【トムス東條エンジニア特別寄稿】把握できたDTMトップとの差、グリップを引き出す努力が必要《DTM×スーパーGTインサイド2》

2019年10月6日(日)14時3分 AUTOSPORT web

 史上初となる、DTM第9戦ホッケンハイムのシリーズ戦に参戦するスーパーGT500クラスのマシン。初めてのサーキットに経験のほとんどないタイヤの習熟。チームはどのようにメニューを進め、そして対応していくのか。日本を代表するレースエンジニアのひとりでもあるLEXUS TEAM TOM’Sの東條力エンジニアが現場からお伝えします。2回目はいよいよ予選、決勝を1デイで行うレース1の土曜日。LEXUS TEAM TOM’Sはどのように戦ったのでしょうか。


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土曜日レース1,QFの直前まで雨でしたが、予選が始まるころには薄日が差し込んできました。予選開始時の路面は完全なウェット。気温は14℃、路面の水温は13℃。


今日は平川亮がドライブして、20分間の予選⇒レースを戦いました。平川選手にとって、ハンコックのレインタイヤはこれが初トライとなることから、安全策をとって20分間で1セットのウェットタイヤを使用し、習熟からアタックまでを行う計画を建てました。


ウェット状態から徐々に水がひき始めましたが、予選終了までウェット路面に変わりはありませんでした。上位勢のほとんどがアウトラップから全力でアタックを2〜3ラップ行い、途中で2セット目のウェットタイヤへ交換して、さらにタイムアップを目指す正攻法の戦略。


ポールポジションはアウディのレネ・ラスト選手でタイムは1分45秒552, 次いでBMWのウィットマン選手が1分45秒679と続きました。NSXのジェンソン・バトン選手は、セッション中間でタイヤを替えずにタイヤプレッシャーを下げる調整(想像です)を行いベストタイムを更新。1分46秒206と6番手を確保しています。


LEXUS平川選手は計画通り慎重に進めて1分49秒181で20位、GT-Rの松田次生選手が1分49秒349と続きました。


決勝はドライで行われました。気温15℃、路面温度は16℃。平川選手は最後列スタートということや、一昨日のドライでのロングランの感触が良かったことから、1周目にピットイン義務を果して空いているところでタイムを稼ぎ、セーフティカー(SC)出動を期待する順位挽回戦略でレースに臨みました。


序盤を計画通りに進めると、期待した通り18ラップ目にSCの出動があり、2セット目のタイヤへ交換して、再びコースへ送り出しました。このSCタイミング以前には、ほとんどのチームがピットイン義務を済ませていたことから、大幅なジャンプアップは叶いませんでしたが、フレッシュタイヤを得たことで徐々にポジションを上げ、15位で38周のレースを終えることができました。

レース1での決勝は1分32秒台のDTM上位陣と同等のタイムをマークしたトムスの平川


いよいよレース1。タイヤの内圧が厳しく指定されているDTMではセットアップでどのように対応するのかが課題に


平川選手にとって、初めてのウェット走行が予選であったため、あえてリスクを回避することとしました。レース中のベストラップは10位。ラップアベレージでも10位あたりとDTM勢と遜色なく、レース後半ではハンコックタイヤのマネジメントを学習できたことは、富士の交流戦へ向けて大きな成果でした。


なにより接触やクラッシュがなく、レースを戦い切ったことに感謝します。バトン選手はスーパーGT勢最高位の9位、松田選手はトラブル対応で18位完走となりました。


一方、レースの主役はアウディのレスト選手と、BMWのウィットマン選手。終盤まで大バトルを展開して、レスト選手が優勝しました。ともにチャンピオン同士の戦いは、フェアで見ごたえのあるものでした。


そして、彼らのレースストラテジーはオーソドックスな1ストップでした。レースタイムを比較すると、彼らはタイムの落ち込みがとても少ないことが分かりました。ハンコックタイヤの使い方に大きな差があるはずです。


心配していたレース中のタイヤのハイプレッシャーは想定通りでしたが、フロントタイヤの摩耗とリヤタイヤの摩耗バランスを見る限り、もっともっとグリップを引き出す努力が必要です。明日に向けて大きな課題が見つかりました。効果的な解決策を考えなければなりません。


明日も、予選⇒決勝のフォーマット。トムスはニック・キャシディがドライブします。応援よろしくお願いします。

ピットイン義務を1周目の終了後にこなしたLEXUS TEAM TOM’S。期待していたSCが入り2ピット作戦を敢行も、SCのタイミングが良くなかった


追記:DTMのスポーティングレギュレーションが複雑すぎて、参っています。タイヤの抽選〜マーキングや保管方法から始まり、予選中のパルクフェルメと予選後のパルクフェルメ、作業が許される項目や作業できる人数等々、まるで引っかけ問題のような細かな規則で縛っておきながら、結構、あいまいな決まりごとも多く存在していて、この規則に慣れるまで多くの練習期間が必要です。


参加されているみなさんが本当に理解しているのか疑問です。トムスのピット専属の監視員さんは、優しくて物腰の柔らかなおじさんだったのですが、規則書に書いてあることと度々相違があって、何度かレースディレクターの方へ確認することがありました。こういうのを体験すると、スーパーGTの規則書は何と良くできているのだと感心してしまいます。


富士の交流戦の時には、どのように規則を統一するのがスムーズなのか、GTAを含めて今から準備しておく必要がありそうです。

LEXUS TEAM TOM’Sの東條エンジニア(左)と小枝エンジニア(右)


グリッド上でもトムスのスタッフがハンコックのスタッフやオフィシャルたちとレギュレーションを確認する姿が見られた

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