湘南が見せた新たな可変守備。J1残留への武器となるか【試合分析】

2022年10月2日(日)18時0分 FOOTBALL TRIBE

池田昌生(左)ジェアン・パトリッキ(右)写真:Getty Images

明治安田生命J1リーグの第31節が10月1日に行われ、セレッソ大阪と湘南ベルマーレが対戦。後半アディショナルタイム2分にFWジェアン・パトリッキがPKを成功させ、C大阪が先制したものの、同5分に湘南のFW阿部浩之がフリーキックから相手のFW加藤陸次樹のオウンゴールを誘発。1-1の引き分けで幕引きとなっている。


J1リーグ残留に向け、貴重な勝ち点1をもぎ取った湘南(現15位)。今季のルヴァンカップ準決勝で浦和レッズを下し、2季連続の決勝進出を果たしたC大阪を相手に、いかにして接戦に持ち込んだのか。ここではこの点を分析する。




J1第31節、C大阪VS湘南のスターティングメンバー

守備隊形を使い分けた湘南


この日の湘南は、複数の守備隊形でC大阪に対抗。以前から実践している[5-3-2]の隊形による撤退守備を軸としながらも、ハイプレスをかける際には[5-2-3]に移行していた。この可変守備の要諦は、インサイドハーフの平岡大陽と池田昌生がボールの位置に応じて前線に上がること。


湘南の可変守備。平岡が前線に上がる形

C大阪が右サイドからビルドアップを試みた際は、左インサイドハーフの平岡が前線に上がり、阿部と瀬川祐輔の2トップを含む計3人でハイプレスを敢行。相手の左サイドからのビルドアップに対しては、右インサイドハーフの池田が前線に上がって守備を行っていた。


湘南の可変守備。池田が前線に上がる形

ショートカウンターによる決定機を数多く作るには至らなかったものの、[5-3-2]と[5-2-3]の2つの守備隊形を使い分け、C大阪の攻撃をサイドからに限定することには成功している。特に前半は相手の2ボランチ(鈴木徳真と奥埜博亮)や、マテイ・ヨニッチと鳥海晃司の2センターバックに余裕のある配球をさせなかった。


前線に3人が並ぶ布陣のため、ハイプレスでボールを奪えればショートカウンターに移行しやすい。相手のボランチが最終ラインに降りて変則3バックを形成した際も、敵陣の深いところで3対3の数的同数を作りながらハイプレスを行える。そのうえ5バックであれば、4バックでは埋めにくいセンターバックとサイドのDFの間や、ハーフスペース(ピッチを縦に5分割した際の、ペナルティエリアの両脇を含む左右の内側のレーン)をケアしやすい。これらが[5-2-3]の強みであり、この日の湘南からは、それぞれの守備隊形のメリットを最大限に活かそうという意図が窺えた。


湘南ベルマーレ 山口智監督 写真:Getty Images

チョウ・キジェ元監督時代(2012-2019)にも、[5-2-3]とよく似た[3-4-2-1]を基本布陣として採り入れていたが、自陣撤退時に[5-4-1]になることが多く、ボールを奪えてもカウンターに繋がらない試合も少なくなかった。


チョウ監督退任以降は浮嶋敏前監督や山口智現監督のもとで、[5-3-2]の布陣が定着。今後も練度を高める必要があるとはいえ、リーグ戦で上位につけるC大阪を相手に概ね機能した[5-3-2]と[5-2-3]の可変守備は、湘南にとって武器となるはずだ。


湘南ベルマーレ MF池田昌生 写真:Getty Images

C大阪戦で見えた、湘南の今後の課題


湘南が今後突き詰めるべきは、[5-2-3]の隊形によるハイプレスの際に、相手のサイドバックへのチェイシングを怠らないことだろう。


前半43分15秒以降のC大阪の攻撃で、同クラブの右サイドバック松田陸がタッチライン際でボールを受けたが、この瞬間同選手に対して平岡や左ウイングバックの中野嘉大がアプローチできていない。松田が余裕を持って敵陣へロングパスを送ると、このボールを受けた上門知樹が右サイドからクロスを供給。上門のクロスボールが湘南のDF岡本拓也に当たり、ゴールの中へ吸い込まれている。上門のオフサイドの反則により得点は認められなかったが、湘南にとっては大ピンチだった。


また、左右のインサイドハーフが前線と中盤を行き来する可変守備のため、このポジションを務める選手には膨大な運動量が求められる。C大阪戦で先発した池田が後半17分、同23分には平岡がピッチを退いている。山口監督が5人の交代枠を活かし、インサイドハーフの守備の強度を維持できるか。シーズン最終盤では、同監督のベンチワークの重要性がより増すだろう。




湘南ベルマーレ FW瀬川祐輔 写真:Getty Images

今後増やしたい攻撃パターンは


今節は阿部のフリーキックによる1得点に留まったものの、湘南の自陣後方からのパスワークにもポジティブな変化が見られた。


前半9分40秒からの攻撃シーンでは、右のハーフスペースに立っていた池田がセンターバックの山本脩斗からの縦パスを受け、右サイドへ配球。その後C大阪の選手にボールを奪われかけたが、阿部、平岡、中野の順でパスが繋がり、最終的に瀬川がペナルティアーク内でミドルシュートを放っている。瀬川のシュートはヨニッチに当たってしまったが、パスワークでC大阪のプレッシングを掻い潜ることはできていた。


相手の[4-4-2]の守備隊形が横に広がったのを見逃さなかった山本と池田。今季序盤の湘南はビルドアップ時のインサイドハーフのサポートが乏しく、パスワークがままならない場面が散見されたが、前述のシーンでは相手の左サイドハーフ為田大貴とFW上門の間から池田が顔を出し、山本からのパスを引き出せている。湘南のビルドアップの上達が窺えた場面だった。


J2リーグ自動降格圏(17位ガンバ大阪)との勝ち点差が「2」と、厳しい状況に置かれている湘南だが、今季序盤と比べて攻守のバリエーションは増えている。リーグ戦残り4試合で、これまで積み上げてきた戦術を体現できるかに注目だ。

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