継承され進化した湘南スタイル。盤石の試合運びでFC東京撃破【J1試合分析】

2022年10月9日(日)19時0分 FOOTBALL TRIBE

ディエゴ・オリヴェイラ(左)町野修斗(右)写真:Getty Images

明治安田生命J1リーグの第32節が10月8日に行われ、FC東京と湘南ベルマーレが対戦。


後半33分に、湘南の途中出場のFW阿部浩之がMF茨田陽生からのパスを受け、ペナルティアークの後方からミドルシュートを放つ。これがゴールネットに突き刺さり湘南が先制すると、同37分にも途中出場のFW町野修斗が自陣右サイドからのドリブル突破で追加点をゲット。同クラブが2-0で勝利している。


直近のJ1リーグ4試合連続で勝ち点を積み上げ、13位に浮上した湘南。ボール支配率でFC東京(現7位)に上回られながら、いかにして試合の主導権を握ったのか。まずはこの点から分析する(ボール支配率は湘南40%、FC東京60%:データサイト『SofaScore』より)。




J1第32節、FC東京VS湘南のスターティングメンバー

今節も可変守備が機能


自陣後方からのパスワークでリズムを掴もうとした基本布陣[4-1-2-3]のFC東京に対し、湘南はハイプレスで応戦。FC東京の最終ラインからアンカー東慶悟へのパスコースを、ウェリントンとタリクの2トップが絶え間なく塞いだ。


湘南は前節のセレッソ大阪戦で繰り出した[5-3-2]と[5-2-3]の2つの布陣による可変守備を、今節も継続。[5-3-2]の守備隊形で構える場面もあったが、FC東京が右のハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)からビルドアップを試みた際は、左インサイドハーフの平岡大陽が前線に飛び出してハイプレスに加勢。相手の左ハーフスペースからのビルドアップには、右インサイドハーフの池田昌生が強襲した。


湘南の可変守備。平岡が前線に上がる形

湘南の可変守備。池田が前線に上がる形

「前線から下がるのではなく、高い位置からみんなで良いバランス、良い距離感で守備ができたので、(次節も)そこは継続していきたい」


今節も3センターバックの中央を務め、的確なラインコントロールで湘南の守備を牽引したDF山本脩斗の試合後コメント(湘南ベルマーレ公式ホームページより引用)からは、手応えや自信が感じられる。同選手が振り返った通り、湘南の[5-2-3]の隊形によるハイプレスの効果は絶大で、特に前半はFC東京の攻め手がレアンドロ、ディエゴ・オリヴェイラ、渡邊凌磨の3トップへのロングボールに限られていた。


湘南ベルマーレ MF池田昌生 写真:Getty Images

フィールドを縦に5分割する5レーン理論における中央の3レーンを、湘南の2トップやMF陣が埋めながらハイプレスをかけ続けたこと。これが今節の勝因のひとつと言って差し支えないだろう。ハイラインを敷きながらFC東京の俊足3トップを相手に走り負けせず、最終ラインの背後をケアし続けた湘南の3センターバックや、石原広教と中野嘉大の両ウイングバックの奮闘も光った。


2012年から2019年シーズンの途中まで指揮を執ったチョウ・キジェ監督(現京都サンガF.C.)のもとで、縦に速い攻撃や球際での激しさを前面に出してきた湘南。「攻撃的で、走る意欲に満ち溢れた、アグレッシブで痛快な湘南スタイル」をクラブの哲学として掲げており、これは浮嶋敏前監督や山口智現監督のもとでも受け継がれた。


チョウ監督時代より磨き上げたハイプレスのみならず、浮嶋前監督や山口現監督のもとでは相手の出方や試合展開に応じて[5-3-2]や[5-4-1]での自陣撤退を選び、試合をコントロールしている。今季もJ1残留争いに巻き込まれているとはいえ、戦術の幅を広げて湘南スタイルを進化させた浮嶋氏と山口監督の手腕は称えられるべきだろう。


湘南ベルマーレ 山口智監督 写真:Getty Images

的確だった山口監督の人選や采配


正確無比なミドルシュートで自陣に引きこもる相手を攻略できる阿部と、得点パターンが豊富で、時折見せる強引なドリブルも魅力の町野が、途中出場からそれぞれゴールゲット。山口監督のベンチワークが冴え渡ったが、なかでも秀逸だったのが3センターバックの人選だ。


FC東京の3トップのプレスに晒されながらも、山本、杉岡大暉、舘幸希の3センターバックはビルドアップの起点として機能。特に右のセンターバックを務めた舘は、リーグ戦4試合ぶりとなる先発起用に応えた。


前半5分40秒以降の湘南の攻撃は、自陣でボールを受けた舘がレアンドロのチェイシングをいなし、右サイドへパスを繋いだことから始まっている。その後平岡へのスルーパスが繋がり、最終的にはタリクがペナルティエリアの手前からシュートを放っている。舘のビルドアップ能力や突破力の高さが窺える場面だった。9月7日の横浜F・マリノス戦(J1第25節)で失点に直結するボールロストをしてしまった同選手の復調は、チームにポジティブな影響をもたらすだろう。


湘南ベルマーレ FWウェリントン 写真:Getty Images

また、今節先発したウェリントンとタリクの2トップも、それぞれの持ち味を遺憾なく発揮。空中戦に強い前者が競ることで生まれるこぼれ球を、機動力のある後者が拾おうとする場面が度々見られたほか、長身のウェリントンはFC東京陣営のハイプレスに晒されていた湘南の最終ラインにとって、お誂え向きなボールの預けどころになった。


的確な人選で湘南に貴重な勝ち点3をもたらした山口監督。ハイプレスからのショートカウンターが強力なFC東京に対し、独力で相手のチェイシングをかわすことに長け、パスの精度も高い面々を3センターバックに据えたことが奏功した。今季のリーグ戦残り3試合でも各選手の特長をふまえつつ、ゲームプランに即したスターティングメンバー選びや選手交代を行えるか。これが同クラブの命運を握りそうだ。

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