エンジンに対してはアドバンテージが有るんじゃないですか?


 たしかにヤマハのクロスプレーン直4は不等間隔爆発にしているけれど、4気筒の内の2気筒だけを近接させただけなので、V4のようないわゆる「位相同爆」的な狙いとは根本的に異なるんだよ。


 そもそもクロスプレーン直4の売りは不等間隔爆発にした結果としてエンジンの往復部分で発生する慣性トルクが殆ど0という雑味の無い駆動力が得られるところにあるんだ。ところが爆発間隔の選択に関しては自由度が無いから、V4のような位相クランクによる「位相同爆」がもたらすトラクションの違いについては検証すら出来ないんだよ。


–なるほど、それで今からV4エンジンをトライしてメリット・デメリットをしっかり確認してから2027年のダウンサイジングに対応しようという事ですね。素人考えですけど、1000ccから850ccに変更するのってストロークを変えるだけで出来そうな感じですよね。高回転化するんでしょうけど、かつては800ccの時代も有ったわけだしその点は大丈夫ですよね。


 それがそんなに簡単では無いんだよね。少し難しい話になるけれど、ショートストロークになるといわゆる「タンブル」というシリンダ内の混合器の縦方向の旋回が弱くなるので燃料の霧化が悪くなる。その結果1000ccで最適化されたポート形状では性能が出ない可能性があるんだよ。


 場合によっては更にバルブ挟み角を変更して吸気ポートを立てる必要があるし、それに伴って燃焼室の形状も変わって来るしで最適解を見つけるのは結構大変なんだよ。


–そうだったんですね。でも最近のクアルタラロ選手はかなり好調なので、ひょっとしたらこのまま直4エンジンでも勝てるようになるんじゃないかと思ってしまいますが……。


 おそらくエンジン仕様もいろいろ試したと思うんだけれど、結局のところパワーを出してくるとアグレッシブになって乗りにくいから、現時点では乗りやすいエンジンを使っている。直4エンジンで実現しないパワーと乗りやすさの両立の鍵はV4エンジンの「位相同爆」に有るような気がするんだけどね。


 この2戦でまあまあ良い結果が出ているのは、乗りやすいエンジン仕様でとにかくテストとレースで長い距離を走り込んでいる成果だと思うね。昔からヤマハのマシンはセットアップが決まれば速いけど、そこまでにかなり手間暇かかるという感じなんだよね。


 まあ来週からフライアウェイのアジアラウンドが始まるから、マシンの改善が進んだのか乗り込みの成果なのかはわかるんじゃないかな。


–それにしても今シーズン最高位の5位が目前だったのにガス欠とは、不運と言うかなんとも掛ける言葉も無いって感じですよね。


 ミサノは海に近いから気圧も高くて燃費が厳しいサーキットではあるんだよ。とは言っても燃料噴射はかなり正確にガソリンの消費量をカウントできるから、最低ガス欠は回避できるような制御が入っているはずなんだけどね。


 それでもガス欠したとすると根本的に燃費が悪いという事だな。性能も燃費もとなるとこりゃ開発は大変だね。

ゴール直前で燃料切れも7位フィニッシュを果たしたファビオ・クアルタラロ


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