J2復帰の大宮アルディージャ、“レッドブル入り”による期待、そして不安

2024年10月14日(月)18時0分 FOOTBALL TRIBE

大宮アルディージャ 写真:Getty Images

10月13日に開催された明治安田J3リーグ第32節で、首位の大宮アルディージャはホームのNACK5スタジアム大宮に福島ユナイテッドを迎え、3-2で勝利。2位以上を確定させ、6試合を残して来季2025シーズンのJ2復帰を決めた。19日、ホームの第33節FC今治戦(現2位)引き分け以上で、J3初優勝が決まる。


前半32分、コーナーキックの折り返しをDF浦上仁騎が押し込み先制するが、直後、福島FW森晃太に同点弾を浴びた。前半アディショナルタイムにMF泉柊椰の勝ち越しゴールが決まり、折り返すと、後半12分にはMF石川俊輝のゴールで引き離す。終了間際、後半26分から途中出場した福島FW澤上竜二にゴールを許したものの逃げ切り、昇格を決めた。


圧倒的な強さで2024シーズンのJ3を戦い、6試合を残しての昇格決定もJ3最速で、第32節を終えての勝ち点は「76」。2015シーズンのツエーゲン金沢が記録したJ3記録の「78」を上回ることは確実だ。


そんな大宮の今夏からの運営体制の変化と、それに伴う期待と不安について深掘りしたい。




マリオ・ゴメス氏 写真:Getty Images

今夏“レッドブル入り”した大宮


大宮といえば8月、オーストリアの大手飲料メーカー「レッドブル」が、NTT東日本子会社の「エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社」から、大宮とその女子チームである「大宮アルディージャVENTUS」の全株式譲渡契約を結び、Jリーグ史上初である外資系企業への身売りが実現したことで話題となった。


ちなみに、NTT東日本はトップスポンサーとしてのバックアップは続け、来季以降もNTT東日本からの出向組である佐野秀彦社長と、元日本代表FWの原博実氏のフットボール本部長の続投も併せて発表されている。しかしながら、実質的には、レッドブルのサッカーテクニカルダイレクター(TD)で、元ドイツ代表のレジェンドでもあるFWマリオ・ゴメス氏主導で運営されていくことになるだろう。


佐野社長と原氏をクラブ首脳として名前を残したのは、“Jクラブ経営1年生”であるレッドブル側が、日本でのクラブ運営のノウハウを、両氏から引き継ぐ側面もあるだろうが、いきなり経営陣をレッドブル一色で固めることによる“乗っ取り感”を避けたい思惑も見え隠れする。


電電関東サッカー部を前身とし、1969年に創立された半世紀以上の歴史ある同クラブを、世界を席巻するマルチクラブオーナーシップの最先端を行くレッドブルが買収したニュースは驚きとともに伝えられた。大宮サポーターは長年、社長が交代する度に、NTT東日本からの“天下り人事”に辟易していたこともあってか、喜びと期待に包まれた。




RBライプツィヒ 写真:Getty Images

世界で8クラブ目、レッドブル運営への期待


レッドブルは、2005年にオーストリアのザルツブルクを買収したことを皮切りに、ドイツ1部ブンデスリーガのRBライプツィヒ、米メジャーリーグサッカーのニューヨーク・レッドブルズ、オーストリア2部に在籍するザルツブルクのセカンドチーム、FCリーフェリング、ブラジル1部のレッドブル・ブラガンチーノとそのセカンドチームのレッドブル・ブラジル、2008年に創立されたが2014年に解散したガーナ1部のレッドブル・ガーナを所有。大宮は世界で8クラブ目のレッドブル所有クラブとなる。


2020年のJリーグ規約改正で、外資系企業が日本法人を設立せずに買収できることになって以降、この規定が適用された例は初めてだ。J3を圧倒的な強さで駆け抜けつつあるとあって、サポーターは当然ながら、“レッドブルマネー”とクラブ運営の手腕に期待しているだろう。中には2年連続昇格で、一気にJ1入りを夢見ているサポーターもいるのではないだろうか。


そんな期待を感じ取ったのか、10月12日の記者会見で、ゴメスTDは「2025年は新体制への移行期間」「3〜4年でJ1昇格」「2030年を目途にタイトル争い、並びにACLエリート出場」を目標とし、同時に「大宮アルディージャが築いてきたものをリスペストする」と語り、大風呂敷を広げることはなかった。


ゴメスTDはシュツットガルト在籍時、日本代表MF遠藤航(リバプール)とFW浅野拓磨(マジョルカ)とプレーした経験がある。日本人のメンタリティーに感銘を受け、それがレッドブルのフィロソフィーにマッチしたと語ったが、同時にJリーグにはいわゆる“ビッグクラブ”が存在せず、群雄割拠であることも良く研究したことも窺い知れる。我々日本人よりも“Jリーグは甘くない”ことを知っているかのようだ。


NACK5スタジアム大宮 写真:Getty Images

大宮を買収した要因は?


レッドブルが大宮を買収した要因としては、「チームや町に大きなポテンシャルと将来性を感じた」と語られた。確かに新幹線が止まるターミナル駅から徒歩圏内にホームスタジアムがあり、スタジアムへ向かう道中には、武蔵一宮氷川神社の参道や境内を通るというロケーションは、いかにも外国人には受けそうで、インバウンド客も見込める。


加えて、NACK5スタジアム大宮は1960年に建造された日本初のサッカー専用球技場で、1979年のワールドユース日本大会(現FIFA U-20ワールドカップ)では故ディエゴ・マラドーナ氏が、初めてアルゼンチン代表のユニフォームを着てプレーした歴史あるスタジアムだ。


もちろん、こうした環境も、レッドブル側が買収に至った大きな要因ではあるだろう。しかし、J2昇格を決めた福島戦のスタジアムは、1万1274人もの観客動員があり両ゴール裏とバックスタンドは満員だったが、メインスタンドには空席も見られた。


「勝てば昇格」の大一番でチケット完売とならなかったという事実が、このクラブの現在地を示しているとも言える。(※同スタジアムの最多観客動員は、2016年5月8日のJ1第11節の浦和レッズ戦の1万3880人/0-1で浦和の勝利)




大宮アルディージャのサポーター 写真:Getty Images

チーム名やチームカラー変更への懸念


また、チーム名やチームカラーを変更が加えられるのではないかという懸念も指摘されている。


レッドブルがスポンサーとなったチームはサッカーに限らず、レーシングチームにおいても、赤をチームカラーとしている。米メジャーリーグサッカーのチームはその名前を「レッドブルズ」とし、現在、企業名や商品名をチーム名とすることを禁止しているドイツにおいては、RBライプツィヒと名乗るにあたり、Red Bullと頭文字が同じ造語の「Rasen Ballsport(=芝の上でするスポーツ)」という“裏技”を採用している。


ゴメスTDは「アルディージャの名前は残す」と語ってはいるが、そこに「RB」という文言が加わることは、もはや決定事項だろう。実際、運営法人の社名は「RB大宮株式会社」とされた。


チームカラーであるオレンジは、隣接する武蔵一宮氷川神社の楼門の色から取られたのが由来だが、これも近い未来、赤に変える日が来るだろう。同市内のライバルの浦和のチームカラーと被ったとしてもだ。これが理由で浦和との関係が激化したとしても、レッドブルのチームブランディングの1つとして織り込み済みだろう。




三木谷浩史氏(左)アンドレス・イニエスタ(右)写真:Getty Images

大宮が本当に変われるかどうか


オーナーが代わってチームカラーに手が加えられた例として、2004年にヴィッセル神戸を買収した楽天率いる三木谷浩史氏が、自身の最終学歴であるハーバード大学のスクールカラーであるクリムゾンレッドに一新したことが挙げられる。当初は従来の白と黒のストライプに親しんでいた古参のサポーターから反発を招いたが、いつしかそうした声も止んだ。


その後、神戸は「バルサ化」を掲げ、元スペイン代表FWダビド・ビジャ(2019)やMFアンドレス・イニエスタ(2018-2023)ら大物外国人の招聘と天皇杯制覇、そしてリーグ優勝と階段を駆け上り、今ではJの強豪の1つとなったことは言うまでもないだろう。要は、使うべきところにお金を使い、チームを強化し、有名にしてさえくれれば、チームカラーなど些末な問題なのだ。


おそらくは今後数年で、大宮は劇的に変わっていくだろう。福島戦も、終始主導権を握っていたものの、終わってみれば1点差の辛勝だった。このメンバーでJ2を戦えるのかと聞かれれば疑問だ。来季のJ2開幕戦ではガラリと選手が入れ替わることが予想され、いずれはフロントが全員外国人となる可能性すらある。選手や首脳陣のみならず、サポーターもその急激な変化を受け入れ、信じて付いて行けるかが、大宮が本当に変われるかどうかの分水嶺となるだろう。

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