チームオーダーで混乱、後手の対応で掴みかけていた勝利を取りこぼしたフェラーリ【今宮純のF1ロシアGP分析】

2019年10月1日(火)17時27分 AUTOSPORT web

 2019年F1第16戦ロシアGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが逆転優勝を果たした。一方で優勢と思われたフェラーリはシャルル・ルクレール3位、セバスチャン・ベッテルはリタイアという結果に。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のロシアGPを振り返る。


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2019年F1第16戦ロシアGP決勝スタートシーン


 ロシアGPはフェラーリにとってまるで坂道を滑り落ちていくようなレースだった。4戦連続ポールシッターのルクレールだが、終わってみれば表彰台の片隅でひとりで立っていた。ほぼレース半分の25周をリードしたベッテルは15コーナーで消えた。


 3連勝中だったフェラーリの『負けパターン』。後手にまわった戦略やパワーユニット(PU/エンジン)に起きたトラブル、飛び交う無線の“混乱”……。うまうまとメルセデスは予選2番手と5番手から今季8度目の1-2フィニッシュ、16戦での達成率はじつに50%(!)。これこそ地力の証と言える『勝ちパターン』、コンストラクターズV6に王手をかけた——。


 スタートシグナルがやや長めに感じられた。15番グリッドのライコネンが明らかな“フライング”をしていたが、そのまま正規スタート手順で進行。最もいいダッシュを見せたのは5番手カルロス・サインツJr.(マクラーレン)だ。2番手ハミルトンは左側から来る彼を警戒しつつ、3番手ベッテルのトーイングには入れない。こうした動きはPPルクレールには見えていなかったのだろう。


 左サイドから彼は遅いブレーキングで、スペースをベッテルのために空けたまま2コーナーへ。ハミルトンは切れ込めず3番手に下がり、ベッテルを行かせたルクレールは2番手だ。彼は事前の“ミーティング”でベッテルのアシスト役を了解、それをこなした(つもりでいた)。


 4コーナーでダニエル・リカルド(ルノー)、アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)、ロマン・グロージャン(ハース)の3台が接触事故を起こしすぐにセーフティカーが導入される。これでは譲ったルクレールとトップを走るベッテルの間で“順位戻し”はできない。


 3周目にリスタート、ここからベッテルはベストラップを連続し、ルクレールに順位を譲るよう指示するチーム側からの無線にネガティブな反応をつづけた。10周目には2.726秒、15周目には3.659秒、20周目には4.387秒のリード。


 飛ばすベッテル、疑心が広がるルクレール。対する3番手ハミルトンは様子をうかがいつつ3秒圏内でフォロー。もし先頭ベッテルがルクレールに譲るために徐行したなら、前2台に襲いかかれるギャップである。このハミルトンの追跡、フォローペースはしたたかだ。


 ベッテルの背後にいたルクレールはソフトタイヤが過熱症状となり、22周目にミディアムタイヤへ交換(静止時間2.5秒)。ベッテルに対して“アンダーカット”にはなるがここからあと30周以上は長すぎる。フェラーリ側はこれで順位入れ替え(オーダー処理)をしたわけだが、ややリスキーな判断だった……。


■メルセデス逆転のきっかけとなったベッテルのトラブル


 すると首位ベッテルもペースがしだいにダウン(0.5秒以上)。序盤に逃げようとしたツケがまわり、26周目にピットへ(静止時間3.0秒)。ルクレールの後方となった彼だがパワーユニットにMGU—K(運動エネルギー回生システム)の異常データが確認された。


 ピットまで戻れるか、直ちにストップさせるか——。緊急判断は27周目、「15コーナーで避難路に停止せよ」、ピットまであと100mでもそうせざるを得なかった、とマッティア・ビノット代表は語っている。ハイブリッドPUの高圧電流系トラブルの恐れがあり、ベッテルはガードレール奥まで行かずに止め、コクピットから飛び降りるほかなかった。コース脇に停車されたままなので15時01分にバーチャルセーフティカー(VSC)発動——。


 待っていたとばかりにメルセデス軍団が動く。ここまでミディアムでステイアウトさせてきたのはVSCやSC導入チャンスをうかがっていたから。その絶好機をフェラーリからもらったのだ。


 VSC中の28周目、首位ハミルトン(静止時間2.6秒)、2番手ボッタス(静止時間2.5秒)がダブルストップを実行。クルーメンバーたちは正確にソフトへの交換をこなした。ピットストップ後ハミルトンは首位を維持、ボッタスは3番手となった。こうなるとルクレールは“1対2”の終盤スプリントレースに。


 さらに15時04分、ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)の事故によりSC導入だ。31周目、ミディアムを履いていたルクレールは2度目のピットインで同じメルセデス勢と同じソフトへ交換(静止時間2.5秒)、3番手に下がるが他に選択肢はない——。


 SC導入が解除された32周目にリスタート。1番手ハミルトン〜2番手ボッタス〜3番手ルクレール、ここからいい仕事をしたのがボッタスである。35周目と39周目にはDRS圏内に接近されるが、しのいだ。そしてその後も1秒以上のギャップを固くに守りぬく。


 ハミルトン護衛兵の役割を果たし、彼自身6度目の2位で“1-2”をまっとうしたボッタス。テニスの最強ダブルス・コンビのようにふるまった終盤の20ラップ、メルセデスペアの強さとチーム・オーガナイズの組織力を思い知った。いよいよ<コンストラクターズV6>へカウントダウン——。

2019年F1第16戦ロシアGP ポールポジションから3位表彰台となったシャルル・ルクレール

2019年F1第16戦ロシアGP ワンツー達成で祝福し合うルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタス(メルセデス)


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