サッカー日本代表の「サウジアラビア戦を観る権利」とは? 世界は母国のW杯予選をどう視聴しているか

10月6日(水)6時25分 Sportiva

 カタールW杯まであと約1年、世界各地で予選が佳境を迎えようとしている。自国の代表チームの結果は誰もが気にかかることだろう。

 アジア最終予選では、A、B両グループの上位2位までが出場権を獲得し、3位がプレーオフに回る。日本は現在B組4位、今後は一試合、一試合の結果が重要となってくる。だが、日本のサッカーファンは、オマーンに敗れた初戦に続く2戦目の中国戦を、いつものように気軽にテレビで観戦することはできなかった。試合が中継されたのは有料動画配信サービスのDAZNのみだったからだ。注目の第3戦、10月7日のサウジアラビア戦も、地上波での放送予定はない。これはAFC(アジアサッカー連盟)が試合のテレビ放映権を値上げしたため、民放局がアウェー戦の放映を断念したからだ。

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 かつてテレビ観戦といえば、それは地上波で視聴することを指していた。テレビとアンテナさえあれば、放送されている番組を誰でも見ることができた。だが、衛星放送、ケーブルテレビ、定額制動画配信サービス、PPVなど、映像を見る手段は多様になった。そんな中、世界のサッカーファンは母国のW杯予選をどのような手段で見ているのだろうか。


10月7日のサウジアラビア戦に向けてジッダで調整する日本代表
 結論から言うと、ほとんどの国で、W杯予選はいまもテレビの地上波で中継されている。

 たとえばイギリスでは、スポーツは公共の財産であるという意識が強い。国民が大きな関心を持っている大会については、貧富の差にかかわらず公平に視聴できなければならないという法律がある。そしてそれに基づき、無料で、それも国民の95%がアクセスできるチャンネルで放送しなければならないと明文化されている。

「国民が大きな関心を持っている大会」のリストは「クラウン・ジュエル」と呼ばれている。日本語に訳すと「王冠の宝石」。いかにも女王陛下のお膝元イギリスらしい、粋なネーミングだが、つまり、自由に試合を観ることができる権利は、王冠の宝石に等しいほどの価値があるということだろう。

 この「クラウン・ジュエル」リストにはAとBの2つのカテゴリーがある。カテゴリーA は無料放送チャンネルでの生中継を義務づけられている。オリンピック、サッカーW杯、ヨーロッパ選手権(ユーロ)、FAカップ決勝、競馬のダービー、テニスのウィンブルドン決勝、ラグビーW杯決勝などがこれにあたる。カテゴリーBは録画・ハイライトを無料で放送しなければいけないもので、クリケットのメジャー大会やゴルフの全英オープン、世界陸上などが含まれる(地上波で録画が放送され、有料放送が生中継ということはあり得る)。

 W杯のヨーロッパ予選はこの「クラウン・ジュエル」にこそ入らないが、その関心の高さは本大会にも劣らない。そのため代表戦はホーム、アウェーにかかわらずITVとITV HUB(無料ストリーミングサービス)で放送されている。ITVはイギリスで最も歴史のある民間放送局だ。ちなみに本大会は国営放送BBCとITVが2022年にまで共同で放送することで合意している。もちろんどちらも地上波のチャンネルである(BBCや日本のNHKなど公共放送の、いわゆる受信料をどう捉えるかについては、ここでは触れないことにする)。

 一方、イタリアでは1993年まで、サッカーのリーグ戦を生放送していなかった。スタジアムの観客動員数を守るためだ。そのため、試合結果を生で知るにはラジオの実況、もしくは画面にスコアの文字のみが出ているという、ちょっとありえないようなテレビ番組を見るしかなかった。

 そんなイタリアでも、代表戦だけは昔から中継を行なっていた。放送するのはずっと変わることなく国営放送のRai。イタリアもまた法律で、代表戦は無料の地上波で放送されることが義務づけられている。「国を代表するチームが戦うというのに、国民が自由に見ることができないのはおかしい」というのがその理由だ。

 セリエAやチャンオピオンズリーグなどの中継は、民間放送のメディアセットや有料のスカイスポーツ、DAZN、アマゾン・プレミアムなど、媒体が目まぐるしく変わるが、代表戦だけはRai一本。今回のW杯ヨーロッパ予選もRaiの地上波と無料ストリーミング放送のRaiPlayで見ることができる。

 法律で定められてこそいないものの、その他のヨーロッパ各国でも自国の代表戦はみな無料のチャンネルで見ることができる。スペインでは国営放送のTVEと民放のMediaset、フランスでは民放のTF1とM6、ドイツも自国の代表戦は民放シェアナンバー1のRTLで放送されている。

 これには2011年に欧州連合の欧州裁判所が下した判決の影響が大きい。この裁判は、FIFAがイギリスとベルギーで、「政府がW杯の放送を無料チャンネルで行なうよう強制している」として提訴したもの。しかし、欧州裁判所は逆に「W杯やヨーロッパ選手権など公共性の高い試合を有料放送局が独占することを、EU各国は禁じることができる」という判決を出した。強制ではないが、これは事実上、各国へ無料放送にするようにとの勧告に近い。放映権を持っているFIFAやUEFAが、その金額を吊り上げるのを抑制する目的もあった。

 南米に目を向けると、アルゼンチンでも代表戦はホーム、アウェーに関係なく地上波のTV Publicaが放送している。有料ケーブルチャンネルのTyC SportsもTV Publicaから権利を買って放映しており、「こちらのほうが画像がきれいだ」「解説者が好き」といった理由で見る者もいるが、あくまでもサブチャンネルとして、である。

 サッカー人気の高いアルゼンチンでは、かつて「フットボル・パラ・トドス(サッカーを皆に)法」なるものがあって、リーグ戦もすべて無料で放送しなければいけなかった。これは前政権の人気取り政策だったため、今ではなくなったが、代表戦に関しては現在も「視聴覚通信サービス法」という法律が残っている。ここでは「国民が大きな関心を集めるイベントに関しては、人々はそれに自由にアクセスする権利を持っている」とされている。

 一方、ブラジルでは30年間、最大手民放グローボが地上波で代表戦を放送しているが、これは法律で守られているわけではない。したがって有料放送が独占する可能性はゼロではないが、まずそれは起こらないだろうというのがブラジルのジャーナリストの見方だ。

 有料放送では視聴者が支払う登録料が収入源となる。しかしブラジルは貧しい人も多く、代表戦を有料にしたからといって、多くの人がこぞって加入する状況にはない。「近所の友人、知人が集まって、加入したたったひとつの有料放送をみんなで見ることになるのは明らか」だという。大幅な加入者増が見込めないならば、万人が見ることのできるテレビでやったほうがいい。大会スポンサーにとっても、より多くの人に見てもらうほうが望ましいだろう。

 動画の視聴方法はこれからもどんどん多様化していくはずだ。放映権ビジネスも活発になっていくだろう。だからこそ、日本も一度、スポーツ放送のあり方を真剣に考える時にきているのかもしれない。


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