全日本F3とスーパーフォーミュラを戦うB-Max組田龍司会長が感じた欧州と日本の若手フォーミュラの違い/独占インタビュー

2019年10月22日(火)9時2分 AUTOSPORT web

 10月10〜13日にイタリア・モンツァで開催されたユーロフォーミュラ・オープン(EFO)第9大会、モトパークのピットガレージには全日本F3選手権や全日本スーパーフォーミュラ選手権を戦うB-Max Racing Teamの組田龍司会長とチームに所属する若手スタッフの姿があった。


 B-Maxは2019年からモトパークとのコラボレーションチーム『B-Max Racing with motopark』としてスーパーフォーミュラに参戦しており、第3戦スポーツランドSUGOではルーカス・アウアーが3位に入りチーム初表彰台&初得点を達成。第6戦岡山ではハリソン・ニューウェイが3位、アウアーが5位に入るなど活躍し、最終戦鈴鹿を前にしたチームランキングでは6位につけている。


 今回は、チームを率いる組田会長にモンツァ訪問の目的や、2019年シーズンのふり返り、そして2020年シーズンへの展望を聞いた。


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——モンツァ訪問の目的を教えてください。
組田龍司(以下、組田):「シーズン当初からモトパークと我々は人材交流を含む技術提携をしています。今回B-Max側からこうしてヨーロッパの現場を初めて訪れました。エンジニア1人とメカニック4人を連れてきて、こちらでの仕事のやり方やプロ意識を実戦で学んでもらいたかったんです」


「また、僕自身もヨーロッパでの仕事のやり方やモトパークの設備を見たかったし、EFOドライバーのレベルも知りたかった。もちろん、佐藤万璃音選手をはじめとする日本人ドライバーの応援も兼ねています。決勝レース1では日本のドライバーが表彰台を独占し、とても感激しましたよ」


——モトパークと技術提携し始めた当初、日本におけるB-Max内の雰囲気はいかがでしたか?
組田:「最初は仕事のやり方、進め方、組み立て方がまったく違うので、すごく戸惑いを感じたとともに、お互いの衝突、モトパーク側はモトパーク側で日本のやり方に対して疑問や苛立ちがあったと思います。B-Max側も同じで、なかなか噛み合わない日々が続きました」


——具体的な例を挙げていただけますか?
組田:「日本ではスタッフひとりひとりの守備範囲が広い。エンジニアもメカニックも、いわゆる分業化されていないんです。とくにメカニックは、ひとりひとりがかなりの部分でいろいろな作業ができる。それが日本では“仕事ができる人”と見なされています」


「でも、モトパークの考え方は分業化ありきで、このパートはこの人、このパートはこの人と、それぞれのプロフェッショナルが仕事をはっきりシェアしてこなしています。おのずと時間軸のとらえ方や時間の使い方が違ってくるんですよ」


——いわゆる働き方改革が必要でしたね?
組田:「ええ。また、エンジニアとメカニックの立ち位置の違いもありました。誤解なく言えば、モトパークではエンジニアの立場が上とはっきりしています。エンジニアが指示するまで、メカニックは文句を言わず黙って待っていなさいというのがモトパークのやり方です」


「でも、日本ではエンジニアもメカニックも平等という意識があり、できるだけメカニックに負担をかけないよう、エンジニアは彼らを待たせないようという気遣いがある。でも、モトパークにそれは一切ない。そのあたりは非常に大きな隔たりがありましたね」


——隔たりはどのように解消されましたか?
組田:「僕の立場で言えば、これまで知らなかったことをやる状況。ウチのメンバーのなかにはヨーロッパのチームで仕事した経験のある人もいましたけれど、大多数は大勢の日本人のなかに外国人が少し入ってきた、あるいは海外ドライバーが来たという経験くらいしかありませんでした」


「つまりチームとチームがコラボレーションを組み、エンジニア全員が外国人とか、チームのいちばん上で采配を振るうのが外国人とか、そういう経験は過去に例がなかったんです。誰も経験したことがない領域へ踏み込んだわけです」


——組田さんはその状況にどう対処されました?
組田:「苛立ちを見せていた日本人を説得しました。これは異文化交流なので、最初からうまく行かないのは当たり前じゃないですか? とね。イライラしたり不満を持ったりするのではなく、どうやればうまく交われるのかを考えませんか? と伝えました。僕は中和剤、緩衝材としてチームの中で一所懸命に立ち回りました」


——日本のみなさんは納得されましたか?
組田:「納得してはいないと思います。でも、やり方が違う、このやり方で結果を出していくしかないと言いました。もう、決まったことだからと。ある意味で僕は日本人側に妥協を強いたんです」


「ひとつの容器に水と油が入っていて、一所懸命に混ぜようとしても、しばらくすると上は油、下は水と分かれてしまう。結局、これは交わることがない。ただ、お互いに理解し合って不満を持たないというか、こういうやり方もあると受け入れるようになってきたと思います」


「とにかくチームとして結果を出せば、そうした我慢もできるようになりますね」


——我慢というより切り替えでしょうか?
組田:「そうかもしれない。結果が出るということは、そこへ至るまでがどうであれ、やっていることは正しいという証明にほかなりませんから。このやり方が正しいと思うことができれば、これまでとは違うやり方でも従うことができます。なにしろ、我々は結果を出すためにレースをやっているわけですから」


——そうした経緯を経て、今回は組田さんとB-Maxの社員5名がモンツァへ来て、実際にスタッフの一員として仕事しました。ヨーロッパで初めてモトパークの仕事ぶりをご覧になって、どのような印象を持ちましたか?
組田:「技術的な面では、最初からヨーロッパのメカニックが優れていて日本のメカニックがダメなどとは思っていません。それはエンジニアも同じ。技術に関して、ヨーロッパが上で日本が下ということはない。あくまでやり方の違いだけです」


「これは日本に居てもこちらへ来ても同じ印象でした。やっていることは同じ。ただ、手順や役割分担はこちらではより明確でした。ヨーロッパの人たちだけでやっているから、すっきりと分かりやすい形になっていますね」


■「ユーロフォーミュラ・オープンと比べても全日本F3は見劣りしない」ものの「取り巻く環境は違う」


——レースに対する思い入れの違いは感じましたか?
組田:「個人的な感想では、決勝レース1で佐藤万璃音選手が勝って、2位と3位も日本のドライバーで表彰台を独占し、僕はうれしい気持ちを抱えて表彰式を見に行きました」


「そのとき、モトパークのスタッフが心の底から自分たちのドライバーの勝利を喜んでいたんです。これは気性の違いかもしれないけれど、日本人はそういう場面でも控えめかな。でも、こちらの人は“やった! やった!”と全身で喜びを表していて、自分も競技に参加しているという意識を爆発させていて、これは良いなあと思いました」


——ほかに日本とヨーロッパの違いを何か感じましたか?
組田:「まず、モンツァを訪れて感じたのは、全日本F3選手権はEFOと比べても決して見劣りしないレースのレベルにあるということ。ドライバーのレベルは、ジェントルマンを除けば日本もまったく見劣りしません。トップレベルで争っている若手ドライバーの能力は変わらないですね」


「日本のドライバーが決勝レース1で表彰台を独占したことでもそれは証明できると思います。ただ、それを取り巻く環境は違う。日本でもヨーロッパと同じような舞台を整える必要はあると思います。日本の環境は残念ながら立ち遅れていると感じています」


——チームの仕事面ですか? オーガナイザーやプロモーターの仕事面ですか?
組田:「どちらかと言えば、オーガナイザーやプロモーターの演出に足りない部分があるのではないでしょうか。たとえばケータリングを含めたホスピタリティ。ジュニア・フォーミュラへ参戦するドライバーのスポンサーや親御さんがサーキットでくつろげる場所の提供は、やはり必要と実感しました」


「日本はそこまで行き届いていない。そういうものをひとつのパッケージのなかでしっかりとやっていかないと、こういうレベルにはならないと思います」


——チームにとってドライバーは大切なお客さんですからね。
組田:「ジュニア・フォーミュラのドライバーは、ほとんどが親御さんの資金で走っているし、みんな夢を追いかけているので必死です。いかに子どもたちをリラックスさせて、いい環境でレースさせるかということに対しては神経をとがらせています。クルマだけ良ければいいだろう? という感覚はここにはありません」


——日本のプロモーターやオーガナイザーはそうした面にも気を遣って欲しいですね。
組田:「ジュニア・ドライバーの多くは、育成ドライバーとしてどこかの自動車メーカーの色が付いているのかもしれない。でも、基本的にドライバーの支援者は親族や親御さん、個人で持ち込むスポンサーさんであり、彼らの存在も忘れてはいけません」


「その人たちの居場所も用意しなくちゃいけないはずだけれど、それができているチームは日本にはほとんどありません」


——紆余曲折ありながらも、今季は着実に成績を残したB-Maxの来季の体制が気になります。モトパークとの人材交流を含めた技術提携は継続されるとして、ドライバー・ラインアップも含めてどのような見通しですか?
組田:「現在はモトパークとのコラボレーションなので、僕は彼らから推薦されるドライバー、レベルの高いドライバーが日本に来て欲しいです。今年の全日本F3では起用したサッシャ・フェネストラズが幸運にもチャンピオンを取りました」


「でも、非常に接戦だったし、日本にはトムスに代表されるように強力なチームも存在します。来年もそういった強豪といい勝負、あるいは勝利を目標とするなら、相当次元の高いドライバーじゃないとと太刀打ちできません。そこはモトパーク代表のティモ・ランプケイルと話しあって、勝つ力のあるドライバーを送ってくれと要望しました」


「その先には、日本のジュニアフォーミュラで勝ったらそのままスライドしてスーパーフォーミュラに乗ってもらえるような絵を描きたい。そこまでの2、3年の絵が描けるドライバーが来てくれるとうれしいです」


——スーパーフォーミュラの来季ドライバーも気になります。
組田:「B-Maxはレッドブル・ジュニアチームという位置づけもあるので、1台はレッドブルの意向が強く反映されたドライバー選定になると思います。僕たちだけで決められるものでなく、レッドブルが考えているんです」


「もう1台には、本当は全日本F3で我々が育てたサッシャに乗ってもらいたい。でも、彼がどのような絵を描いているのかは分からないので未定です。いずれにしても、戦闘力のあるドライバーを起用します」


「まだ最終戦が残っているけれど、もし今年勝てないままで終わったとしたら、来年こそは初優勝と考えているので、それを実現できるドライバーが欲しいです」


——スーパーフォーミュラにしてもジュニアフォーミュラにしても、日本のドライバーが乗る可能性はありますか?
組田:「うーん……。レベルの高い日本のドライバーは、みんな自動車メーカーの色が付いている。B-Maxはあくまでプライベーターの立場です。そこへレベルの高い日本のドライバーが来るとはなかなか考えにくいんですよね」


「ただ、過去には関口雄飛のような例もある。そういうドライバーと一緒にワークス勢と戦いたいという思いは、F3を始めたときから持っていますよ」

モンツァを訪れたB-Max組田龍司会長
スーパーフォーミュラ第6戦岡山 B-Max Racing with motoparkの記念撮影
全日本F3選手権の2019年のチャンピオンを獲得したサッシャ・フェネストラズ(B-Max Racing with motopark F3)


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