【レースフォーカス】序盤に攻めたクアルタラロとミル&リンスが最終周に刻んだラップタイム/MotoGP第9戦

2020年9月29日(火)9時10分 AUTOSPORT web

 9月の3連戦の最後のレースとして行われたMotoGP第9戦カタルーニャGPは、タイヤマネジメントがひとつのキーポイントとなるレースだった。表彰台を獲得したトップ3ライダーから苦戦、転倒を喫したライダーまで、決勝レースを振り返る。


■スズキの追い上げに、クアルタラロ「もしレースが25周だったら……」


 9月にスケジュールされていた3連戦最後のレースとして、第9戦カタルーニャGPは行われた。初日に吹いた強風は土曜日以降におさまったが、低い気温と路面温度は日曜日までライダーを悩ませた。例年、カタルーニャGPは6月上旬から中旬に開催される。2020年シーズンは新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりレースカレンダーが大幅に変更され、カタルーニャGPは9月25日から27日にかけて行われた。


 例年から3カ月遅れでの開催は、気温と路面温度の変化をもたらした。2015年から2019年までの決勝日の平均は、気温28.2度、路面温度49.4度。それが今大会は週末を通して例年よりそれぞれ10度以上も低く、ライダーたちはグリップ不足やタイヤの暖めなどに苦戦。前週にエミリア・ロマーニャGPが行われたミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリは路面改修によりハイグリップだったため、特に初日は、異なった路面状況も影響したようだ。


 決勝レースではタイヤ選択が注目されたが、この日は気温17度、路面温度20度と、週末を通じて同じ時間帯としては最も低い気温、路面温度となる。22名中17名のライダーがフロント、リヤともにソフトタイヤを選んだ。優勝、表彰台を獲得したファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)はともに前後ソフトタイヤである。


 こうした状況のなか、ソフトタイヤのマネジメントと終盤のペースがレースを決定したと言える。優勝したクアルタラロは、9周目にトップに立つと、後方の転倒もあり、終盤には独走態勢を築いた。レース中盤の15周目まで、クアルタラロは1分40秒台のラップタイムを刻む。これは5位までにフィニッシュしたライダーのなかでは随一の安定感だ。ただ、クアルタラロはこのペースに、レース終盤の厳しさを予感していたという。


「レース終盤にはどうタイヤが落ちるのか、1周目にわかっていたから、自分が(9周目にファステストラップの)1分40秒1をマークしたとき、このタイムは1周のことで、レース終盤には厳しくなるだろうと思った」


 クアルタラロの予想通り、そのペースは16周ごろから落ち始め、残り2周は1分43秒台で周回。


「最終ラップでは、全力を尽くしたよ。それでも1分43秒2だったけれど、ジョアンに1秒以内の差でフィニッシュできた。本当にタイヤのフィーリングをつかむのが難しいレースだった。特に、左側がね。レースを通して、(左コーナーの)2コーナーでは感覚を得られなかった」


 レースの半分以上でトップを走行し、2020年シーズン3勝目を挙げたクアルタラロに対し、レース後半に躍進したのがチーム・スズキ・エクスターのふたり。スズキが2015年、MotoGPクラスに復帰して以来初めて、ふたりのライダーがそろって表彰台に立った。


 2位フィニッシュを果たし、3戦連続、今季4度目の表彰台獲得となったミルは、予選後にユーズドタイヤでのフィーリングがいいと語り「終盤の10周はみんな厳しいと思うよ。でも、僕はなんとかできると思う」とコメントしていた。そして決勝レースは、ミルの予想した展開になったようだ。


 8番グリッドからスタートし、レース中盤までは5番手を走行。16周目で3番手、残り2周で2番手に浮上した。ラップタイムを確認してみると、この16周目あたりから、クアルタラロやこのとき2番手につけていたフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)のタイムが落ち始めている。ミルも同様だったが、その落ち幅が小さかった。


「レース終盤には41秒後半から42秒で走れるとわかっていた。速くはなかったけれどね。たぶん、レース終盤にはみんな苦戦するとわかっていたんだ。多かれ少なかれ、期待したレースにはなった」と、ミルは最終的にクアルタラロと1秒以内の差でフィニッシュした決勝レースを振り返った。


 ミルよりもポジションを上げたのが3位のリンスである。リンスは13番グリッドからスタートして1周目で6番手にポジションアップ。残り2周でモルビデリを交わし、2020年シーズン初表彰台となる3位でフィニッシュした。


 後方からスタートしたリンスの場合、「カギになったのはいいスタートだった」という。


「1周目にポジションをたくさん上げ、そこからレース終盤までにタイヤをマネジメントして、前にいるライダー、つまりジョアンに対してタイムを詰めようとした。(ポル・)エスパルガロと争っているとき、少しタイムをロスしてしまったと思う。でも、僕は自分の考えをはっきりさせてミスしないようにしていた。ここモンメロでは、10コーナーで簡単に転んでしまうから。リズムをつくり、タイヤをマネジメントしたよ」


 追い上げのレース展開だったにもかかわらず、チーム・スズキ・エクスターのふたりが最終ラップで刻んだのは、クアルタラロのそれよりも約0.7秒から1秒速いラップタイム。決勝会見でクアルタラロが「(24周のレースが)25周だったら、彼ら(スズキライダー)にオーバーテイクされていたと思う」と語るほどだった。


■4位のモルビデリは悲喜こもごも


 第9戦カタルーニャGPでは、予選でヤマハ勢がトップ3を占め、フロントロウを独占した。そのひとりがモルビデリだ。予選では最高峰クラスで初となるポールポジションを獲得。決勝レースではホールショット奪って8周目までレースをリード。しかし、残り2周でミル、そして13番グリッドから追い上げたリンスに交わされ、4位でフィニッシュした。


「4位には怒っている」とモルビデリはレース後の取材で切り出した。「素晴らしいスタートを切ったのだけど、たぶん攻めすぎた。タイヤが厳しくて、ファビオが後ろについたとき、僕は戦えなかった」


 さらに、14周目にはあわやクラッシュという場面もあったという。


「ファビオの後ろにつくとストレートで僕は少し遅れてしまい、彼をとらえるのにはブレーキングでリスクを冒さないといけなかった。そして、ミスをしてしまった。ほとんど彼にぶつかりそうになり、まっすぐにいかざるをえなかった。それで2秒はロスをしてしまったよ。これで表彰台を逃したのだと思う。このミスに怒っている」


 モルビデリは、タイヤマネジメントについて考えなかったという。「ストレートでパワーがあればタイヤをマネジメントできるけれど、そこは僕たちの弱点なんだ。レース終盤にはドゥカティライダーよりも22km/h遅かった。だから作戦を立てられず、ただスタートから全力を尽くした」


「でも、僕たちのパッケージではこれが最善の作戦だったと思うんだ」と語るモルビデリ。確かに、モルビデリのラップタイムは、落ちるタイミングもクアルタラロとほぼ変わらないものだった。


 一方で、モルビデリは初のポールポジションを獲得したカタルーニャGPに「この週末全体としては、満足している」とも語った。悲喜こもごもの週末となったようだ。


■ロッシ転倒の要因はスズキのプレッシャー? ビニャーレス苦戦の理由は


 ヤマハライダーのなかでもモンスターエナジー・ヤマハMotoGPにとっては、厳しいレースだった。バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は、この第9戦カタルーニャGPで、2021年シーズンはペトロナス・ヤマハSRTから参戦することを正式に発表。迎えた予選では3番手タイムを記録し、今季初のフロントロウを獲得した。


 決勝レースでは序盤に2番手を走行し、クアルタラロに交わされて3番手に後退するも、再び2番手に浮上。転倒を喫したのは、その2周後、16周目の2コーナー。フロントタイヤの左側の温度が低いとコメントされている今大会では、この2コーナーと5コーナーでの転倒が多発していた。


 いいスタートを切り、タイヤを労わりながら周回を重ねていたというロッシ。しかし、ロッシはモルビデリを交わし2番手に浮上した14周あたりから攻め始めたという。それにはふたつの要因があった。ひとつは、トップを走るクアルタラロから離されたくなかった、ということ。そして、もうひとつは「ドゥカティや、特にスズキがレース終盤で速いバイクだということを僕は知っていたから。そして、彼らがそう遠くない位置にいることもわかっていたんだ」。


 そろって表彰台を獲得したスズキは、クアルタラロのみならず、ロッシにもプレッシャーを与えていたのかもしれない。


 そしてもうひとりのヤマハファクトリーライダー、マーベリック・ビニャーレスは、前戦の今季初優勝から一転、対照的な結果となった。5番グリッドスタートのビニャーレスだったが、スタートで大きくポジションダウン。これが響き、9位でレースを終えることになったのだ。


 ビニャーレスはカタルーニャGPの週末で、フロントがロックしてしまうという問題を抱え、その解決に取り組んでいたという。その問題は解決したが、別の新たな問題が浮上。いろいろなものを試すうちに「方向性を見失った」と語る。


 しかし、ビニャーレスはなによりの問題がスタートにあると考えている。ビニャーレスによれば、スタートでヤマハYZR-M1は「いつものように」4速、5速でパワーがなかったという。


「例えば、(1コーナーまでに)ミサノではギヤを1速、2速、3速まで上げる。でも、ここでは僕たちは5速まで上げる。これが違いだと思う。他のバイクは3速、4速、5速で、もっとポテンシャルがある」


 1周目の序盤で15番手にまでポジションを落としたビニャーレスは、その後、約15周にわたってアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)やカル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)の後ろで周回を重ねた。オーバーテイクができなかった、とビニャーレスは語る。


「ひとりで走っているとき、ラップタイムはいい。けれど、誰かの後ろにつくと、もうオーバーテイクできないんだ」


「もし最前列からスタートできれば、今日はまったく違った結果になっていただろうね。レースの後半では、僕はいつもとても強いから。タイヤには何も問題はないよ。でもこのバイクではいいスタートを切れないと、ポジションを守るのが難しくなってしまうんだ」


 9位フィニッシュにより、チャンピオンシップのポイントランキングは3番手で変わらないものの、トップのクアルタラロとは18ポイント差に開いた。残り6戦、安定した結果のために解決の糸口を見つけたい。


■中上、7位フィニッシュは「ものすごく残念」


 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)も、第9戦カタルーニャGPを失意のうちに終えたライダーのひとりだった。中上は11番グリッドからスタートして7位でフィニッシュ。しかし、自身としては最上の結果を期待していた。


 中上もほとんどのライダー同様にフロント、リヤともにソフトタイヤを選択。レース序盤は1分41秒台のタイムを刻んだ。上位を走るライダーの1分40秒台と比較すると、このラップタイムは速いとは言えない。しかし終盤に入ると、そのペース、特に最終ラップのタイムは、表彰台を獲得したミルやリンスとそん色ないもの。だからこそ、7位フィニッシュは満足のいく結果ではなかった。


「レース序盤、ブレーキングで強くいけませんでした。おそらくですが、タイヤをセーブしすぎたのかもしれません。それで、ポジションを落とし、差を広げてしまいました。でもそのあと、僕はとても速かったんです」


「ラップタイムをキープしていたら、いい結果が獲得できると思っていたんです。レース終盤には、僕は間違いなく最速のライダーでしたし、まだリヤタイヤにはグリップが残っていました。レース序盤にちゃんとマネジメントしていましたから」


 レース終盤にはダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ・チーム)やフランセスコ・バニャイア(プラマック・レーシング)に接近。しかし、ドゥカティライダーをオーバーテイクするのにも苦戦した。


「コーナー中間では僕はとても速いのですが、ドゥカティライダーがそこで少し遅く、僕の加速が鈍ってしまうんです。オーバーテイクできませんでした」


「7位はものすごく残念です。このレースは、優勝のチャンスがあると思っていました。どれほどがっかりしているのか、説明できません」


 無念のレースとなった中上。裏を返せば「優勝」を口にするほど手ごたえを感じていた週末だったということだ。次戦以降に期待が膨らむ。

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