【コラム】「吹っ切れた」気持ちが生んだ2ゴール…三好康児が漂わせる“規格外の香り”
2017年10月12日(木)22時2分 サッカーキング
リーグ戦も含めて3カ月ぶりの先発を果たした8日のJリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦。ベガルタ仙台から奪った2ゴールには、まさにゴールへの渇望がにじんでいた。
森谷賢太郎から中村憲剛のかかとを経由したスルーパスに反応した29分の1点目。小林悠とエウシーニョを追い越して裏に抜け出していた。GKにはじかれたエウシーニョのシュートを押し込んだ49分の2点目。右で起点をつくった後、「こぼれてきたらいいな」と小さな可能性を信じてゴール前に詰めていた。「吹っ切れたというか、感じるままにやればいいのかな」と割りきってプレーしていた。
改めて振り返りたい。川崎の育成組織出身。14歳から年代別の日本代表に選ばれ続ける。167センチの小さな体をむしろ強みに転換し、利き足の左を駆使して大きな相手の間をすり抜ける。チームでは昨季の終盤に定位置をつかんだ、かにみえた。
が、監督が代わり、補強で前線の顔ぶれも変わった今季は出番が減った。5月のFIFA U−20ワールドカップで16強入りを遂げて戻ってくると、すでに攻守の骨格は固まっていた。「帰ってきた自分がポンと出られるかといえば、そうではなかった」。負傷も重なり、ベンチにすら入れない日々。目先の目標を失った感覚に襲われた。「一日一日を無駄にしないように」。折にふれて声をかけてくれる先輩たちの気づかいにも支えられ、自分と向き合った。
21歳以下の先発が義務づけられたルヴァンカップで、巡ってきた機会。苦しい時間が長かった分、「吹っ切れた」気持ちで臨めた結果だった。
ところでこの人。穏やかな表情と語り口とは裏腹に、思考回路はかなり貪欲、スケールが大きい。試合後は「3点取りたかった」との悔しさが2得点の喜びを上回った。後半早々、ドリブルで右から中に突破して左足シュートを放つ「オレの形」に持ち込みながら、好機を逃していたから。
1997年3月の早生まれは東京オリンピック世代。春先にインタビューした時、水を向けると、こう返してきた。「この年代に生まれて恵まれているし、目標の一つ。でも、そこだけじゃない。やっぱり、A代表としてワールドカップで活躍するのがサッカー選手にとっては一番の目標」
海外志向は強い。もう、若くはないとも思っている。「20歳になっちゃったなって。U−17のワールドカップで対戦した中で、プレミア(イングランド)でバリバリ出ている選手もいますから」
世界の中の日本の立ち位置、各年代で肌で感じてきた。なかなか個では勝てない。日本の持ち味は組織力であり犠牲心。まとまって挑むしかない。わかったうえで、それでも個で凌駕できないかと模索する。
「海外サッカーを映像で見ていると、どうしても(自分と同じ)小柄な左利きに目がいっちゃうんですよ。ボールの持ち方とか、ドリブルの仕方とか。メッシは異次元ですけどね」
勘どころを押さえつつ、どこか規格外の香り。適度なはみ出し加減がいい。
文=中川文如