「まったく違和感がない(笑)」新たな役割と、選手時代より増えた移動【中嶋一貴TGR-E副会長インタビュー前編】

2022年10月12日(水)7時12分 AUTOSPORT web

 2021年限りでレーシングドライバーを引退した、3度のル・マン・ウイナーにして4輪初の日本人世界選手権覇者、中嶋一貴。昨年末、その引退発表と同時にトヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ(TGR-E)の副会長に就くことが明らかにされ、“異色のセカンドキャリア”を歩むこととなった。


 1月の就任以来、一貴副会長はドイツ・ケルンをベースにWEC世界耐久選手権やWRC世界ラリー選手権の現場に赴き、さらにその合間には日本を4往復するなど、多忙な日々を送っている。


 2022年9月、WEC第5戦富士のために来日した一貴副会長に、新たな仕事内容やこれからのビジョンなど、じっくりと話を聞くことができた。


■多岐にわたる副会長の仕事


──1月に着任されてから、どんなお仕事をされているのですか?


一貴副会長:WECのレースの現場では、単純にレースチームの“脳みそ”が余分にあればあるだけ助かるところもあるので、いろいろな話を聞きつつ、ちょっとこことここを繋いだ方がいいなとか、コミュニケーションの部分を見るようにしていたり、レース中も気づいたことはいろいろな形で伝えるようにしています。


 一方でル・マンのようなビッグイベントでは、どちらかというとパートナー(企業)様向けの施策に関わる部分が多いですね。今回の富士に関しても、おそらくパートナー様向けの動きの方が大きくなるのかなと思います(※取材は富士戦の木曜日に実施)。


 また、TGR-EとしてはWRCも大きなプロジェクトのひとつですので、WRCにもこれまで3度行きました。そこではラリーを勉強しながらその魅力を伝えるお手伝いができればと思っていますし、グッドウッド(・フェスティバル・オブ・スピード)やル・マン・クラシックなど、若干外交的な部分での仕事もあります。


 TGR-Eの内部でも、トヨタ/日本との関係の中でいろいろなことが動いているので、その中で自分がコミュニケーションに入っていくこともありますし……そういうことをやっていると、日々意外と速く時間が過ぎていくな、と(笑)。


──そのなかで、日本にも何度か帰って来られてますよね。


一貴副会長:そうですね、(新型コロナに関わる出入国の規制が緩和され)行き来がしやすくなったこともあり、意外と帰ってきてますね。今回の富士もそうですし、前回はスクール(TGR-DCレーシングスクール)を個人的に見たかったのもあって別の仕事と合わせて帰って来たりとか、日本での仕事も結構あります。WEC、WRCのパートナーさんへのご挨拶というのもありました。

WEC富士でピットツアーのガイド役を務める中嶋一貴TGR-E副会長


──ドイツにいらっしゃるときは、“副会長室”があるのですか?


一貴副会長:副会長室、というわけではないですが、自分のオフィスはひと部屋いただいています。


──オフィスワークや会議といった部分は、一貴さんにとってまったく新しいお仕事ですよね?


一貴副会長:そうですね。そもそも、毎日決まった時間に起きて会社に行くということ自体が、まったく新しいことなんですが、ここまでは意外とちゃんとできてますね(笑)。……できているのかどうかは知りませんが、少なくとも会社にはちゃんと行っています(笑)。


──副会長になったことで、周りのスタッフの接し方が変わったと感じたりは?


一貴副会長:あまり変わらないと思いますけどね。とくにWECチームでもともと知っているメンバーは。まぁ、立場が変わって、多少言うことを聞いてもらえることが増えたような気はしますけど(笑)、どうなんでしょう。


 ただ、あっちこっちと移動が多く、意外とドイツにいる時間が少ないんです。もうちょっとドイツにいなきゃ、と思うこともあります。選手時代、とくにコロナの影響を受けた過去2年に比べると、移動の頻度は上がっていると思います。


──昨年末にインタビューした際には、「人のレースを見ることも純粋に好き」と楽観視されていましたが、改めてドライバーではない立場でWECの現場に行くことに、抵抗や違和感などはありましたか?


一貴副会長:想像していたとおり、まったく違和感がない(笑)。たぶん、(周囲に比べて)僕が一番違和感がないのではないかと思うくらいです。レース自体は、楽しんでます……と言うと怒られるでしょうけど、普通に外から見る立場に違和感はない。耐久レースって、そもそも(現役ドライバーでも)見ている時間が長いというのがあるのかもしれませんが。

WECのレース現場を見守る中嶋一貴TGR-E副会長


■「代打・オレ」の可能性は?


──WECの現場では、ACO(フランス西部自動車クラブ)やFIA、他のマニュファクチャラーとの会合に出席したりもするのですか?


一貴副会長:ACOとは、ありますね。他のマニュファクチャラーとの会合は……技術的な部分はパスカル(・バセロン/テクニカルディレクター)に任せています。ACOとは、あまり何とは言えない部分も多いのですが、いろいろと話はしています。


──BoP(性能調整)や技術面というよりは、シリーズとしての将来に関して、などですか?


一貴副会長:まぁ、ざっくり言うとそのような傾向の話ですね。


──ちなみに今回の富士では(リザーブドライバーの)ニック・デ・フリース選手は来日していませんが、不測の事態でレギュラードライバーが出場できなくなったときに、「代打・オレ」みたいなことはあるのでしょうか?


一貴副代表:オレが乗る、はないですね(笑)。準備もしていませんし、ヘルメットもここにはありません。実際、ひとり欠ける分にはレースができるレギュレーションだと思いますので。


──引退してから、ル・マン・クラシックには出場されましたが、それ以外でレーシングカーには乗られていないのですか?


一貴副代表:GT4にはちょっと乗りました。ニュル(ブルクリンク)のライセンスを取ったことがないので、それはちょっと取っておこうかなと、コソコソやっています(笑)。その最初のステップで乗ったクルマが、たまたまGT4だったというだけです。ニュルはこれまで、ちゃんと走ったことはなかったんです。


──では、来季はニュルのレースに出る方向で?


一貴副代表:いやぁ、あそこでレースをしたいかどうかというと……結構ハードルが高いなと思いますけど(笑)。(編註:その後、10月のNLS第7戦にGT86で出場)。


──ちなみにル・マン・クラシックに出られてみて、いかがでしたか。


一貴副代表:めちゃくちゃ楽しかったです(笑)。85C自体は、工場でちょっと転がして発進の練習をして、ル・マンの本番でトロフィーの返還をしただけ。ちゃんと走らせるのは初めてでした。ターボラグはすごかったですが、コーナリングとかブレーキングなどは思った以上にちゃんとしていて、普通にレーシングカーでした。最高速は270km/hとかじゃないですかね。エンジンも2リッターターボですから。

2022年のル・マンでは、スタート前のトロフィー返還セレモニーにトヨタトムス85Cとともに登場。また、同車両でル・マン・クラシックにも出場した


──お父様がル・マンでドライブされたクルマ、という部分に関して思うところはありましたか?


一貴副代表:皆さんが思うほどそこに何かがある、というわけではないのですが、やっぱりこういう機会をいただけて、父が乗っていて、自分と同い年でと、いろいろとご縁のあるクルマに乗せていただける、しかも関谷(正徳)さんと一緒にっていう部分では、本当に感謝しかないですね。舘(信秀)さんも来てくださって、本当に同窓会みたいで楽しかったです(笑)。


 とにかく出てるクルマだけで500台くらいあって、ピットだけではなくて裏のスペースも全部パドックになっていて、四六時中クルマが走っててガチンコでレースしているので、見ていて本当に飽きないんですよ。お客さんもものすごく多かったですし、僕は初めての経験でしたが、本当にすごいイベントだなと思いました。
(後編へつづく)

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